調査やフィールドワークについての中心的な議論の一つは, “調査する側-される側の問題” であろう.この問題は, 単に倫理の問題ではなく, 方法論, 認識論の問題にまで広がる.この問題をどう考えればよいか.本稿では, フィールドワークがそもそも多義的であることを基盤に, その多義性から, 社会的に意味のある実践を引き出す方法として, 市民による調査, を考える.市民による調査は, そうした方法論上の要請からだけでなく, むしろ, 市民活動などの実践からも必要とされている.
市民調査は, 職業的研究者による研究の簡易版ではなく, 独自の特徴と意義をもったものである.職業的研究者の調査研究が, 厳密な方法論の上に立って行われ, 学会やディシプリンへの貢献を目指すのに対し, 市民による調査は, さまざまな手法を, 市民の視線で組み直すことによって, 具体的な問題発見と解決, そして, より広い実践的な説得力, を目指す.本稿では, そうした市民調査の特徴と課題について論じるとともに, 市民調査を社会的な力とするためのしくみについても考える.
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