日本の外国人技能実習制度は創設以来, 事実上のゲストワーカー制度として, 人手不足にある企業や産業に労働力を提供している. 技能実習生の雇用に関する先行研究の多くは, この制度を積極的に利用する地域産業に焦点を当て, 技能実習生の導入経緯や就労実態を明らかにする. しかし一方, この制度の利用に地域差はあるのかという問いや, その差を生み出す要因は何かという問いは, これまでほとんど検討されてこなかった. 技能実習生に対する労働需要を形成する要因の十分な理解を目指し, 本稿では水産加工業を例にこれらの問いを考察する. 本稿の分析は次のことを明らかにする. 第1に, 2013年漁業センサスを用いた分析によると, 技能実習生の導入の程度には大きな地域差がある. 第2に, 近畿地方のA町で水産加工業経営者らに行ったインタビュー調査によれば, 技能実習生の導入を抑止するメカニズムとして2つの相互関連する要因がある. (1) 限定的かつ不安定な操業を行う企業は柔軟性ある労働力として地元の女性パート従業員を選好しており, (2) 他の就労機会が限られていること, また生産の性質上, 経営者が従業員の勤務上の要求に譲歩しやすいことが, 地元労働者の確保を可能にしている. これらの結果は, 職種の特性に加えて, 生産活動の形態が技能実習生に対する需要を形成する要因であることを示す. 少子高齢化時代の技能実習制度と地域産業の存続に関する暗意もまた論じる.
本稿では, 二国間経済連携協定に基づく外国人看護・介護職に対して行った調査のデータをもとに, 外国人介護職の日本での受入れにおける課題を取り上げることを通して, 今後, 介護資格での就労者, 介護技能実習生を受入れる際に発生しうる課題を予測する. 介護職とは高齢化に伴い必然的に起こる, 医療モデルから生活モデルへの健康観の転換の過程で誕生したが, 依然医療モデルが席巻しているアジアの国の人々にとって, 介護職は, 医療モデルに基づいて地位を確立してきた看護師と比してdegradeされるものとして捉えられることがしばしばある. そのために, 外国人介護職らは, 生活モデルに基づいた介護職の専門性を疑問視し, 日本での仕事に葛藤し, 仕事に疲れて帰国を選ぶ者が少なくない. このような現状を踏まえると, アジアにおける健康観の転換が進まない限り, アジア出身の介護職者らが日本の国家資格を取得しても, 長く介護福祉士として日本に定住することを期待することは難しい. 本稿はアジアからの介護人材の確保において, 介護関連の技術移転も視野に入れた介護人材の循環を提唱する. ここでは, 単に介護労働者の頭数をそろえる短期的なビジョンよりも, 日本人も含め介護職者全体の専門性と社会的地位の向上を前提として, 医療モデルを融合した生活モデルを, 新しい日本ブランド, KAIGOとしてアジアに提供する長期的なビジョンをもつことを提案する.
本稿は, 2017年に開始された, 神奈川県, 大阪府, 東京都, 兵庫県の国家戦略特区での「外国人家事支援人材」の受入れに関して, 移民論における女性移住家事労働者に関する先行研究に位置づけたうえで, マクロとメゾレベルでの制度の成立過程と諸アクターの関係をミルズの権力エリート論を援用しながら分析することで, 日本の外国人労働者受入れ制度における特異性とステークホルダーの権力集中の様相を論じている.
2014年の「日本再興戦略2014改訂」においては, 「女性の活躍」のためにと導入された「外国人家事支援人材」の受入れ制度であるが, 成立過程において当初は「高度人材」受入れのための「生活インフラ」として発議され, 施行後は介護保険外の生活支援分野にも拡大することが想定されている. ガバメントとは異なる, 一部の新たな権力エリートが政策策定過程と施行を担うガバナンス型の移民政策では, 従来の外国人受入れと大きく異なる点がある. 第1に, 国際的競争力強化のため「生産領域」に直接働きかける経済特区での生産労働部門での外国人労働者受入れとは異なり, 経済的に成熟した国家におけるさらなる技術革新と経済振興による競争力強化のための再生産労働導入であるという点である. 第2に, 単純労働は受け入れない方針にもかかわらず家事労働者を受け入れることは, 受入れ政策の変更あるいは日本における再生産労働者, 家事労働者の位置づけを変えていく転換点となる可能性を含んでいるのである.
本稿では, 1980年代以降の日本における在留資格のない移住者をめぐるカテゴリーの変遷を跡づけることによって, 「不法滞在者」カテゴリーが支配的なカテゴリーとして定着する過程およびその帰結を明らかにする.
新しい移住者の来日が増加した1980年代, 彼・彼女らは, 在留資格の有無ではなくジェンダーや職業の区別にもとづき「ジャパゆきさん」や「外国人労働者」と呼ばれた. しかし, 1990年の入管法改定によって, 外国人労働者のなかに合法/不法という区分が持ち込まれた. くわえて「不法滞在者」という区分が警察によって生み出され, 「不法」と名指された者は「犯罪者」としての意味を帯びるようになった. その後, この「犯罪者」としての「不法滞在者」というカテゴリーは, 対抗的カテゴリーとのせめぎ合いをともないつつもさまざまな領域に浸透し, 正統化され, 自明性を帯びるようになった. こうして今や, このカテゴリーの自明性は, 「不法滞在者」排除の実践を支える一方で, その排除が当該カテゴリーの自明性をより強化するという形で相互規定している.
同時に, こうした「不法滞在者」カテゴリーの普及は, 「外国人労働者の増加による治安悪化」という根拠なき不安を増幅させ, それが結果として移民政策の確立を困難にさせるという帰結をもたらしてきた.
近年熾烈化していた「高度人材をめぐるグローバル競争」は, ナショナリズムの高まりから陰りがみられ, 各国で受入れの門戸が徐々に狭まりつつある, しかし日本においてはこうした収縮方向の「制度的同型化」はみられず, 急速に進む少子高齢化と労働力不足を背景に高度人材の受入れ政策が逆に深化している. 政府は2012年にポイント制を導入し, 「高度人材」として認定された外国人に様々な優遇措置を付与することで受入れを推進している. 一方, 高度人材および専門人材 (専門的・技術的分野の外国人) の数は拡大しているが, 他の先進諸国と比較するとまだ数は少なく, 来日した人材の流出も続いている.
本稿は, 「制度的同型 (institutional isomorphism)」および「非移住政策 (nonmigration policies)」をキー概念に, 開放的な制度の「模倣的同型化」が結果としての収斂につながっていない要因を社会的・経済的・組織的・制度的な角度から分析する. また国家戦略特区による「外国人受入れの地域化」等, 地域のニーズに沿った新しい人材受入れ政策の展開を俯瞰しつつ, 今後の研究課題を提示する.
移民の教育達成と階層分化に関する研究は, アメリカでは第二世代が成長した1990年代以降発展を遂げ, 人的資本に加えてエスニックな連帯と家族関係という社会関係資本から説明されてきた. 日本でもニューカマー第二世代は大学進学年齢に達しているが, エスニックな社会関係資本は乏しく, アメリカより不利な状況にあると想定される. 2010年国勢調査データをみると, 日本籍では45%が大学に通学しているが, フィリピン, ブラジル, ペルー籍では1, 2割前後にとどまっている. これらの国籍では親世代より学歴が低下しており, 「第二世代での低落」が日本でも生じていた. 他方, ベトナム籍では親世代より学歴が顕著に上昇する「第二世代の優位性」がみられ, アメリカと同様の集団間分岐が進んでいた. 筆者らの調査によるアルゼンチン系とペルー人系の若者79人のデータを分析すると, 義務教育を受けた期間が進学を規定するという従来の知見とは異なり, 親の学歴と生活の安定が大学進学に有意に関係していた. これは, 特別入試の利用という学校制度側の要因が進学に関わるためである. 第二世代の大学進学は, 入試のあり方によって規定されるところが大きく, 制度設計の問題として捉える必要がある. 大学教員たる社会学者も, 移民二世の大学進学の問題を当事者として考察すべきゆえんである.