日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
45 巻, 3 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
第25回日本老年学会総会記録〈シンポジウム:高齢者の性差とその対策〉
第49回日本老年医学会学術集会記録〈Meet the Expert〉
第49回日本老年医学会学術集会記録〈若手企画シンポジウムII:加齢と動脈硬化〉
原著
  • 田辺谷 徹也, 大西 浩文, 斎藤 重幸, 赤坂 憲, 三俣 兼人, 千葉 瑞恵, 古堅 真, 森 満, 島本 和明
    2008 年 45 巻 3 号 p. 302-307
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    目的:地域一般住民高齢者におけるメタボリックシンドローム(MetS)およびインスリン抵抗性と尿中微量アルブミン(U-Alb)の関連を端野·壮瞥町住民健診受診者のデータより検討した.方法:2005年度端野·壮瞥町住民健診受診者において,糖尿病の者(空腹時血糖≥126 mg/dlまたは治療中),降圧剤内服中の者,さらに顕性蛋白尿(尿中アルブミン·クレアチニン比(ACR)≥300 mg/g·Cr)を認める者を除外したうちの,65歳以上の高齢者338名を対象とした.我が国の診断基準によりMetS群と非MetS群の2群に分け,U-Alb陽性者(ACR≥30 mg/g·Cr)の頻度を比較した.またインスリン抵抗性の指標としてHOMA-Rを用い,HOMA-RとU-Alb陽性との関連も検討した.結果:U-Alb陽性頻度は,MetS群において非MetS群と比較して有意に高値を示した(23.3% vs. 9.4%,p=0.018).また,U-Alb陽性を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析より,MetSと判定される者は約3.1倍(95%CI:1.18∼8.07)のU-Alb陽性のリスクがあることが示された.同様の多重ロジスティック回帰分析においてHOMA-Rと収縮期血圧値(SBP)を独立変数として用いた場合,HOMA-RとSBPはそれぞれ独立したU-Alb陽性の有意な説明変数として採択された.結論:今回の検討より地域一般住民高齢者において,MetSとHOMA-RはU-Alb陽性に対する有意なリスクであることが示された.微量アルブミン尿予防の観点からは,血糖·血圧の管理はもちろんのこと,上流にあるインスリン抵抗性への介入も併せて行うことが重要である可能性が示唆された.
  • 大屋 友紀子, 中村 眞須美, 田畑 絵美, 森園 亮, 森 祥子, 木室 ゆかり, 堀川 悦夫
    2008 年 45 巻 3 号 p. 308-314
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    目的:地域在住高齢者を対象とし,転倒,つまずき,ふらつきの既往の有無と下肢筋力測定を含む各種の易転倒性検査との関連性を分析することにより,易転倒性の新たな指標を模索し,より効果的な転倒予防の対策を検討する.方法:被験者は地域在住高齢者102名で,問診に加え,転倒リスクを評価する5つのパフォーマンステストを実施した.さらに,膝伸展筋力を測定し,時系列解析,周波数解析を行った.結果:転倒の既往を有する者(転倒群)は,非転倒群に比してつまずき(p<0.001),ふらつき(p=0.002)の既往歴がそれぞれ有意に多かった.周波数解析の結果では,転倒群では非転倒群に比して,有意に中心周波数が低く(p=0.025),より高周波成分が少ない波形(p=0.035)を示していた.また,時系列データの解析結果から,転倒群は非転倒群よりも最大筋力に至るピーク潜時が長かった.結論:転倒群は非転倒群に比して,膝伸展筋力のピークまでにより多くの時間を要し,筋力の発生の過程が緩やかであった.この結果は,転倒群は障害物回避行動などで転倒リスクが高いことを示しており,地域在住高齢者に対する新たな易転倒性の指標として有効と考えられる.転倒の予防対策として,最大筋力とともに筋の反応速度を高める運動が有用であることが示唆された.
  • 金 憲経, 吉田 英世, 鈴木 隆雄
    2008 年 45 巻 3 号 p. 315-322
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    目的:都市部在住高齢女性における尿失禁の頻度,1回尿失禁量,尿失禁のタイプに関連する要因を明らかにする.方法:2006年度に70歳以上の高齢女性を対象に実施した包括的健診に参加した957名を対象者とした.個別面接法により尿失禁の有無,尿失禁の頻度,尿失禁量,尿失禁場面,尿失禁の影響,健康度自己評価,既往歴などを調査した.また,筋力,歩行速度,バランス能力を測定した.尿失禁頻度の高低,1回尿失禁量の多少,尿失禁タイプに分けて,群間の体力,排尿回数,運動習慣,既往歴などを比較した.尿失禁の頻度,1回尿失禁量,健康度自己評価に関連する要因を抽出するために,多重ロジスティック回帰分析を行った.結果:尿失禁頻度が高い群,1回尿失禁量が多い群で歩行速度,バランス能力,健康度自己評価が低下し,BMIは高かった.切迫性および混合性尿失禁群で,尿失禁の頻度が高く,1回尿失禁量が多い者の割合が多かった.尿失禁の頻度は,健康度自己評価(Odds Ratio(OR)=0.49, 95%Confidence Intervals(CI)=0.26∼0.92),切迫性尿失禁(OR=2.04, 95%CI=1.04∼4.06),混合性尿失禁(OR=4.07, 95%CI=1.94∼8.70),BMI(OR=1.10, 95%CI=1.01∼1.21),昼間排尿回数(OR=1.25, 95%CI=1.10∼1.44),最大歩行速度(OR=0.25, 95%CI=0.08∼0.71)に関連し,1回尿失禁量とは,切迫性尿失禁(OR=2.27, 95%CI=1.08∼4.91),混合性尿失禁(OR=3.02, 95%CI=1.33∼6.98)が関連していた.一方,健康度自己評価には,尿失禁の頻度(OR=2.18, 95%CI=1.28∼3.68),切迫性尿失禁(OR=2.28, 95%CI=1.30∼4.06)が有意に関連した.結論:体力,健康度自己評価の低下には,尿失禁の頻度,切迫性尿失禁が関連していた.尿失禁を予防するためには,太らないようにして,歩行機能を低下させないような日々の訓練が重要であることが示唆された.
  • 鐘ケ江 寿美子, 市丸 徳美, 千々岩 親幸, Fleming Richard, 小泉 俊三
    2008 年 45 巻 3 号 p. 323-329
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    目的:Care Planning Assessment Tool(CPAT)はオーストラリアで開発され,認知症ケアを意識した介護者による高齢者の総合的機能評価尺度である.日本語版CPATを作成し,信頼性·妥当性を検証した.方法:対象者は199名(男性58名;女性141名)で介護老人保健施設,グループホームに入居,あるいはデイケアやデイサービスに通所し,研究の承諾を得た高齢者である.調査期間は平成18年8月より9月までである.結果:日本語版CPATは,(1)コミュニケーション,(2)身体機能,(3)身辺自立,(4)混乱,(5)行動障害,(6)社会的交流,(7)精神症状,(8)介護依存度の8大項目より構成され,61小項目を含む.各小項目は介護ニーズを0∼3点で示し,大項目毎にその合計点数が%表示される.日本語版CPATには「家族との交流」に関する小項目を原文に追加し,CPAT原作者と翻訳妥当性を検証し,詳細な使用手引書を作成した.評定者は対象者をケアする看護,介護職員で,CPATについて約2.5時間の研修を受けた.各大項目のCronbach's αは0.74∼0.95であった.10組の評定者間一致に関する重み付きκ値は平均0.6.14名の評定者における各大項目の評定者内の平均スコア差は0.4∼3.6%であった.認知症の中核症状を示す「混乱」とMMSEの相関係数は-0.90(p<0.01)であり,「身体機能」,「身辺自立」,「介護依存度」と介護保険「介護度」との相関係数は各々0.68, 0.72, 0.62(p<0.01)であった.日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)と関連するCPAT小項目の相関も良好であった.結論:日本語版CPATは高齢者の身体機能,認知機能,精神行動障害,その他日常生活機能を総合的に把握し,介護ニーズを簡便に評価できる尺度であると考えられる.
  • 岩田 充永, 梅垣 宏行, 葛谷 雅文, 北川 喜己
    2008 年 45 巻 3 号 p. 330-334
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    目的:夏季の高温多湿が進む日本では,熱中症が増加することが予想されるが,高齢者の熱中症については十分な検討がなされていない.高齢者熱中症の特徴を明らかにするために,65歳以上高齢者で入院となった熱中症例について検討した.方法:2006年の7∼9月とおよび2007年の7∼9月に名古屋掖済会病院救命救急センターを熱中症で受診し,入院となった65歳以上高齢者を対象に,発症日の気候,同居家族,発症環境,空調設備の有無や利用状況,基本的ADL,かかりつけ医の有無,認知症の有無,介護サービスの利用状況,重症度,入院期間,転帰について調査した.結果:研究期間中の熱中症受診104例中31例(31%)が入院となり,そのうち65歳以上高齢者は25例中20例(80%)で,若年者79例中11例(13.9%)に比較して有意に入院率が高かった(p<0.001).平均入院期間は20.6±17.8日で,65歳以上入院群27.5±18.6日,65歳未満入院群5.3±3.0日と高齢者群の入院期間は有意に長期となった(P<0.001).自宅内発症の熱中症は16例で,全例65歳以上で入院を必要とし,65歳以上高齢者の入院熱中症症例(20例)の80%を占めた.自宅内発症例の多くは,最高WBGT 28°C以上(14例),空調設備を有していない(11例),ADL自立(10例),認知症(12例),介護サービス未利用(11例),独居もしくは配偶者と2人暮らし(14例)などの特徴を認めた.入院症例のうち12例(60%)が自宅に退院できなかった.結論:高齢者は通常の自宅生活でも熱中症を発症する危険があり,WBGT28°C以上の日は特に危険が高い.高齢者の熱中症を予防するためには,(1)ADLが比較的保たれ介護サービスを受けない高齢者や独居もしくは配偶者と2人暮らしの高齢者に対する見守り体制の構築,(2)住居における空調設備の設置援助と適正利用への啓発と見守り体制の構築の2点が重要である.
症例報告
  • 黒田 祥二, 森田 須美春
    2008 年 45 巻 3 号 p. 335-337
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    超高齢者のA型胃炎合併悪性貧血の一例を報告する.症例は90歳の女性.食欲低下·活動性低下·認知症の増悪にて紹介入院となった.入院時血液検査にて白血球2,900 /mm3·血小板1.5万 /mm3·Hb 5.6 g/dl·MCV139.7 μm3と,著明な汎血球減少と大球性貧血を認めた.悪性貧血を疑いビタミンB12の投与を開始したところ,血液検査は改善し,全身状態も改善した.上部内視鏡にてA型胃炎を認め,抗内因子抗体,抗胃壁細胞抗体陽性より,悪性貧血と診断した.悪性貧血は比較的高齢者に多い自己免疫疾患であるが,好発年齢は50∼60歳台といわれている.高齢化社会がすすむなかで,超高齢者の数も増加している.高齢者の貧血はしばしばみられるが,悪性貧血は容易に治療できる疾患であるため注意が必要と考え報告した.
  • 三好 誠吾, 濱田 泰伸, 伊東 亮治, 濱口 直彦, 門脇 徹, 檜垣 實男
    2008 年 45 巻 3 号 p. 338-342
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/07/14
    ジャーナル フリー
    症例は91歳女性.労作時呼吸困難および食欲低下のため近医を受診し,胸部単純X線写真で右側胸水を指摘された.呼吸困難の増悪のため,精査加療目的で入院した.入院後,胸水穿刺排液を行った.胸水より腺癌細胞を認め,胸部CTで右下葉に腫瘤影を認めた.全身精査の結果,肺腺癌(cT4N2M0, stage IIIB)と診断した.gefitinibの投与を開始したところ,画像上,胸水の増加を認めなくなり,腫瘤影も縮小した.またperformance status(以下PSと略す)も改善した.gefitinibは忍容性が良好であり,標準的化学療法の適さない高齢あるいはPS不良の非小細胞肺癌症例における治療選択肢となるかもしれない.
Letter to the Editor
日本老年医学会地方会記録
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