社会学評論
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67 巻, 2 号
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投稿論文
  • 額賀 淑郎
    2016 年 67 巻 2 号 p. 132-147
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    社会学の秩序問題は多様な対立を調整する社会メカニズムの研究である. これまで多くの理論研究によって複数の秩序概念が示されたが, その主な構成要素であるコンセンサスを分析した研究は少ない. そのため, 本稿は政治哲学者J. ロールズが提唱した重なり合う合意の分析に焦点を当てる. 「重なり合う合意」とは, 立憲民主社会において自由で平等な人格をもつ市民が, それぞれの多様な世界観から共通の基本原則を支持し, その結果, 社会において長期の正義が可能になるという理念である. 本稿の目標は, 1) ロールズの重なり合う合意を分析し理念型の重複合意モデルとして再構成すること, 2) 重複合意モデルの事例分析が可能になる条件を分析すること, である.

    結果として, ロールズの重なり合う合意は, 狭い重なり合う合意と広い重なり合う合意に分類できること, その広い重複合意モデルは秩序問題の分析モデルとして利用できること, を示した. まず, 重なり合う合意は異なる抽象レベルの倫理判断の整合性という「反照的均衡」を前提とするが, その分類によって重なり合う合意を2分類した. 次に, 広い重複合意モデルには, 利益相反の回避, 機会均等の手続き, 集団構成の多様性, 共有価値の同一性, 背景理論・基本原則・データ間の整合性, 長期の安定性, という条件が必要であると考察できた.

  • 児童自立支援施設での質的調査から
    藤間 公太
    2016 年 67 巻 2 号 p. 148-165
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    近年, 子どもの権利への関心が高まるなか, 社会的養護における支援の個別性の保障が課題となっている. とりわけ強調されるのが「施設の家庭化」である. 本稿の目的は, 児童自立支援施設での質的調査データにもとづき, 施設の家庭化論を検討するとともに, 今後に向けた示唆を得ることにある.

    まず, 施設の家庭化を訴える議論と, それを批判した家族社会学研究を概観したうえで, 個別性を2つの位相に分節化する戦略を採用する(第2節). 次に, 対象と方法について説明し (第3節), 児童自立支援施設Zでの調査から得た知見を示す. 分析からは, 確かに施設における集団生活は個別性保障を妨げる部分があるものの, 集団生活だからこそ実現される個別性保障も存在することが明らかにされる (第4節, 第5節). 以上の結果を踏まえ, (1) 家庭でケアラーが直面する困難を隠蔽すること, (2) 子どもの格差是正を妨げること, (3) 少数の大人が少数の子どもをケアする以外の可能性をみえなくすることという3つの陥穽が施設の家庭化論にあることを示す. そのうえで, 職員充足によって家庭を超えるケアを実現する可能性があること, 家庭という理念を相対化して議論をすることが必要であることを論じる (第6節).

  • 「共に年をとること」としての同時性について
    梅村 麦生
    2016 年 67 巻 2 号 p. 166-181
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    A. シュッツは『社会的世界の意味構成』の中で, 社会的世界の最も根源的な層をなす「われわれ」関係は, 我と汝の「同時性」に基づき, この同時性の中で「われわれは共に年をとる」と述べた. 本稿はシュッツのこの同時性論を, その土台となっている内的時間論と, シュッツが具体的な社会関係の下で同時性が成立する事態として記述している例を踏まえて検討し, その問題点と可能性を追究する.

    シュッツの同時性論には, 先行研究ですでに複数の問題点, 特に複数の二元論的な契機が指摘されている. 他方で, シュッツが用いた「間主観性は所与」であるといった考え方を受けて, そうした問題を不問にして社会関係の記述を始めた点に認識利得があるとする見解もある. しかし実際に, シュッツが不問にしたベルクソンやフッサールの概念に伴う問題をみていくと, 同時性に関する重要な問題が現われてくる. それは〈同時性〉が単なる瞬間性や現前性を超える場合に現れる〈時間性〉の問題である. 事実, シュッツは同時性を「共に年をとること」として扱っているにもかかわらず, 同時性に含まれる時間性の問題を主題化していない. 本稿では特に, シュッツが混同した2つの〈同時性〉の違いを指摘した上で, 「共に年をとること」を〈理念化された時間性〉の共有として捉える見解を導き出し, 上記の二元論的な契機への回答と, シュッツの同時性論を社会学的な時間論へ接続する可能性を提示する.

  • インターネット調査データを用いた社会的カテゴリー分析
    石田 淳
    2016 年 67 巻 2 号 p. 182-200
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本論は, 「ブール代数分析による社会的カテゴリー分析」の枠組みを用いて, 2013年に実施されたインターネット調査により, 人びとのナショナル・アイデンティティを「日本人の条件」として把握し, その様態と社会的属性との関連を分析することを目的とする. 具体的には, 国籍・在住・血統・言語の4条件の組み合わせによる16パターンのプロフィールを回答者に提示し, 「日本人」だと思うか否かの2値評価を求め, 関連する意識や属性・社会経済的地位などの要因との関連を探った.

    分析の結果, 以下のことが明らかになった. まず, 回答者のイメージを統合した統合イメージについて分析した結果, 基本的に血統を必要条件とする条件組み合わせで構成されていた. 次に, 背後にある意識が日本人判断にどのように関連しているかを分析した結果, 国に対する誇りの高さは「血による包含」と, 排外主義は「血による排除」と, 同化主義は「文化による排除」と強く結びついていることが分かった. 最後に, 血統もしくは国籍に寛容的な日本人条件イメージが, 回答者の属性や社会経済的地位, 社会的経験とどのように関連しているのかを探った. その結果, 地域社会における外国人との接触経験や, 年齢の若さや学歴の高さといった外国人への寛容性と関連する属性・地位要因が, 異質性に寛容的な国籍拡張型のイメージの可能性を高め, 同質性に寛容的な血統主義的なイメージ拡張の可能性を低めることが確認された.

  • 妊娠を目指す患者の知識収集と受診戦略
    竹田 恵子
    2016 年 67 巻 2 号 p. 201-221
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    多くの知識が手軽に入手できるようになった現代では, 科学知識の入手において専門家と素人の垣根が崩れつつある. 本稿では, 生殖医療に関する科学知識の蓄積とこれを媒介するメディアの充実が, 現代の生殖医療患者にどのような影響を与えているかを検討した. 11名への聞き取り調査から, 現代の生殖医療患者は治療経過に沿って異なる科学知識の収集を行っていることが明らかになった. 治療当初は医療専門家, 知人, 書籍・雑誌, ウェブサイトから基礎的な科学知識を収集し, 治療が高度化する際には個人にあった知識を入手していた. そして, 彼女たちは知識を収集するなかで治療経過に関する標準化されたプロトコルを理解のなかに作り上げることが認められた. ただし, 協力者は, 治療が長期化すると妊娠しない原因を指摘する科学知識から遠ざかり, あえて知識収集しなくなると同時に, 医師の前で「素人」を演じるようになることもわかった. 現代の生殖医療患者は大量の科学知識に囲まれ, その収集を続けるなかで生殖医療に関する不確実性にも触れるようになる. その結果, 現代の生殖医療患者は科学知識に頼っても妊娠するとは限らないことを経験的に理解する. そして, これまで手に入れた科学知識がなかったかのように振る舞いながら, 医師の言動を静かに査定する. 現代の生殖医療患者は, 様々なメディアと自らの経験などから作り上げた独自の専門知識を駆使し, 妊娠を目指していた.

  • 社会関係資本の観点から
    INOUE Ema
    2016 年 67 巻 2 号 p. 222-237
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    日本では2000年代から「移行の危機」にある若者が増加し, 危機の一面として, 社会関係資本の観点からの困難が指摘されてきた. しかし, 2000年代から始まった公的な若者支援は, その意義が強調される一方, これら社会的ネットワークをめぐる問題をいかに乗り越えるのか, その戦略は考察されていない. 本稿では, 地域若者サポートステーション事業を対象に, この論点を考察する.

    本稿ではナン・リンの議論 (Lin 2001=2008) から, 社会関係資本の伝達基盤となる相互行為における①異質的相互行為へのアクセスの困難, ②同類的相互行為の道具的限界という潜在的困難を指摘し, 対処する戦略をみる. ①に関しては, 特にイギリスのコネクションズ・サービスではアウトリーチなどの手段を通じて低減が図られ, 日本でも部分的に実施された. しかし職員との相談 (第1 段階の異質的相互行為) を経ても, 進路決定に必要な次の異質的相互行為をためらう若者の存在が職員に認識され, 自らのもつ資源 (「強み」) の承認を相互に可能にする若者同士の人間関係を構築しうるプログラムが多く実施されるようになった. ②に関しては, 若者同士の人間関係を通じて承認を得た資源を基盤に, 従来の若者の考え方とは異なる視点から, 進路探索に必要な新たな異質的相互行為に役立つ資源を職員が提供する. 本稿では, この同類的相互行為と異質的相互行為が相互補完的な役割を果たす過程を示す.

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