日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
12 巻, 6 号
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  • 石井 壽晴, 細田 泰弘, 薬丸 一洋
    1975 年 12 巻 6 号 p. 357-362
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    肝臓および腸間膜相互の循環は, 門脈を介して, 相互に影響を受けるが, 両臓器はそれぞれ独特の血行動態を有するため, 梗塞発生はまれである. 著者らは, 84歳の心疾患負荷をもつ老女性に, 肝梗塞および空腸の非閉塞性梗塞による出血性壊死性腸症の合併を経験した.
    剖検: 肝両葉には, それぞれ大きさ3~4cmの新鮮凝固壊死巣を2ケずつ認めた. 細胞反応には乏しく, 新鮮な貧血性梗塞の像を示していた. 肝動脈右葉枝本幹, 左葉枝分枝に血栓塞栓と思われる血栓を認めた. 他部の肝には高度の小葉中心性うっ血を認めた.
    空腸上部には長さ5~6cmの出血, 壊死を認めたが, 細胞反応には乏しかった. 腸間膜動静脈は硬化性ではあったが, 血栓は認められなかった.
    心臓は500gで左室肥大を呈し, 両心房, 心室は拡張性で, 僧帽弁には石灰化を伴う線維性心内膜炎を認めた.
    その他, 腎梗塞, 新鮮消化性胃潰瘍などを認めた.
    これら剖検所見から, 心疾患を基盤とする大循環系障害のみならず, 心不全による肝うっ血が, 一方では, 肝梗塞, 他方では腸管梗塞を発生せしめたと推察され, 本例にみられた肝梗塞および末期性出血性壊死性腸症は, 門脈を介した局所循環障害が加味されて, 発生したものと考えられた.
  • 合成TRH, LH-RHに対するTSH, PRL, LH・FSHの反応性
    熊原 雄一, 宮井 潔, 橋本 琢磨, 大西 利夫
    1975 年 12 巻 6 号 p. 363-372
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    加齢による下垂体前葉機能の変化を検索する目的で, 甲状腺刺激ホルモン (TSH), 乳腺刺激ホルモン (PRL), 卵胞刺激ホルモン (FSH), 黄体形成ホルモン (LH) の分泌を検索した. すなわち年齢20-79歳にわたる内分泌学的に異常を認めない男子80名, 女子70名を対象とし, TSH放出ホルモン (TRH) 500μg静注前後の血中TSH, PRLおよびLH放出ホルモン (LH-RH) 100μg静注前後の血中LH・FSHをいずれも radioimmunoassay で測定した.
    TSHについては, 対象を20-39歳 (I群), 40-59歳 (II群), 60-79歳 (III群) に分けて比較検討した. 血中TSH基礎値は, 男女共3群の間に有意差なく性差もみとめられなかったが, TRH投与後のTSH増加値 (ΔTSH) をみると, 男子では加齢により低下した. しかし女子では加齢による変化は認められなかった.
    PRLについても同様の検討を行なった. 基礎値は3群の間に有意差なく, 性差も認められなかった. TRH投与後の血中PRL増加値 (ΔPRL) は, 男子では3群で差はなかったが女子では高年者で低値となった. なおTRH投与時のΔTSHとΔPRLの間には相関関係は認められなかった.
    LH・FSHについてみると, 男子では血中LH基礎値は加齢により高値となる傾向があったがFSHは有意差はなかった. LH-RH投与後の増加値 (ΔLH, ΔFSH) は加齢による差はなかった. これに対し女子では, 閉経前 (24-47歳), と閉経後 (51-69歳) の2群に分けて検討したがLH・FSH共に閉経後大となった. またFSHとLHの相互関係についてみると, 基礎値では明らかではないが, LH-RH投与後30分値のFSH/LH比および増加値ΔFSH/ΔLH比は, 加齢により高値となり, その程度は女子の方が大であった.
  • 高瀬 靖広, 福島 通夫, 中山 恒明, 鈴木 博孝, 遠藤 光夫, 市岡 四象, 竹本 忠良
    1975 年 12 巻 6 号 p. 373-379
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    われわれは管理職者グループを対象に過去12年間にわたり健康管理を行なっているが, このグループ内における広範囲胃切除例の遠隔成績について年代別に比較検討し, 高年者群に対する術後管理上の注意などについて考察した.
    症例は広範囲胃切除術後1年以上6カ月間隔で定期的に術後管理をうけている72例である. 年代分布は40歳代以下18例, 50歳代28例, 60歳代以上26例で, 性別は男性71例, 女性1例, 術式はビルロートI法71例, ビルロートII法1例である. 原胃疾患は進行胃癌5例, 早期胃癌16例, 胃潰瘍23例, 十二脂腸潰瘍6例, 胃ポリープ15例, 胃炎6例, その他1例である.
    まず, 外科的遠隔疾患では, 胆石症が7例に認められたが, 60歳代以上の例ではみられないのが注目された. 症状については, 術後6カ月以上では全体に少なく年代的に著しい差はみられない. 摂食状況および就業状況についてもとくに高年者で不利とはいえないようである.
    術後体重の推移は, ほとんどの症例で術後5年以上経過すると安定しているが, 若年者ほど良好な経過を示し, 術前すでに標準体重±5.0kgの範囲より低下している高年者では, 体重の改善は期待できないようである. 血色素量の変動も術後5年以上で安定する例が多いが, 高年者群では低血色素状態の出現率が高い. 血清蛋白の推移は, 各年代とも良好で年代による差はほとんどみられず, 肝機能障害による影響が大きいと考えられる.
    したがって, 60歳代以上の高年者群に対しては体重, 血色素量の経過に注意し, とくに長期にわたる定期的健康管理が必要であると思われる.
  • 福井 俊夫, 岡島 重孝, 佐藤 菅宏, 甘 慶華, 服部 光男, 内藤 弘一
    1975 年 12 巻 6 号 p. 380-385
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳血管障害患者において種々の心電図異常が知られているが, これらの所見の中には脳血管障害によって出現したものと, 基礎にある高血圧, 動脈硬化に起因するものが混在していると考えられる. そこで, 今回脳血管障害50例を対象に心電図変化を検討し, 性および年齢分布を同じくした高血圧群および, 正常血圧群それぞれ50例の心電図と比較して脳血管障害による心電図異常を老年性および高血圧性の心電図所見から分離検討することを試みた.
    脳血管障害群では41例82%にECG上何らかの異常所見が認められたが, 他の群に比して脳血管障害群に多い所見としては1分間50以下の徐脈とQTの延長が認められた. LVH, ST低下, AVブロックおよび心房細動は, 正常血圧群に少ないが, 高血圧群と脳血管障害群の間にはその出現率に差が認められなかった. 従ってこれらの所見は高血圧に起因する要素が大きいと考えられるが, LVHおよびST低下の所見は脳血管障害の改善と共に消失したものも認められた. 全例を60歳以下と61歳以上に分けて検討すると, 正常血圧群では若年者に不整脈をみないのに対し, 脳血管障害群では60歳以下でも25%に不整脈の出現をみており, 脳血管障害発作が不整脈発生に何らかの関与をもっていることが考えられる. 予後についてみても, 上室性頻拍, II度以上の房室ブロック, 心房細動, 上室性期外収縮, QT延長などを示した脳血管障害例は予後不良のものが多く, 特に脳血管障害後出現した不整脈例は全例が死亡している. これに対してLVHおよび心室性期外収縮を認めた例の死亡率は脳血管障害全例の死亡率とほぼ同率であった. くも膜下出血で巨大陰性T波もしくは心筋硬塞波形を示した症例は認められなかったが, 脳出血の1例で心電図上心内膜下硬塞所見を呈し, 剖検で心内膜下出血を認めた症例を経験した.
  • 田中 敏行, 寺沢 富士夫, ユィング リーホン, 栗原 博, 村田 和彦
    1975 年 12 巻 6 号 p. 386-393
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者の心包疾患を調査する目的で, 浴風会病院の連続剖検例1000例 (男345例, 女655例, 平均年齢79.4歳) について心包病変を検索し, 臨床症状, 検査成績, 他臓器病理所見との対比を行ない, 次のごとき結果を得た.
    1. 心包病変は79例に認められ, その内訳は頻度順に, 心包液貯留 (100cc以上, 急性および慢性心包炎各1例を含む) 35例, 心包癒着16例, 心包血腫16例, 悪性心包炎5例, 急性心包炎4例, 心外膜下血腫3例, 慢性心包炎2例であった.
    2. 心包液貯留例のうち20例は片側200cc以上の胸水貯留を, 27例は全身性浮腫を伴っていた. また32例に心不全あるいは低アルブミン血症があり, この両者が心包液貯留の主な原因と考えられた.
    3. 心包癒着例のうち3例は結核性心包炎が, 2例は心筋梗塞に伴う心包炎が癒着の原因であった. 残りの11例中9例でも, 同時に広範な胸膜癒着が認められ, 結核性心包炎が原因であった可能性が示唆された. 心包の石灰化は2例にみられたが, 収縮性心包炎は1例もなかった.
    4. 悪性心包炎はいずれも肺癌, 乳癌あるいは結腸癌の浸潤または転移により生じ, 急性心包炎は全身性または胸腔内の細菌感染症の合併症であった.
    5. 心包血腫は11例が心筋梗塞後の心破裂, 5例が大動脈瘤の心包内破裂によるものであった. 心破裂の男性例は, 陳旧性心室瘤部で破裂した1例のみであり, 新鮮心筋梗塞後の心破裂10例は全例女性であった. これは剖検時確認された女性の新鮮心筋梗塞計35例の28.6%にあたり, 従来の報告に比し高頻度であった.
    以上のように, 老年者の心包病変は, 心筋梗塞, 心不全, 感染症などに続発するものが多いこと, また老年女性の心筋梗塞は, 心破裂の危険が大きいことが示された.
  • 村山 正博, 春見 建一, 加藤 亮子, 村尾 覚
    1975 年 12 巻 6 号 p. 394-399
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    健康者および非心疾患患者171人を若年者群 (39歳以下, 男31人, 女17人), 中年者群 (40~55歳, 男44人, 女32人), 高年者群 (56歳以上, 男30人, 女17人) に分け, 自転車エルゴメーター法による運動負荷試験 (300KPM/分, 3分後, 男性600KPM/分, 女性450KPM/分, 3分) を行ない, Frank 誘導3軸スカラー心電図を記録, 20msec毎のT波の高さから前額面, 水平面に各瞬時Tベクトルを合成し, T環を作成, 運動前, 中, 後の空間最大Tベクトル (Tmax.) を算出し, 運動によるT波変化に及ぼす加齢の影響を検討した. また運動前, 後の収縮期血圧, 左室駆出時間 (ET) を求め, 加齢との関連において運動によるT波変化に及ぼす影響因子について検討した.
    (1)安静時Tmax, は各群間に差をみとめなかったが, 運動によりTmax. は若, 中年者群では減少, 高年者群では増大傾向をみとめた.
    (2)運動による心拍数の増加は各群間に差をみとめなかったが, 高年者群では若年者群に比し運動による血圧上昇が著明て, またET短縮の程度が少なかった.
    (3)若, 中年者群における運動によるTmax. の減少には主に心拍数増加因子が関与し, 高年者群におけるTmax. の増大には心拍数以外の血行動態的因子の関与が推測された.
  • 佐藤 秩子, 田内 久
    1975 年 12 巻 6 号 p. 400-404
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    組織細胞の老性変化の形態像検討の一環として静止期ヒト生検肝細胞マイクロボディの年齢的消長を主して超微計測的に検索し, さきに検討したミトコンドリアの年齢消長との関連性についても比較検討した.
    一般肝機能検査ならびにH-E染色標本での光顕所見において特に病変のみられない21歳から81歳までの61例の肝組織 (上腹部開腹手術時の精検診断用のもの) の電顕写真について, 肝細胞面積あたりのマイクロボディ数, マイクロボディの大きさを計測し, 各年齢群毎に比較検討するとともに, 計算上の肝細胞面積あたりのマイクロボディの総面積, マイクロボディ一個あたりのミトコンドリア数の算出, 等々によって両者の比較も行なった.
    すなわちマイクロボディは49歳以下のヒト肝細胞ではその数も大きさも最低値を示し, もっとも inactive な状態にあると考えられる. 50歳代から大きさは変わらないが, 数の増加がみられ, 60歳代以後, すなわち一方でミトコンドリアの数が減りはじめ, その増容が顕著になる年齢群で, マイクロボディは数も大きさもふえ, もっとも active な状態にあると考えられる.
    われわれの検索成績でもマイクロボディの数, 大きさなどの消長に対する年齢以外の各種の影響は当然否定できない. またマイクロボディの新生, 再生についてもいろいろと問題があり, ミトコンドリアでみとめられた年齢的消長とその機序において軌を一にするとは考えられない. しかしマイクロボディの数, 大きさについての年齢的消長は細胞内の他の小器官と密に関連しつつ独自の機能を営む一小器官として細胞内の動態の年齢変化の一側面を物語るものと考えたい.
  • 森松 光紀, 平井 俊策, 江藤 文夫, 吉川 政己
    1975 年 12 巻 6 号 p. 405-413
    発行日: 1975/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    1970年から1973年までの4年間に東大老人科を受診した50歳以上の患者2554例を対象として, 老年者のめまいの臨床的分析を行なった. めまい患者の頻度は受診者中19.5% (男17.1%, 女21.8%) で, とくにめまいを主訴としたものは6.1%であった. 頻度の加齢変化についでは男性では一定の傾向がないが, 女性では70歳代にピークがみられた. ただし回転性めまい患者に限れば男性で加齢に伴う漸増傾向を認めた. 全体としてめまい感の患者数は回転性めまいの約4倍に達した. めまいの基礎疾患は多い方から高血圧, 椎骨脳底動脈系血管障害, 内頸動脈系血管障害, 変形性頸椎症, 低血圧の順であったが, 回転性めまい患者の割合は椎骨脳底動脈系血管障害, 内耳障害, 変形性頸椎症の3疾患で高かった.
    めまい患者の有する自覚症状として, 回転性めまい例では手足のしびれ感, 頭重, 耳鳴が, まためまい感例ではこれに加えでもの忘れ, 肩こりも対照例に比べ有意に多かった. 身体的, 神経学的所見のうち高血圧はめまい感と, 片麻痺および両側麻痺は回転性めまいと有意に関連していた. 一般検査成績では心電図変化, 血清総コレステロール値はめまいと関係がない. 血清総蛋白濃度は一般にめまい感症例が回転性めまい例および対照例より低い傾向があり, 女性の60歳代, 70歳代では対照群に対し有意差を示した. 血中ヘモグロビン濃度および赤血球数も70歳以上では同様の傾向がみられた. 頸椎X線検査における脊椎管前後径は男性の回転性めまい例では対照例に比べ有意に狭小であった.
    結局めまいのうち回転性めまいは脳動脈硬化, ことに椎骨脳底動脈系の循環動態に関係が深いようであった. 一方めまい感は血圧, 血清蛋白濃度などの機能的諸因子に影響され, 疾患特異性が劣ると考えられた. この意味で回転性めまいとめまい感を区別しで扱うことは老年者で有用と思われる.
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