海水中の溶存無機形と有機形炭素の両者について研究を行った. 海水中の炭酸の解離平衡に関する新しい方程式を導入し, これが遊離炭酸, 炭酸水素イオン, 炭酸イオンの濃度の計算を可能とした. これらの方程式により炭酸アルカリ度 (
CA) と無機炭素の総濃度 (
C) の間の定量的な関係が得られた. 炭酸アルカリ度とカルシウム含量の同時的変化量の比を計算する方程式を求め, その比が一定 (0.5) ではなく, 0.1から1.0の間に幅広く変化することを示した.
海洋における炭素の滞留時間が長いので, 溶存無機形+有機形炭素の総濃度は, 全海洋を通じ, ほぼ一定であると考えた.
無機形, 有機形の濃度は, いずれもある一定項 (当初濃度) と生物学的, 生化学的影響による変化項の科 (差) であることを提唱した.
溶存炭素濃度の一定性は, 有機形炭素を乾式燃焼法で分析することにより, 実験的に証明された. 海洋上層 (0~1,000m) の各炭素濃度は主として, 貝類の生産を含む生物生産によって支配され, 深層では有機物の酸化分解と炭酸カルシウムの溶解による. 上層の無機形と有機形炭素の濃度は, それぞれ1.9~2.1mg at/kgおよび0.27~0.35mg at/kgである. 深層の無機形は2.2~2.35mg at/kg, 有機形は0.07~0.1mg at/kgである.無機形と有機形炭素の当初濃度は2.15mg at/kgおよび0.26mg at/kgで, 溶存炭素の総濃度は2.41mg at/kgとなる.二酸化炭素1分子を造るには酸素2分子を必要とし, またAOU (みかけの溶存酸素消費量) の80%が有機炭素の酸化に用いられるから, 無機炭素の再生までには0.4AOUが消費される.
有機炭素の乾式燃焼法と湿式酸化法による分析値の比は, 表層付近で2.5, 中・深層では1.3~1.4であった.
最後の章で, 無機形の炭素と窒素の濃度比を求める方程式を導き, 実測値との間によい一致をみた.有機形の炭素と窒素の比は一定 (9.3) となることを示した.最後に, 海水のいわゆる
14C年齢は根本的に改あるべきであるとの意見を述べた.
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