社会学評論
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60 巻, 3 号
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特集:グローバリゼーション再考
  • 川崎 賢一, 樽本 英樹
    2009 年 60 巻 3 号 p. 326-329
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
  • 個人,中間集団,そして国家
    油井 清光
    2009 年 60 巻 3 号 p. 330-347
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
    本稿は,グローカル化の下での「複数の第2の近代(multiple second modernities)」を考えるための理論枠組みと基本的な留意点を検討することを目的とし,その事例として主に「日本」を扱う.そのため,「個人」―「中間集団」―「国家」という3者関係の,個々のローカリティによって異なるパタンという主題を補助線として措定し,現代におけるその変容を検討する.以上をとおしてグローバル化と社会学理論という問題を,一定の角度から検討することを,含意として試みる.
    近代社会に内在的な構造的緊張は,上記3者関係の,個々の地域における制度的パタンにしばしば表現される.基本的な分析枠組みとして,グローカル化論と複数の近代論との異同の分析と両者の節合を検討し,上記3者関係の「西欧」「アメリカ合衆国」「日本」それぞれにおける類型化を試みる.現代社会においては,「個人性」(個人でなく)―「媒介ネットワーク」(中間集団でなく)―「変容する国家」(国家でなく)の3者関係のパタンとしてそれは表現される.複数性の中での個々の地域の個体性を観察するためには,この3者関係の制度的構造だけでなく,それをさらに規定する集合化/個人化の基層的論理をも検討する必要がある.
    以上の諸問題を「日本」の場合を焦点として考察し,グローカル化の下の「複数の第2の近代」の1つとしての現代日本について,その歴史的・文化的個体性をふまえて分析する.
  • 欧米先進諸国における新たな「ネーション・ビルディング」の模索
    佐藤 成基
    2009 年 60 巻 3 号 p. 348-363
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
    1990年代以後,欧米先進諸国の移民統合政策が変化してきている.それまでの「デニズンシップ」や「多文化主義」に傾斜した政策が後退し,「統合」という概念により重点が置かれるようになっている.それは一見,「グローバル化」時代のトレンドと矛盾するように見える.本稿は,このような最近の変化を,19世紀以来の国民国家形成とグローバルな移民の拡大との歴史的な連関関係のなかで考察してみる.国民国家は,19世紀以来200年間のグローバルな変容のなかで形成/再形成され,またグローバルに波及してきた.そのようななかで国民国家は,移民を包摂・排除しながらその制度とアイデンティティを構築してきた.本稿は,その歴史的過程を明らかにしたうえで,最近の欧米先進諸国の「市民的」な移民統合政策への変化が,「異質」なエスノ文化的背景をもった移民系住民を包摂するかたちで国民国家を再編成しようとする,新たな「ネーション・ビルディング」への模索であるということを主張する.最後に,こうした最近の欧米先進諸国における変化から日本の状況を簡単に検討する.
  • フィリピンから見る「技能化」傾向からの考察
    小ヶ谷 千穂
    2009 年 60 巻 3 号 p. 364-378
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
    グローバリゼーションを「時間と空間の圧縮」と考えるとき,人の国際移動はその「圧縮」のひずみやねじれを観察するうえでの1つのバロメータとされてきた.金やモノの移動に比べて,もっとも「動きにくい」とされる「ヒト」の移動は,グローバリゼーションの中での「国民国家」の境界を揺るがすと同時にそれを再構築する動機づけともなってきている.中でもアジアを中心に見られる「移動の女性化(feminization of migration)」は,グローバリゼーションの多元性――国家,市場,世帯の境界の再編成とそこでのジェンダー関係の再編成――を端的に指示している.「再生産労働の国際分業(division of reproductivelabor)」「ケア・チェイン」といった分析枠組みが提出されてきた中,2000年代に入って,さらに再生産労働部門における国際移動が,国家・市場・世帯のせめぎ合う「グローバル・サーキット」(Sassen 2002)の中で,新たに「技能化」という傾向をもつようになってきているのではないか.本稿では,こうした問題関心に基づき,アジアにおける女性の国際労働移動の諸相から,グローバリゼーションについて再考する契機としたい.
  • 文化的グローバリゼーションの陰画としての自治体文化政策
    友岡 邦之
    2009 年 60 巻 3 号 p. 379-395
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
    文化におけるグローバリゼーションの進展の中で,日本の地方における文化的活動と鑑賞の機会はむしろ取り残された状況にある.社会学の研究動向としても,そうした地域にあって芸術的あるいは文化的とみなされる表現を,身体感覚を伴って経験できる機会を提供するための制度のあり方は十分に検討されてこなかった.このような文化政策論的な問題は,民衆文化や民族文化をめぐる文化政治学的な現象に焦点が当てられがちな文化社会学の枠組みでは重視されてこなかったのである.その一方で,地域づくりの現場では文化的資源を活用した都市計画が注目を浴びている.一部の都市はグローバルなレベルで文化的資源を調達し,創造的階級と呼ばれる人材を引き付け,それをさらなる都市発展に結びつけようとしている.こうした取り組みに成功する都市とそれ以外の地域との文化的環境の格差は,拡大する傾向にある.このような状況を踏まえるなら,いったいグローバリゼーションの時代における文化的多様性とは何なのか.本稿では,これを地域社会の多様性・固有性という問題に焦点を当てて論じる.
  • アジアバロメーターのデータ分析から
    園田 茂人
    2009 年 60 巻 3 号 p. 396-414
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
    東アジアのグローバル化を論じる際に,文化,とくに食文化の変容に焦点が当てられるのは稀で,特定の料理がどのように受容されるにいたるかを研究した例は少なくないものの,各地でどのような食が好まれているかを分析した実証研究は皆無に等しい.
    そこで本稿では,こうした研究の間隙を埋めるべく,アジアバロメーターの2006年と07年のデータを利用し,東アジア14の国・地域における食の嗜好を分析してみたところ,D. ヘルドのいうグローバリスト的視点,伝統論的視点,変容論的視点のすべてに適合的な事例がみつかり,個々の国・地域や料理の歴史・特徴によって,グローバル化のインパクトは一様でないことが明らかになった.また,総じてグローバル化にさらされることで雑食化の傾向は助長されるものの,こうした傾向がみられない国もあり,一般化がむずかしい状況が確認された.
投稿論文
  •  
    木村 至聖
    2009 年 60 巻 3 号 p. 415-432
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,「産業遺産」という概念の出現を転回点として,産業革命以降の近代化の表象がいかに変容したのか,そしてとりわけ地域社会の住民にとって,その新しい表象はいかなる可能性と困難をはらむのかについて検討することである.
    今日,地域社会はグローバリゼーションとネオリベラルな構造改革をうけて,かつてない苦境に立たされている.なかでも,2007年に財政再建団体に指定された夕張市にみられるように,炭鉱の閉山によって主要産業を失った多くの旧産炭地は,企業誘致にも観光開発にも行き詰まり,コミュニティ解体の危機に瀕している.産業遺産はこうした旧産炭地において,最後に残された地域資源として注目されつつある.
    こうした状況において,産業遺産はいかに表象されるのか.本稿では,「産業遺産」という概念の導入と並行してさかんになりつつある,地域社会の住民自らの手による産業遺産の表象がいかなる新しさをもつのか,石炭産業や炭鉱を専門に扱った博物館の展示と比較しつつ検討する.そのうえで本稿はこの新しい表象の地域的な基盤である,「産業遺産」概念を自らの経験や当事者性に基づいて主体的に解釈・表象する個人や団体に注目し,その具体的な論理や実践の特徴を明らかにする.
    これらの検討に重ねて,本稿は上記のような産業遺産の表象の新しい実践がはらむ危うさも指摘し,それに対し今後地域住民がとりうる戦略的可能性について考察する.
  • 戦後イギリスにおける政策の変遷との関わりのなかで
    安達 智史
    2009 年 60 巻 3 号 p. 433-448
    発行日: 2009/12/31
    公開日: 2012/03/01
    ジャーナル フリー
    グローバル化の進展は,先進諸国において移民やエスニック・マイノリティを増加させている.それにともなう文化的多様性の増大は,ホスト社会に対し,社会的・経済的に寄与するとともに,マジョリティの存在論的不安と社会的緊張を高めている.従来,文化的多様性は,多文化主義によって積極的に議論されてきた.だが,文化的多様性の承認は,社会の結束の膠にかわとならず,逆に人々の不安を増大させるものとして批判されている.現在,社会的結束と文化的多様性の両立という問題が,政策的・哲学的な課題として浮上している.社会的結束と文化的多様性の両立のためには,それらの漸次的な融和が不可欠である.一方で,文化的多様性を抑制しつつ共通の「所属」の感覚を高め,他方で,多様化する環境に人々を馴致させ,差異を「安全/安心」なものとして提示することである.本稿は,イギリスの社会統合政策を,所属と安心/安全についての2つの方策の関係とその変化に焦点を合わせ,分析するものである.具体的には,戦後からサッチャー政権以前(1948-79年),サッチャー以降の保守党政権(1979-97年),そして新労働党政権(1997年- )という3つの時期に区分し論じる.とりわけ,シティズンシップとブリティッシュネスという観念を機軸に据える,新労働党の新たな社会統合政策と哲学に着目する.それにより,ポスト多文化主義における社会統合の1つの形式を提示する.
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