日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
35 巻, 5 号
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  • 上田 一雄
    1998 年 35 巻 5 号 p. 343-352
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年病学における縦断研究の成果を, 老年者の生命予後と循環器病に関する知見に限定して, 最近の内外の文献を参照しながら述べた. 広義に解釈すると縦断研究にはコホート研究のみならず, 前向き症例-対照研究も含まれる. こうした手法を用いる場合には, 疫学研究のみならず, 臨床的研究でも多数の交絡因子を調整して, 得られた結果の独立性を確認することが常道になりつつある. 老年者の生命予後に関しては, 単に平均余命の延長を評価するのみでは不十分で, QOLが保持されねばならない. 健康度の自己評価度が高く, 栄養状態のパラメターとしてBMIや血清アルブミン値が低値を示さず, 適度な身体活動を保つ群の生命予後が良いことが示されている. 認知能力の低下は老年者のQOLを著しく阻害するが, 痴呆でない状態での平均余命が検討されている. 老年者循環器疾患の危険因子として左室肥大が再び注目を集めている. 頭蓋外アテローム硬化とも関係が深く, アテローム血栓性脳梗塞の危険因子となりうる. 血清脂質は加齢とともに減少するので, 老年者冠状動脈疾患の危険因子としての意義は低いが, 老年者でもインスリン抵抗性の介在する可能性は否定できない. 脳血管障害や冠状動脈疾患の死亡率は先進国では近年減少するが, 地域研究でも発症率の低下が認められている. しかし, 1980年代後半から減少幅が鈍化する傾向にある. 大規模症例-対照研究の結果からは, 血清脂質の改善により冠状動脈疾患を減少させ得ることが示されたが, 老年者での成績は乏しい. 老年者の収縮期性あるいは拡張期性高血圧でも, 管理により脳卒中を中心とする心血管病のリスクを減じうる. 老年者高血圧に対する降圧薬としてACE阻害薬の適性が論じられている.
  • 黒尾 誠
    1998 年 35 巻 5 号 p. 353-357
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    最近我々は, ヒトの老化によく似た表現型を示す新しい老化モデルマウス (klotho) を開発した. これはトランスジェニックマウス作成中に導入遺伝子の挿入突然変異によって得られた系統で, 成長障害, 活動性の低下, 寿命の短縮, 動脈硬化, 性腺・胸腺の萎縮, 骨粗鬆症, 軟部組織の石灰化, 肺気腫, 小脳 Purkinje 細胞の部分的脱落, 下垂体成長ホルモン産生細胞の萎縮, 皮膚の萎縮などの多彩な老化現象が常染色体劣性遺伝を示す.
    導入遺伝子をマーカーとしたポジショナルクローニングによって導入遺伝子挿入部位の近傍から1つの遺伝子を単離した. それは新規の1回膜貫通型膜蛋白をコードしており, 細胞外ドメインは植物や細菌のβ-glucosidase と約20~40%のホモロジーを示した. kl gene の発現は主に腎臓と脳で認められたが, klotho マウスでは発現が著減していた. さらに, このcDNAを過剰発現するトランスジェニックマウスを作成してklotho と交配したところ, 全ての老化の表現型が救済された. 以上の結果からこの遺伝子を klotho マウスの原因遺伝子と同定した.
    klotho 遺伝子の発現は本来一部の組織に限局しているにもかかわらず, klotho マウスの老化の表現型は全身の臓器におよんでいる. このことは klotho 遺伝子は何らかの分泌性の因子を介して個体老化を制御している可能性を示している. klotho 遺伝子の機能を解析することで, 老化の分子機構を解明する手がかりが得られるものと期待される.
  • 新津 望, 山崎 純一, 中山 道弘, 梅田 正法
    1998 年 35 巻 5 号 p. 358-362
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    Pirarubicin (THP) を含む化学療法を施行した非ホジキンリンパ腫患者に対し, 心プールシンチグラフィー, 123I-metaiodobenzylguanidine (MIBG) 心筋 single photon emission computed tomography (SPECT), 123I-beta-metyl iodophenyl pentadecanoic acid (BMIPP) 心筋SPECT, ホルター心電図を施行し, THPの心毒性の早期検出を行った. 対象はTHP-COPBLM療法を施行した未治療非ホジキンリンパ腫26例である. THP-COPBLM療法でTHPは40mg/m2を21日毎に投与した. THPの総投与量は平均240mg/m2 (40~400mg/m2) であった. 1) MIBGより得られた washout rate (WR) はTHP総投与量と相関を認め, 心交感神経障害の指標となると考えられた. 2) 左室駆出率 (LVEF) は, THP総投与量と負の相関を認め, 360mg/m2で4例中2例に60%以下に低下した症例を認めた. 3) THP総投与量はBMIPPより得られた extent score, severity score と正の相関を認めた. 4) WRは, 心室性期外収縮の頻度と正の相関を認めた.
    THPは動物実験では doxorubicin (DXR) に比し心毒性が少ないと思われているが, 今回の高齢者の検討ではTHP総投与量約360mg/m2で心毒性が出現する. よって, DXRと同様に左心機能の低下が認められるような重篤な心筋障害が起こらないうちに早期検出することが大切であると考えられた.
  • 桂 秀樹, 山田 浩一, 木田 厚瑞
    1998 年 35 巻 5 号 p. 363-366
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者の反復した顕性誤嚥症例38例につき背景因子, 予後を検討した. 対象症例は男25例, 女13例, 平均年齢81.4歳. 基礎疾患では, 脳血管障害後遺症などの中枢神経疾患が89.5%を占め, 中等度以上の痴呆を63.2%に認めた. いずれもADLの著しい低下を伴っていた. 観察期間内に嚥下性肺炎あるいは気管支炎を二回以上発症した症例は79%であった. 同期間中の入院回数は平均2.3回であり, 84.2%が死亡し, 全症例の50%生存期間は約2年間であった. 全症例の65.6%が肺炎, 呼吸不全あるいは窒息により死亡した. 誤嚥予防として胃瘻造設が16例になされ, 胃瘻造設により50%生存期間の延長が認められたが肺炎の実質的予防とはならなかった.
    以上より以下の結論を得た. 1) 反復した顕性誤嚥症例は脳血管障害後遺症, 痴呆, ADLの著しい低下を背景に生じることが多く予後不良である. 2) 胃瘻造設により延命効果が期待できるが肺炎は必ずしも予防できない.
  • 横田 聡, 光延 文裕, 御舩 尚志, 保崎 泰弘, 芦田 耕三, 柘野 浩史, 谷崎 勝朗
    1998 年 35 巻 5 号 p. 367-373
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    気管支喘息の発症年齢と, IgE系アレルギー反応における変化との関連について検討するために, 中高年発症型喘息 (発症年齢40歳以上) を, 発症年齢別に3つのグループに分類し, これらの発症年齢群, および若年発症型 (発症年齢39歳以下) のグループとの間で, それぞれ比較を行い評価を加えた. (1)発症年齢40歳代と60歳以上では, 血清IgE値が比較的高値 (300IU/ml以上) を示す症例の割合が, 50歳代発症例に比べ高い傾向であった. (2)ハウスダスト (RAST) の陽性となる症例の割合は, 40歳代および60歳以上発症例に比べ, 50歳代では低い傾向であり, 若年型に対しては有意に低値であった (p<0.005). (3)アレルギー疾患 (気管支喘息) の家族歴の存在する頻度は, 50歳代発症例において40歳代および60歳以上に比べ高く, 若年型での割合にほぼ等しかった. (4)50歳代発症例では, 他の年齢群に比べて重症例がやや多い傾向がみられた. 以上の結果から, 中高年発症型喘息において, 発症年齢に伴ってIgE系アレルギー反応の表現が相違することがうかがわれた. その一方で, 中高年型のいずれの発症年齢層においても, 若年発症型のアレルギー反応と類似する, あるいは共通すると思われる点が観察され, 中高年発症型喘息においても, その発症にはアトピー素因の関わる可能性のあることが示唆された.
  • 榎本 睦郎, 水谷 俊雄, 高崎 優, 山田 滋雄, 坂田 増弘
    1998 年 35 巻 5 号 p. 374-381
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    臨床的にアルツハイマー型痴呆 (ATD) と診断された7例の超高齢者 (99~105歳) について神経病理学的検討を行った. その結果, 1) 側頭葉内側に限局性の皮質萎縮を認める症例と, 皮質萎縮が側頭薬のみならず大脳皮質においてびまん性に広がる症例とに分けられた. 萎縮した皮質には第2・3層を中心とする層状変性を認め, 層状変性はグリオーシスを伴う神経細胞脱落と基質の粗鬆化より構成されていた. 層状変性と肉眼的萎縮の程度は一致していた. 2) 限局性萎縮を呈する症例はアルツハイマー神経原線維性変化 (NFTs) が側頭葉内側の特に海馬CA1, subiculum, 海馬傍回に集中し, 極めて少量の老人斑 (SPs) が認められた4例 (Group 1) と, 大量のNFTsとSPsが広範に出現していた2例 (Group 2) とに分けられた. びまん性萎縮を認めた1例 (Group 3) のNFTsとSPsの分布は group 2とほぼ同様であった.
    Group 2, 3は我々のATDの診断基準を満たし, それぞれ limbic type, neocortical type-ATDと考えられたが, Group 1は group 2, 3と同様に変層状性を認めたにもかかわらず, SPsとNFTsの量と分布がATDの病理学的診断基準を満たしていなかった. 以上のことから Group 1は典型的なATDとは異なる病理像を呈しており, 超高齢者に特異な点が注目された.
  • 端野・壮暼研究より
    坂本 賢一, 斉藤 重幸, 高木 覚, 島本 和明
    1998 年 35 巻 5 号 p. 382-388
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    【目的】脳血管疾患と心疾患死亡に対する動脈硬化危険因子集積の関与を前向き疫学調査の成績から解析, 特に性差の影響と中年者と老年者の差異について検討した.
    【対象・方法】1977年より北海道2町村において継続中の前向き循環器疾患疫学調査では, 初年度に無作為抽出した40~64歳の住民1,996名のコホートを設定. 今回は1995年8月31日までに生命予後調査を終了しえた1,819名 (追跡率91.1%, 男性871名, 女性947名, 初年度平均年齢50.9±7.0歳) を解析の対象とし, 初年度年齢61歳未満の中年者男女と61歳以上の老年者男女の4群に分類. さらに初年度の喫煙, 高血圧, 糖尿病, 高脂血症 (総コレステロール220mg/dl以上または中性脂肪150mg/dl以上), 肥満(BMI26.4以上) の有無の5項目を各対象で調査, 危険因子を0ないし1個有するリスク少数群 (以下少数群), 2個以上有するリスク多数群 (以下多数群) に2分. 脳血管疾患死ならびに突然死, 心筋梗塞を含めた心臓死を脳心血管死と定義し, この累積生存率を検討した.
    【成績】危険因子の集積は男性少数群306名, 女性少数群470名, 男性多数群565名, 女性多数群477名. 初年度より1995年8月31日までの死亡者は256名. 男女全体では少数群に比して多数群で生存率が低下し, 男性でその傾向はより顕著であった. また, 男性老年者では多数群で少数群に比し有意に生存率が低値であったが, 男性中年者では少数群と多数群で生存率には差異がなかった. 女性中年者では多数群の生存率が少数群より低値だが, 女性老年者では差異を認めず, 男性とは異なる傾向を示した.
    【結論】生命予後に対する危険因子集積の影響は男女で異なり, 老年者では男性において危険因子の集積が強く生命予後に関与していると考えられた.
  • 齊藤 昇, 土居 芳枝, 青海 仁, 長友 英博, 中島 一郎, 村田 比, 包 隆穂, 佐山 晴美
    1998 年 35 巻 5 号 p. 389-395
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    長期入院の老年患者112例 (男性55例, 女性57例) を対象とした. この内12例 (男5例, 女7例), 82.7±7.4歳 (M±SD) について食事全量摂取の時期 (I期), 経管栄養の時期 (II期) と絶食で輸液療法の時期 (III期) に分けて, 血清脂質の変動を観察した. 残りの100例 (男女各50例) について, 平均4~5カ月の経過で, 血清脂質の変動を観察した. 血清コレステロールのみが減少 (I群), 血清コレステロールとHDLコレステロールの減少 (II群), 血清コレステロールと中性脂肪の減少 (III群), これら3つの血清脂質の減少 (IV群) とこれら脂質の不変 (不変群) に分けた. 脂質の減少は前値に対して20%以上の減少の場合とした. 対象症例は平均80~88歳で, body mass index は14.7~18.4kg/m2と低下していた.
    12例の経過で, エネルギー, 蛋白, 糖質, 脂質とコレステロールなどの摂取量はI期>II期, 或はI期>III期で, III期で最小の傾向であった. この時, 血清コレステロールとLDLコレステロールはI期>II期>III期であり, HDLコレステロール, 中性脂肪と血清総蛋白 (TP) はI期>III期であった.
    群別の比較ではTPはII, III, IV群で有意に減少し, 平均5.6~5.7g/dlの低蛋白血症となった. 血清TPとコレステロールとの間にはr=0.525の有意の正相関が (p<0.01), 食事エネルギー摂取量と血清コレステロールとの間にもr=0.554の有意の正相関がみられた (p<0.001). エネルギー摂取量はIV群で有意に減少し, 上記の3血清脂質が減少していた. BUN, 血清クレアチニン, GOTとGPTは平均的に増加せるも有意の変化でなかった. 以上, すでに低栄養状態にある老年入院患者で, 摂食量減少によるエネルギー摂取低下が, 血清コレステロールやTPの減少を生じ, 最小のエネルギー摂取群であるIV群で3血清脂質の減少がみられた.
  • 1998 年 35 巻 5 号 p. 396-413
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
  • 1998 年 35 巻 5 号 p. 414-422
    発行日: 1998/05/25
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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