日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
43 巻, 6 号
選択された号の論文の28件中1~28を表示しています
  • 三嶋 理晃
    2006 年 43 巻 6 号 p. 667-673
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    国際的な診療指針であるGOLD (Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease) をCOPDの最新の話題を解説した. 慢性安定期においては, 軽いステージから療法を加算していく, すなわちアドオンの原則がある. すべての病期で, 禁煙や大気汚染など危険因子からの回避, インフルエンザワクチンの接種が推奨される. ステージI (軽症) では症状がある場合に気管支拡張薬の投与, ステージII (中等症) では長期作用型を中心に1種類以上の気管支拡張薬の常用およびリハビリテーションの追加, ステージIII (重症) では急性増悪を繰り返す場合に吸入ステロイド薬の常用, ステージIV (最重症) において呼吸不全がある場合は在宅酸素療法や外科的治療を考慮する. 急性増悪時には, 気管支拡張薬の増量, 全身ステロイド薬の投与, 感染の徴候があれば抗菌薬, 心不全の徴候があれば利尿剤, 低酸素血症があれば酸素投与などを行う.
  • 黒尾 誠
    2006 年 43 巻 6 号 p. 674-681
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    クロトー遺伝子は老化類似の表現型を呈する突然変異マウスの原因遺伝子として同定された. クロトー遺伝子は分子量約130kDの一回膜貫通蛋白をコードし, 主に腎臓の遠位曲尿細管と脳の脈絡叢に発現している. クロトー遺伝子欠損マウスは成長障害, 活動性の低下, 不妊, 胸腺・皮膚・骨格筋の萎縮, 動脈硬化, 肺気腫, 異所性石灰化, 骨粗鬆症など, 全身に多彩な老化類似の病態を発症して早期に死亡する. 逆にクロトー遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウスでは寿命が延長する. すなわち, クロトー遺伝子は老化抑制遺伝子として機能している可能性がある. クロトー過剰発現マウスは軽度のインスリン抵抗性と酸化ストレスに対する耐性を示す. これらは種を超えて保存されてきた長生きのメカニズムであり, クロトーによる寿命延長のメカニズムに関与している可能性が考えられた. 最近, FGF23欠損マウスがクロトー欠損マウスと良く似た多彩な老化類似の表現型を呈することが報告された. このことは, FGF23とクロトーが同じシグナル伝達系を使っている可能性を示唆する. FGF23は線維芽細胞成長因子 (FGF) ファミリーに属するホルモンで, 腎近位尿細管に作用してリンの再吸収を抑制する. 実際, クロトー欠損マウスもFGF23欠損マウスと同様, 高リン血症を呈する. 我々は, クロトー蛋白がFGF受容体と結合してFGF23に対する co-receptor として機能することを明らかにした. さらに, FGF23欠損マウスとクロトー欠損マウスに認められる老化類似の表現型の多くが, 高ビタミンD血症を是正することで改善することも報告された. これらのことは, クロトー蛋白が, インスリンシグナルや酸化ストレスの制御ばかりでなく, FGFシグナルやリン, ビタミンD代謝の調節を介して個体老化を制御するという新しい概念を提示している.
  • 神野 正博
    2006 年 43 巻 6 号 p. 682-684
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 長谷川 浩
    2006 年 43 巻 6 号 p. 685-686
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    救急医療全体に高齢者の占める割合は増加している. 高齢者の病態は個人差が大きく非典型的である. また, すでに複数の疾患を有することが多く互いに影響し合っていることが多い. 原疾患の治癒に時間のかかることや合併症のため入院期間が長期化する傾向がある. 自宅退院率も50%程度である. 疾患の治癒のみではなく退院後も含めた介護・福祉援助, 家族の協力が極めて重要である.
  • 若月 芳雄
    2006 年 43 巻 6 号 p. 687-689
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 井藤 英喜
    2006 年 43 巻 6 号 p. 690-692
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 高田 淳, 西永 正典, 土居 義典
    2006 年 43 巻 6 号 p. 693-696
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    近年, 心筋梗塞急性期治療の進歩はめざましく, 特に1990年代から最近に至るまで, 数多くの Randomized Control Trial (RCT) が行われ, 従来の保存的治療に比較して, 各種再灌流療法の良好な成績が次々と示された. しかしながら, これらのRCTにおける対象の多くは50歳代後半から60歳代前半が主体であり, 近年治療戦略上問題となる70~80歳代の後期高齢者が除外されていたり, 対象のごく一部を占めるのみに止まっていた. これに関しては, 高齢者では各種再灌流療法施行する上で, 重症病変が多く, また治療上問題となる腎機能障害や出血性合併症がより高率であるという背景もあったと考えられる. 一方で, RCT以外の大規模登録調査の結果からは, 心筋梗塞患者は年々高齢化しており, 治療現場における現状とRCTの対象症例との問に解離が認められる. これらを踏まえて, 心筋梗塞急性期治療の変遷について, 専門施設でのRCTおよび大規模登録調査と, 地域の高齢医療圏における登録調査 (高知AMI研究会) を比較検討する.
  • 檜垣 實男
    2006 年 43 巻 6 号 p. 697-699
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    超高齢化社会への突入によって, 高血圧を有する超高齢者の人口が増加している. 近年行われた超高齢者のメタアナリシスでは, 心血管死亡は有意に抑制できなかったものの, 脳卒中は34%, 心事故22%, 心不全39%の有意な発症抑制が認められている. また超高齢者ではある程度の認知障害は避け得ないと考えられるが, 近年のデータからは降圧療法による認知症の進行予防も期待できる. すなわち超高齢者においても降圧速度は緩やかではあるが充分な降圧を行うことが, 生活の質の維持からも重要と考えられる. 高血圧を有する超高齢者の人生の最終ステージが実りある幸福なものになるよう全人医療を行うことが重要である.
  • 難波 光義
    2006 年 43 巻 6 号 p. 700-701
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    高齢者の糖尿病は運動能/認知機能低下や鬱, あるいはホルモン療法や抗腫瘍剤治療によるインスリン抵抗性によって発症する例が多く, 多臓器の予備能低下を併存していることが多い. その発症と重症化には, 生活習慣の歪みと老化の両因子が色濃く関与しているが, むしろ高齢者であるがゆえに適切な薬物治療を早期から開始することも必要である. 血糖管理目標は一般成人のHbA1C6.5%未満 (日本糖尿病学会ガイドライン) よりは若干緩めて, 7.0%未満 (種々の問題を抱えた例では8.0%未満) とすることが推奨されている. 経口血糖降下薬でのコントロール不良例に対しては, インスリン注射の併用も試みるべきである. 持効型インスリンアナログの1日1回皮下注射で基礎インスリン補償を行えば, 経口薬との併用療法で良好な血糖コントロールが得られる場合がある. これなら, 家人による注射も可能である. 親族をはじめ介護にあたるキーパーソンの役割が予後を左右すると思われる事例が多く, 高齢糖尿病患者に対する社会医学的対応の整備が今後ますます重要になると考えられる.
  • 冠動脈硬化と関連して
    大久保 信司, 福田 昭宏
    2006 年 43 巻 6 号 p. 702-705
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    近年わが国における虚血性心疾患は, 高齢化人口の著しい増加に伴い, 脳血管障害を上回る勢いで増加傾向を示している. そこで高齢者における急性冠症候群では, その病態の特徴を理解し, 治療方法選択を慎重に行う必要性がある.
    高齢者の虚血性心疾患では, 重篤な心不全状態であることが多く, 冠動脈再血行再建を要する症例も少なくない. しかしながらその治療法選択には難渋・苦慮することが多いが, 近年の冠動脈インターベンション技術の発展は目覚ましいものがあり, 加えて薬剤溶出性ステントの出現にて慢性期再狭窄の著しい低下をもたらしている. 一方, 冠動脈バイパス手術に関しても, 低侵襲的な手法が行われている. 高齢者に対する冠動脈インターベンションの現状に加え, その再灌療法の有効性と今後の虚血性心疾患に対する治療法の展望について報告する.
  • 桑島 巌
    2006 年 43 巻 6 号 p. 706-709
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 島本 和明, 斉藤 重幸, 三浦 哲嗣
    2006 年 43 巻 6 号 p. 710-713
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 大江 透
    2006 年 43 巻 6 号 p. 714-717
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 矢尾板 裕幸, 丸山 幸夫
    2006 年 43 巻 6 号 p. 718-721
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    心不全患者数は増加しており, その中でも特に高齢者の占める割合は高い. 高齢者では, 心不全症状が不顕性であることもあり, 高血圧症, 糖尿病, 高脂血症などの心不全の危険因子ありの状態 (ACC/AHAの心不全 stage A) ではなくて, 心肥大, 心筋梗塞などの心臓の構造変化を有している時期 (stage B) や, 心不全症状発症後 (stage C-D) になって医療機関を受診することも多い. このことは, 高齢者の心不全の予防医学を推進する上での課題である. また, 高齢者では腎障害, 肝障害, 貧血, 運動機能低下など, 異なる病態が並存する場合が多く, それらが心不全の病態を修飾して, 悪化, 複雑化させていく. また, このような状態では心不全の薬剤治療の使用に制限や薬理効果の減弱といった問題も生じる. その中で, 心不全と腎障害・腎不全 (さらには貧血) と連関した病態である cardiorenal (anemia) syndrome の概念が提唱されている. この症候群は特に高齢者に多く, 再入院率が高い, 入院日数が延長するなどの生活の質及び医療経済上の問題を抱えている. このような高齢者によくみられる心不全の診断と病状の把握には, まず注意深い観察が必要であるが, 具体的には Nohria のプロフィールなどを活用し, 可能な限り非侵襲的なアプローチが望まれる. この病態の治療は, 従来からの心不全治療に加えて, カルペリチドの少量からの点滴静注もしばしば有効である. 貧血の合併に対しては, 貧血の程度と治療適応により, 容量負荷に注意しながらの輸血, 鉄剤の投与, 副作用に注意しながらのエリスロポエチンの使用もあり得る. ただし, 高齢者では心不全との関連に加え, それ以外による貧血も存在し得る. 特に悪性腫瘍の合併による貧血は重要であるが, 血清フェリチン値のモニターによる鉄欠乏の評価が鑑別に有用である場合がある. このような高齢者特有の事情を十分考慮した心不全治療は, 生活の質と予後の改善に繋がるであろう.
  • 許 俊鋭, 今中 和人, 阿部 馨子
    2006 年 43 巻 6 号 p. 722-725
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • チーム医療推進について
    浅井 幹一, 櫻井 洋一
    2006 年 43 巻 6 号 p. 726-729
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    高齢者医療の医療環境が長期予後や介護の行方を定める鍵となりうる例として, 急性期から回復期にかけて多職種連携によるチーム医療について検討した. 藤田保健衛生大学病院における褥瘡対策チーム, 胃瘻外来および七栗サナトリウムにおける回復期リハビリテーションの成果は以下のようである. 1) 褥瘡対策チーム: 褥瘡発生率の低下が見られた 2) 胃瘻外来: 転院症例に比べて退院後の生存期間の延長が認められた 3) 回復期リハビリテーション: 従来型リハビリテーションに比べて, 退院時と退院18ヵ月後のADLの有意の上昇と自宅復帰率の増加が見られた. 以上より, 介護負担の軽減, 長期予後の改善のためにはこの時期におけるチーム医療の実施が重要であると考えられる.
  • 住居 広士
    2006 年 43 巻 6 号 p. 730-733
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    日本の保健医療福祉は, 21世紀に向けて医療保険と介護保険という2大社会保険を基軸に再構築された. 急性期の医療から慢性期の介護へと役割が分化している. それぞれの保険給付は, 原則として連帯することなく単独別個の適用による保険分担契約上の責任を負う共同保険になっている. 老人保健制度が, 2008年度から医療保険を支える再保険として, 高齢者医療制度に転換された. 医療生活環境である療養病床は, 平成23年度までに医療療養型は半減し, 介護療養型を廃止することが策定された. 介護保険法第20条 (他の法令による給付との調整) により, 原則として介護保険の給付が優先し, 医療保険からは介護保険の給付に相当するものは行われない. 急性期の医療が必要となった場合には, 医療保険に移ってから保険給付を受けることになる. 日本の介護保険は, 保健医療福祉から独立した制度であり, 新介護保険の目的が自立支援から尊厳の保持となり, 保健医療福祉に医療介護を生み出すセーフテイネットとなる.
  • 陳 和夫
    2006 年 43 巻 6 号 p. 734-737
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • 寺本 信嗣
    2006 年 43 巻 6 号 p. 738-741
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    睡眠時無呼吸は, 加齢とともに増加する. 無呼吸指数 (AI) 5 (/時間) 以上を診断基準とすると, 65歳以上では20%以上が睡眠時無呼吸症候群 (SAS) であるとの報告もある. しかし, そのほとんどが無症状であり, 65歳以上まで生き長えられた高齢者では, いわゆる生存者効果により, SAS自体は予後に影響を示さない可能性が指摘される. 成人の持続陽圧呼吸 (CPAP) 適応基準が, そもそも高齢者にはそぐわない可能性が高く, 治療の必要性の是非が問われる. つぎにコンプライアンスの問題がある. 義歯, 下顎の不安定性などから, CPAP装着が困難なケースがある. たとえCPAPをしても口を開けてしまうケースもある. つまり, 高齢者では, SASと診断しても, 治療が絶対的に必要とは言えず, 多少の不便さを超えて在宅でCPAP治療を継続する意義が成人に比べて低いことが否めない. 睡眠状況, タバコや酒などの生活習慣, 運動習慣などを見直し, 睡眠の改善を先行すべきと考える.
  • 新村 健
    2006 年 43 巻 6 号 p. 742-744
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
  • QOLを重視したマイルドな治療
    荒井 秀典
    2006 年 43 巻 6 号 p. 745-748
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    糖尿病患者のQOLを規定する大きな要因はその合併症の有無である. その血管合併症の予防のためには糖尿病の厳格なコントロールだけでなく, 脂質や血圧の管理が重要である. また, 高齢者糖尿病患者においては, 不十分なコントロールにより脱水, 細菌感染, および認知機能障害を引き起こしやすい. したがって, 高齢者糖尿病患者のより良いADL・QOLを維持するためには糖尿病のコントロールをある程度厳格にする必要がある. しかしながら, 厳格なコントロールによる低血糖は時に眼底出血をもたらしたり, 認知機能を障害したりすることによって, 患者のQOLを低下させる可能性もある. このようなジレンマを解決するために, 高齢者総合的機能評価 (CGA) により包括的に個々の高齢糖尿病患者を評価し, それぞれに応じた最善の治療法を選択することが求められる. 高齢者糖尿病患者の治療を行う上ではこのような高齢者の特徴をふまえて, 個々の患者を包括的に診療し, 血糖コントロールに関して必要に応じてマイルドに治療する必要がある.
  • 白濱 勲二, 三森 康世, 加世田 ゆみ子, 小林 隆司
    2006 年 43 巻 6 号 p. 749-754
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    目的: 本研究の目的は非痴呆のパーキンソン病 (PD) 患者の前頭葉機能を神経心理学的評価と行動学的指標 (Stroop reaction time: SRT) を用いて検討することである. 方法: PD, 健常高齢者, 健常若年者に対して, Stroop 様画像を用いた標的画像, 非標的画像を20%, 80%の刺激頻度でランダムに提示し, 標的刺激に対するボタン押し反応を課題とした. また, 刺激画像は Simple, Congruent, Incongruent の3条件とし, mental set に干渉効果を負荷した. 前頭葉機能を反映する神経心理学的評価として Stroop test, Word Fluency Test (WFT), Geriatric Depression Scale (GDS), Trail Making Test (TMT) を実施した. 結果: SRTは Simple 条件と比較して Congruent 条件, Incongruent 条件で遅延した. この反応時間の増加は対照群にもみられたが, PDは健常高齢者と比較して Congruent 条件よりも Incongruent 条件において有意な反応時間の遅延がみられたことから, 文字の意味と色が不一致な条件での判断により多くの時間を必要とした. 結論: PDのSRTの遅延は運動反応時間の遅延に加えて, 前頭葉機能障害による情報処理能力の低下が示唆された.
  • 吉田 剛, 内山 靖
    2006 年 43 巻 6 号 p. 755-760
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    目的: 脳血管障害 (CVD) による嚥下運動障害者の嚥下障害重症度が変化したときの嚥下運動および頸部・体幹機能の変化の関連性を検証して, 臨床上注目すべきポイントを明らかにすること. 方法: 対象は, 2週間以上の間隔をあけて2回以上の測定を行ったCVDによる嚥下運動障害者59例で, 嚥下障害重症度の変化からA: 改善群, B: 悪化群, C: 不変群の3群に分類した. 嚥下障害重症度は, 4つの嚥下機能評価 (反復唾液嚥下テスト, 改訂版水飲みテスト, 食物テスト, 才藤の臨床的病態重症度) とし, このうちのいずれかの1ランク以上の変化を改善または悪化の判断基準とした. 嚥下運動および頸部・体幹機能は, 筆者らが開発した4つの嚥下運動指標 (オトガイ~甲状軟骨間距離GT・甲状軟骨~胸骨間距離TS・相対的喉頭位置 (GT/(GT+TS))・舌骨上筋筋力 (GSグレード), 頸部可動域 (4方向) と頸・体幹・骨盤帯機能ステージ (NTPステージ) の計9項目であった. 変化した前後の各指標の比較には Wilcoxon の符号付順位和検定を用い, 危険率5%未満を有意水準とした. 結果: A群は30例 (平均68.1歳), B群は6例 (平均78.7歳), C群は23例 (平均73.0歳) であった. 各群間の基礎データには有意差がなく, 変化前の機能は, B群の頸部回旋と側屈の可動域がA群に比べ有意に低かった. 嚥下運動の指標は, A群では, 頸部伸展と回旋可動域, GSグレード, NTPステージの4つの指標が有意に改善した. B群では相対的喉頭位置のみ高位に変化した. C群では有意な変化はなかった. 結論: 嚥下機能の改善を図るには, 嚥下筋機能 (局所) と頸部・体幹機能 (全身) の両面からのアプローチが必要である. また, 悪化を防ぐためには, 不良姿勢などに起因する喉頭位置の偏椅に注目したアプローチが必要である.
  • 稲葉 康子, 大渕 修一, 岡 浩一朗, 新井 武志, 長澤 弘, 柴 喜崇, 小島 基永
    2006 年 43 巻 6 号 p. 761-768
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    目的: 介護予防事業の対象となる虚弱高齢者のための身体活動セルフ・エフィカシー (身体活動SE) 尺度はない. そこで本研究は, 1) 虚弱高齢者向け身体活動SE尺度を作成し評価する, 2) その尺度で虚弱高齢者の身体活動SEを評価し, 年齢, 性別, 活動能力との関係を調査することを目的とした. 方法: 対象は地域在住高齢者187例であった. 身体活動SEは,「歩行」,「階段昇り」,「重量物挙上」の3項目の加構成とした. 対象者の内100例に対し身体活動SEの再検査を行った. 身体活動SE, 身体機能 (通常歩行速度, 最大歩行速度, 膝伸展筋力, 握力), 老研式活動能力指標 (老研式) を評価し, 検査・再検査法, α係数にて信頼性, 外的基準としての身体機能との相関分析, 因子分析により妥当性を検証した. 前期・後期高齢者の年代層別, 性別による身体活動SEの相違, 老研式の下位尺度について単相関係数を求めた. 結果: 検査・再検査による相関係数と,α係数は, 歩行 (r=.72, P<.01,α=.82), 階段昇り (r=80, P<.01,α=.90), 重量物挙上 (r=.60, P<.01,α=.78) であり, 信頼性が確認された. 身体機能と身体活動SEは, 全ての項目で有意 (P<.01) な相関を得た. また因子分析では3因子が抽出された. 年齢層別の比較において,「重量物挙上」のみ前期高齢者が有意 (P<.05) に高く, 性別の比較では, 全ての項目で男性が有意 (P<.01~.05) に高値であった. また老研式との関係では,「歩行」項目と「手段的自立」「知的能動性」「社会的役割」,「階段昇り」項目と「手段的自立」「知的能動性」に有意 (P<.01~.05) な相関が認められた. 結論: 虚弱高齢者の身体活動SE尺度の有用性が示唆された. 今後, 虚弱高齢者に対する身体機能やQOL改善のための方策を考える際に身体活動SEを導入し, 身体機能, QOLの改善との関係について検討する必要がある.
  • 辻川 知之, 木藤 克之, 安藤 朗, 佐々木 雅也, 小山 茂樹, 藤山 佳秀
    2006 年 43 巻 6 号 p. 769-772
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    目的: 潰瘍性大腸炎 (UC) は20歳代から30歳代の若年者に好発する原因不明の慢性炎症性腸疾患であるが, 高齢者UC患者数は罹患期間の延長と高齢発症の増加に伴い, 以前より増えている. 若年者と高齢者では発症要因が異なる可能性もあり, 高齢者UCの病態と治療の特徴を明らかにすることは重要である. 方法: 今回われわれは当科外来通院中の260例UC患者のうち, 50歳~64歳23例と65歳以上の9例を対象として, 罹患年数, 初診時ならび通院中の重症, 度罹患範囲, 治療内容, 併存疾患について, 高齢者UC患者の特徴と治療上の問題点について検討した. 結果: 通院中UC患者の年齢分布ならびに発症年齢の分布は若年者をピークとして, 年齢とともになだらかな減少を示し, 高齢者に第二のピークはみられなかった. 高齢者UC患者では重症度は中等症が最も多く, また罹患範囲も左側大腸炎型と全大腸炎型が大半を占め, 軽症が多いという特徴はみられなかった. 治療も重症度に沿って行われ, 効果も若年者と同様に見られた. ただし, 腸管外合併症以外にも多くの併存疾患がみられ, とくにステロイド投与は慎重を要する症例の割合が増加した. 結論: 高齢者UC患者は以前の報告で指摘された特徴はなく, 最近の報告と同加様に若年者と同様の重症度や病型分布を示した. したがって, 年齢に関係なく治療指針に則った内科的治療を試みれば良いと思われるが, 高齢者では他の併存疾患の発症に注意すべきである.
  • 要介護予防のための包括的健診 (「お達者健診」) についての研究
    岩佐 一, 鈴木 隆雄, 吉田 祐子, 權 珍嬉, 吉田 英世, 金 憲経, 杉浦 美穂, 古名 丈人
    2006 年 43 巻 6 号 p. 773-780
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
    ジャーナル フリー
    目的:地域在宅高齢者における認知機能の縦断変化の実態把握ならびにその関連要因の探索を目的とした. 方法: 地域在宅高齢者を対象として実施した包括的健診 (「お達者健診」) におけるベースライン調査, 2年後の追跡調査の両方に参加し, データが完備した者482名 (男性260名, 女性222名, ベースライン調査時点における年齢範囲70歳~84歳) を分析の対象とした. 目的変数として「認知機能の縦断変化」(追跡調査時点における Mini-Mental State Examination [MMSE]総得点からベースライン調査時点におけるそれを減じて算出した; 正の値は2年間におけるMMSE得点の上昇を, 負の値はその低下を示す) を, 説明変数としてベースライン調査時点における年齢, 教育歴, 聴覚機能障害, 視覚機能障害, 高次生活機能障害, 記憶愁訴, 一人暮らし, 血色素量を, 調整変数としてベースライン調査時点におけるMMSE総得点, うつ傾向, 高血圧・脳卒中・糖尿病既往を, それぞれ医学検診ならびに面接聞き取り調査において測定した. 結果: 重回帰分析を性別に行った結果, 男性では, 年齢 (標準偏回帰係数 (β)=-0.18), 聴覚機能障害 (β=-0.21), 高次生活機能障害 (β=-0.15), 記憶愁訴 (β=-0.20) において, 女性では, 年齢 (β=-0.27), 低教育歴 (β=-0.25), 血色素量 (β=0.16) においてそれぞれ認知機能の縦断変化に対する有意な寄与が交絡因子の影響を調整してもなお認められた. 結論: 男性では, 年齢が高い者ほど, 聴覚機能障害が有る者ほど, 高次生活機能障害が有る者ほど, 記憶愁訴が有る者ほど, 女性では, 年齢が高い者ほど, 教育歴が低い者ほど, 血色素量が低い者ほど, 認知機能が低下することが示された. これらの関連要因は, 地域在宅高齢者における認知機能低下の早期発見に有用であることが示唆された.
  • 新井 武志, 大渕 修一, 小島 基永, 松本 侑子, 稲葉 康子
    2006 年 43 巻 6 号 p. 781-788
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
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    目的: 本研究は, 地域在住高齢者の介入前の身体機能レベルと運動介入による身体機能改善効果との関係を明らかにすることを目的とした. 方法: 対象は東京都内の7つの自治体の地域在住高齢者276名 (平均年齢75.3±6.5歳) であった. 個別評価に基づいて高負荷筋力増強トレーニングとバランストレーニング等を組み合わせた包括的な運動トレーニングを3ヵ月間行った. 運動介入の前後に最大歩行速度, Timed Up and Go, 開眼・閉眼片足立ち時間, ファンクショナルリーチ, 筋力, 長座位体前屈などの身体機能測定を行い, 各体力要素の改善効果と初期の身体機能レベルとの関係を検討した. 結果: 対象者の運動介入前の平均最大歩行速度は85.8±30.6m/分と虚弱な対象であったが, トレーニングの脱落率は8.0%と低値であった. トレーニング後, 閉眼片足立ちを除き, すべての身体機能において有意な改善を認めた (P<.01). 最大歩行速度の変化量以外, 身体機能の変化量・変化率は, 初期の身体機能レベルと負の相関を示した(|r|=.20~.59, P<.01). また, 重回帰分析の結果, 各身体機能の変化量を説明する変数として複数の身体機能要素が抽出された. 結論: 虚弱高齢者を含んだ対象への運動介入の結果, 身体機能レベルが低い者ほど, 身体機能改善効果が高いことが示された. 適切な対象を選択することがトレーニングの効果を高める重要な点であることが示唆される. トレーニングの対象をより明確にして介入を加える, いわゆるハイリスクアプローチが有効であると考えることができる.
  • 2006 年 43 巻 6 号 p. 789-796
    発行日: 2006/11/25
    公開日: 2011/02/24
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