社会学評論
Online ISSN : 1884-2755
Print ISSN : 0021-5414
ISSN-L : 0021-5414
66 巻, 1 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
投稿論文
  • 日本と中国における社会的権利の形成をめぐって
    穐山 新
    2015 年66 巻1 号 p. 2-18
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は, 比較歴史社会学的な手法を用いて, シティズンシップにおける「共同社会」を統合する原理を, 戦前期における日本と中国の社会的権利をめぐる思想と政策を通じて明らかにしていくことにある. 日本でも中国でも共通して, 「社会連帯」を通じて共同社会に能動的に貢献できる人格を生み出していくことがめざされていたが, 「社会連帯」の否定的な対概念である, 怠惰な依存者を生み出すものとしての「慈善」に対する理解には, 以下のような相違が見られた.
    日本における「慈善」は, 篤志家の施与や温情による救済という, 救済者のパターナリズムを意味した. それゆえ, 方面委員制度として具体化されたように, 「社会連帯」の理念ではそうした非対称的な関係を解消するための, 家庭・地域の日常的な場における社交や, 救済者がみずからの優越的地位を自己否定する「無報酬の心」が強調された. それに対して中国における「慈善」は, 慈善事業を運営する個々の郷紳の人格的能力という偶然性に依拠した「組織性」を欠いた救済 (「各自為政」) を意味した. そのため, 中国で「社会連帯」を可能にするためには, 何よりもまず「組織」の形成および確立と, そうした組織を束ねて運営する能力を有する「人」の発掘と育成が課題となった.
    以上の検討を通じて本稿では, 救済者の自己犠牲の精神と組織への強力なコミットメントという, 両者における共同社会を統合する原理の違いが生み出されたことを明らかにした.
  • 個別面接法と郵送法の比較から
    小林 大祐
    2015 年66 巻1 号 p. 19-38
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    階層帰属意識の分布は, 自記式に比べ他記式の調査でより高くなることが報告されているが, その要因については, これまで厳密に検証されてきたわけではなかった. この理由としては, モード間の傾向差のなかに混在するさまざまな要因を弁別できるようなデータセットがなかったことが大きい. 本稿は, 個別面接法と郵送法という異なる調査モードで実施されているが, 同じ階層帰属意識項目をもち, 同一年に実施された2つの調査データを比較することで, 調査モードが階層帰属意識にどのような影響を与えているか検証するものである. 分析の結果, 回答者の属性をコントロールしても, 個別面接法において階層帰属意識を高く回答する傾向が見られ, 調査モードの違いが, 何らかの測定誤差を生み出していることが示唆された. 続いて, 確認された傾向差が, 調査員の存在に由来するものかどうか, そうであれば階層帰属意識を答える際に働くバイアスとはどのようなものなのかを検討した. その結果, 男性サンプルでは中位に, 女性サンプルではより高く偏る傾向が観察された. これらの結果は, どのような階層的位置が「社会的に望ましい」, もしくは調査員に対して抵抗なく回答できるのかという, 価値規範の側面が, 所属階層を測定する際に無視できないことを示すものである.
  • 科学館新規展示物設計打ち合わせ場面における「振り向き」動作の会話分析
    平本 毅, 高梨 克也
    2015 年66 巻1 号 p. 39-56
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    本稿では日本科学未来館で2011年8月に公開された展示物『アナグラのうた――消えた博士と残された装置』制作チームの活動場面の会話分析から, チームのメンバーが想像を「共有」する際に用いる1つのプラクティスを明らかにする. 制作チームのメンバーは展示の現場で将来的に生じる種々の問題を想像して発見し, 意識を共有し, 解決していくことを通じて展示物を形作ってゆく. 本稿ではこの活動の中でメンバーが頻繁に用いる, 想像を「共有」するという行為の記述を可能にするような1つのプラクティスに着目する. 展示やそこで生じる入場者の動きを演じながら他のメンバーに説明するとき, 制作チームのメンバーはしばしば頭部を捻って聞き手を「振り向く」. この「振り向き」はランダムに生じるのではなく, 語りの特定の位置で, 想像を「共有」しようとしていることが理解可能なかたちで行われる. 「振り向き」は語りの, とくに想像を「共有」することが相互行為上の課題となることが聞き手にわかる位置で生じる. このとき語り手の演技は進展を止め, これを背景にして頭部の動きで聞き手にはたらきかけることにより, 想像の「共有」を求める. これにたいして聞き手はしばしば, このはたらきかけに応じていることがわかるかたちで反応を返し, 「想像の共有」を達成する.
  • 「日本人の意識」調査の2次分析
    田靡 裕祐, 宮田 尚子
    2015 年66 巻1 号 p. 57-72
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    本稿ではNHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査データの2次分析を行い, 日本社会における仕事の価値の布置と, その長期的な変化の趨勢について検討した. R. Inglehartの価値変動の理論に依拠すれば, 社会が豊かであるほど, また豊かな時代に育った世代であるほど, 仕事におけるイニシアチブや責任といった内的価値への志向が高まるという仮説が導かれ, その妥当性はいくつかの先行研究によって確かめられている. しかしながら, 長期不況や労働市場の流動化による社会・経済的格差の拡大を背景として, とくに若い世代においてそのような志向が保持され続けているのかについては, 新たな検証が必要である.
    1973年から2008年までの社会調査データを用いた2次分析の結果, 高度経済成長の恩恵を受けた新しい世代ほど, 外的価値よりも内的価値を志向する傾向があることが確かめられた. しかしその一方で, 90年代のバブル経済崩壊の後, 若い世代において内的価値への志向が抑制され, 外的価値への志向が高まっていることも同時に明らかとなった. このような知見は, 雇用制度や労働環境の変化に伴って, 仕事の価値の揺らぎ――外的価値への「回帰」や「多様化」が生じ始めている可能性を示唆するものである.
  • 二重構造論からのアプローチ
    福井 康貴
    2015 年66 巻1 号 p. 73-88
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    本稿は, 二重構造論の枠組みを非正規雇用の問題に導入することで, 若年期の非正規雇用から正規雇用への移動という現象に従来とは異なる図柄を示す. 二重構造論によれば, 各セクターの雇用慣行の違いから, 求められる職業能力や市場環境への反応は異なっていると考えられる. また下位セクターから上位セクターへの移動も困難だと予想される. そこで, 初職に非正規雇用として就業した若年層を対象として, (1) 非正規雇用時の職業と市場環境が正規雇用時の従業先に与える影響と, (2) 非正規雇用時の従業先が正規雇用時の従業先に与える影響を, 2005年SSM調査のデータを用いて検証した.
    分析の結果, 大企業・官公庁では専門職が正規就業しやすく, 初職に就いた後の景気後退が正規就業を妨げているのにたいして, 中小企業では熟練職が正規就業しやすく, 学卒時の市場環境の悪さや初職に就くまでの間断が正規就業に負の影響を与えていた. また, 大企業・官公庁の出身者が大企業・官公庁で正規雇用として就業しやすく, 非正規雇用時の従業先が正規雇用時の従業先に影響を与えることが明らかになった. 以上の結果は, 日本における非正規雇用からの移動において, 労働市場の構造のなかでの非正規労働者の位置づけが, 望ましい従業先への到達チャンスに影響することを示しており, 二重構造論的な視角の有効性が示唆される.
  • 被害の構造的差異をめぐって
    青木 秀男
    2015 年66 巻1 号 p. 89-104
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    本稿は, 1945年8月6日に広島で炸裂した原爆について, 市内の被差別部落A町を事例に, 被害の他町との差異を分析し, その意味を, 災害社会学の概念 (社会的脆弱性, 復元=回復力) により解釈する. そして1つ, 原爆被害の実相を見るには, 地域の被害の<構造的差異>を見る必要がある, 2つ, 地域には被害を差異化する力と平準化する力が作用し, それらの力の拮抗と相殺を通して被害の実態が現れる, という2点を指摘し, 災害社会学を補強する. A町民の原爆死亡率は, 爆心地から同距離の他町とほぼ同じであったが, 建物の全壊・全焼率および町民の負傷率が高かった. そこには, ①A町には木造家屋が密集していた, ②建物疎開がなかった, ③原爆炸裂時に多くの人が町にいた (仕事場が自宅であった) 等の事情があった. また同じ事情で, A町民は多くの残留放射能を浴び, 戦後原爆症に苦しむことになった. そこには, A町の, 被爆前の社会的孤立と貧困の <履歴効果> と, 被爆による生活崩壊・貧困・健康障害の <累積効果> があった. 他方でA町民は, 被爆直後より被害からの復元=回復に向けた地域共同の努力を開始した. 地域共同は, A町の人々の必須の生存戦略であった. A町には, 地域改善運動や部落解放運動の基盤があった. しかしそれでもA町は, 戦後も孤立した町にとどまった. 地域の景観は大きく変った. しかし被害の構造的差異は, 不可視化しながら持続した.
  • 長野県PTA母親文庫の1960年代から
    山﨑 沙織
    2015 年66 巻1 号 p. 105-122
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    本稿は, 1960年代に年間6万人の参加者を集めた長野県PTA母親文庫を研究対象とし, その参加者たちにとって「読書」がいかなるものであったか, また, その「読書」はどのような立場や能力に結びつく活動だったかを問うものである. それにあたってはエスノメソドロジーの視座に基づいて参加者たちのつくった文集をひもとき, 参加者たちが母親文庫での「読書」経験をどのように提示しているかを検討する.
    検討の結果, 本稿の問いに以下の3点から回答を与えることができた. 1点目は, 参加者たちが, 「時代の変化について行く」ために読書をしていたことである. ただし, 参加者たちは「時代の変化についていくこと」を母親特有の課題ではなく自分と周囲の人々すべてにとっての課題と考えていた. 2点目は, 参加者たちが読書することと農家の主婦であることを両立させようとしていたことである. 家事も農作業も読書もすることは困難であったが, この困難の共有は参加者たちの仲間意識を強固にした. 3点目は, 独自の「読書」観をもつようになった参加者たちが「読書」活動により, 「農家の主婦」でもなく「教育する母親」でもなくいられる貴重な場を得ていたことである. この場は, 参加者たちが, 読書を「農家の主婦」の振る舞いから抜け出す行為と位置づけていたこと, また, 自分たちのことを子供よりも時代に遅れがちと見なし, 子供の世話より「読書」を優先させることを正当化していたことで支えられていた.
研究動向
書評
feedback
Top