長期臥床患者に発生頻度の高い褥瘡は, その予防方法の改善, 即ちベッドの各種改良, 感染コントロール, 栄養管理など全身ケアの充実等により減少傾向にあるが, 老年症候群として高齢者医療の重大な問題点の一つである事に変わりはない. 私共は褥瘡の効率的治療法を開発する目的で, 従来より使用されている褥瘡に有効と思われる薬剤を選びその組み合わせ治療を行い検討した. 対象は16例, Shea の深さの分類にて何れもII~IVの症例を選択し, 褥瘡の発生および増悪の主要な要因である局所の体圧を軽減する目的で, 体圧を分散するエアーマットを全例に用いて実験を行った. 方法は実験計画法を導入し, 薬剤および処置方法をL16直交表に従って16通りの組み合わせ治療プログラムを作成し適用した. 因子として, A: 創面への被覆物の種類 (エレース軟膏, イソジンシュガー, イソジンゲル, ソルコセリル軟膏), B: イサロパン粉末, C: プロスタグランジン500μg含有溶液 (0.005%) 噴霧, D: 1日の処置回数, F:タッピングの有無とした. 特性値として, 創部の治癒速度の指標は創面の面積を経時的に測定し, その面積が1/2になる日数 (T/2, 半減日数) を採用した.
16症例についての繰り返しなしの治療データを基に分析した結果, 各因子の分散分析では因子A, B, D, Fに有意なF値が認められた. 各々の寄与率はA37.84%, B8.47%, D14.98%, F13.81%で誤差項 (e) は16.37%であった. 即ち最適治療組み合わせは, ソルコセリル軟膏処置を1日2回施行であり, 今回は期待されたプロスタグランジンによる相乗効果は認められなかった. 誤差項(e)は個々症例の個体差も含め, 別の治癒因子が存在している可能性を示している. 今後例数を増やし, この点においても更に追究して行く必要があると思われた. また, 局所の減圧は褥瘡の予防はもとより治療の基本であると考えられた.
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