老年者の心包疾患を調査する目的で, 浴風会病院の連続剖検例1000例 (男345例, 女655例, 平均年齢79.4歳) について心包病変を検索し, 臨床症状, 検査成績, 他臓器病理所見との対比を行ない, 次のごとき結果を得た.
1. 心包病変は79例に認められ, その内訳は頻度順に, 心包液貯留 (100cc以上, 急性および慢性心包炎各1例を含む) 35例, 心包癒着16例, 心包血腫16例, 悪性心包炎5例, 急性心包炎4例, 心外膜下血腫3例, 慢性心包炎2例であった.
2. 心包液貯留例のうち20例は片側200cc以上の胸水貯留を, 27例は全身性浮腫を伴っていた. また32例に心不全あるいは低アルブミン血症があり, この両者が心包液貯留の主な原因と考えられた.
3. 心包癒着例のうち3例は結核性心包炎が, 2例は心筋梗塞に伴う心包炎が癒着の原因であった. 残りの11例中9例でも, 同時に広範な胸膜癒着が認められ, 結核性心包炎が原因であった可能性が示唆された. 心包の石灰化は2例にみられたが, 収縮性心包炎は1例もなかった.
4. 悪性心包炎はいずれも肺癌, 乳癌あるいは結腸癌の浸潤または転移により生じ, 急性心包炎は全身性または胸腔内の細菌感染症の合併症であった.
5. 心包血腫は11例が心筋梗塞後の心破裂, 5例が大動脈瘤の心包内破裂によるものであった. 心破裂の男性例は, 陳旧性心室瘤部で破裂した1例のみであり, 新鮮心筋梗塞後の心破裂10例は全例女性であった. これは剖検時確認された女性の新鮮心筋梗塞計35例の28.6%にあたり, 従来の報告に比し高頻度であった.
以上のように, 老年者の心包病変は, 心筋梗塞, 心不全, 感染症などに続発するものが多いこと, また老年女性の心筋梗塞は, 心破裂の危険が大きいことが示された.
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