日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
53 巻, 2 号
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目次
原著
  • 河合 恒, 猪股 高志, 大塚 理加, 杉山 陽一, 平野 浩彦, 大渕 修一
    2016 年 53 巻 2 号 p. 123-132
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    目的:健康寿命の延伸には主観的健康感の維持向上が重要である.化粧ケアは従来研究において少数症例では高齢者の主観的健康感を高める可能性が示唆されていた.本研究では,化粧ケアの地域在住高齢者の主観的健康感への効果を,包括的健診を活用した傾向スコア法による擬似的無作為化比較対照試験にて検討した.方法:東京都板橋区の9地区在住の65歳以上の地域在住高齢者全員7,737名に対して,化粧ケアプログラム参加者募集案内を送付し,参加者を募った.113名が月2回3カ月間(全6回)の美容教室と日々のスキンケアによる化粧ケアプログラムに参加した(介入群).一方,地域在住高齢者から包括的健診参加者を募集し759名が参加した.このうち,化粧ケアプログラム不参加者で3カ月後の事後アンケートに回答した576名から,参加者と同じ背景要因を持つ対照群を,包括的健診で採取した性,年齢,BMI,飲酒の有無,脳卒中,心臓病,糖尿病の既往,基本チェックリスト該当数,握力,通常歩行,骨格筋量,骨密度,趣味やけいこごとの有無を共変量とした傾向スコアマッチングにより抽出した.そして,介入群と対照群における化粧プログラム参加後の主観的健康感,抑うつ傾向,外出頻度を比較した.結果:介入後の主観的健康感は,介入群で維持する傾向が見られた.抑うつ度の指標であるSDS(self-rating depression scale)の介入後の平均点は,介入群32.7点に対して対照群では35.3点で,介入群で有意に改善した.一方,対照群では変化しなかった.外出頻度は,対照群では有意に低下した.結論:化粧ケアは,地域在住高齢者の主観的健康感,抑うつ傾向を維持改善する効果があることが示され,健康寿命の延伸に有効なプログラムであることが示唆された.
  • 田中 久美子, 竹田 恵子, 陶山 啓子, 小岡 亜希子, 中村 五月
    2016 年 53 巻 2 号 p. 133-142
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    目的:尿失禁を有する在宅要介護高齢者(以下,高齢者)の排尿状態,及び家族介護者(以下,介護者)の状況を明らかにし,排尿手段に関連する要因を明らかにする.方法:尿失禁を有する高齢者とその介護者を対象に質問紙調査を実施した.結果:分析対象者は101組であった.排尿手段は,トイレとおむつの併用が69人(68.8%)と高率で,トイレ回数が4回未満で失禁量が「中等量」の者,4~8回未満で失禁量が「少ない」者が有意に多かった(p<0.05).要介護4・5の高齢者の状態と介護者の状況のうちχ2検定(又はFisherの直接確率検定)で排尿手段と関連があった8項目を独立変数とし,排尿手段を従属変数とし,ステップワイズ法を用いた多重ロジスティック回帰分析を行った.高齢者が「トイレを正しく使用できる」(p=0.004),「移動動作の自立度が高い」(p=0.028),介護者が「トイレで排泄できなくても仕方がないと思わない」(p=0.027)が,トイレでの排尿に強く影響していた.結論:高齢者のトイレでの排尿は,高齢者の身体機能だけでなく,介護者の排泄介護の考え方にも影響を受けていた.排尿援助では,高齢者の身体機能を維持し介護者を支援することと,必要に応じて残尿を測定するなど膀胱機能をアセスメントし医師と連携することが重要である.
  • 三小田 亜希子, 高橋 健二, 松岡 孝
    2016 年 53 巻 2 号 p. 143-151
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者に新規発症した1型糖尿病の報告が増加している.高齢発症1型糖尿病の臨床的特徴を明らかにすることを目的に,1型糖尿病の自験新規発症例において,1型糖尿病の臨床的特徴を65歳以上とそれ未満の発症年齢群に分けて分析した.方法:【分析I】2000年7月から2013年6月までの間に当科へ入院した65歳以上で新規発症(病歴1年未満)した糖尿病199名(65~92歳)を対象に糖尿病の病型,すなわち1型(1A/1B)・2型・膵性(悪性/良性)・その他の糖尿病,の頻度を調査した.さらに全例を75歳未満と以上で分けた群間比較を行った.【分析II】同じ期間に当科へ入院した全年齢域での新規発症1型糖尿病118名のうち,未成年例,緩徐進行1型糖尿病,劇症1型糖尿病,データ欠損例を除外した85名(20~92歳)を対象に,発症様式・BMI・ほか臨床背景・C-peptide(CPR)値・膵島関連自己抗体・HLA DR抗原を,65歳未満(n=71)と65歳以上(n=14)の2群間で,さらに後者を75歳未満と以上で分けた2群間(各n=7)で群間比較した.結果:【分析I】199名の糖尿病の病型は,1型糖尿病(1A/1B,n=12/4),2型糖尿病(n=155),膵性糖尿病(悪性/良性,n=16/6),その他の糖尿病(n=6)に分かれ,1型糖尿病は全体の8.0%(16/199),65歳~75未満で6.5%(9/139),75歳以上で11.6%(7/60)を占めた.【分析II】65歳未満と以上の2群間で,臨床背景,CPR値に差はなく,GAD抗体,ICAおよびIA-2抗体の頻度にも有意差はなかった.75歳未満と以上で分けた2群間でも各指標に差はなかったが,IA-2抗体の陽性率は65歳未満群48.5%(32/66),65歳以上群35.7%(5/14),75歳以上群では57.1%(4/7)の頻度を示した.HLA DR4/DR9抗原の保有率に2群間で差はなかった.結論:高齢者において1型糖尿病新規発症はまれではなく,IA-2抗体測定は高齢1型糖尿病の診断に寄与する.
  • 齋藤 由扶子, 坂井 研一, 小長谷 正明
    2016 年 53 巻 2 号 p. 152-157
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    目的:かつてスモン(SMON:subacute myelo-optico-neuropathy)患者には認知症は少ないと言われ,原因の一つにキノホルムのアミロイドβ凝集阻害効果が推測された.一方キノホルム中止後40年以上が経過し,スモン患者は高齢化し老年症候群である認知症の増加が予想された.そこでスモン後遺症をもつ高齢者の認知症の有病率,および現在のアルツハイマー病(以下ADと略す)発症に過去のキノホルム内服量が影響しているかを調査した.方法:対象は2012年スモン検診において,MMSEを解析しえた647例(男性195例,女性452例,平均年齢77.9歳)である.1次調査(MMSE)の結果23点以下は105例であった.2次調査:105例の認知症の有無と背景疾患を,検診を行った神経内科医あるいはかかりつけ医に質問した.次に検診のデータベースを用い「最も重度であった時のスモン症候の重症度」と現時点のAD合併との関連を解析した.結果:認知症の有病率の推定値は9.9%(95%信頼区間:7.3,12.7%),65歳以上に限定すると10.9%(7.9,13.8%)であった.認知症35例のうちADは25例,ADと血管性認知症の合併は4例であった.AD合併と過去に最も重度であった時のスモンの重症度との関連性は,視力障害,歩行障害のいずれにおいても認められなかった.結論:2012年スモン検診受診患者における認知症の有病率は9.9%(65歳以上では10.9%)で65歳以上地域住民(15%)に比べて低値であった.しかし本研究では,対象が検診患者のみでスモン全体を反映せず過小評価の可能性がある.従ってキノホルムのAD発症予防効果は言及できない.キノホルム量はスモンの重症度と関連するため,現時点のAD合併は過去に内服したキノホルム量と関連はないと推察した.
症例報告
  • 福田 信之, 上野 博志, 平井 忠和, 井上 博, 絹川 弘一郎
    2016 年 53 巻 2 号 p. 158-163
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル フリー
    大動脈弁狭窄症(AS)は加齢に伴い増加し,心不全などの症状が出現すると予後は不良である.症候性ASは早期に大動脈弁置換術を行うことが推奨されているが,高齢者ASでは手術リスクを考慮し保存的治療にとどまる例が多い.近年,開心術不適応のASに対して経カテーテル大動脈弁植込術(Transcatheter Aortic Valve Implantation(TAVI))が可能となり,従来の治療と比べ低侵襲的に施行可能であることから特に高齢者への治療拡大が期待されている.今回,開心術のリスクが高い超高齢ASに対し,TAVIを施行し良好な経過が得られた1例を報告する.85歳の男性で,AS,間質性肺炎,関節リウマチ(RA)のため通院加療中であった.NYHA IIの心不全症状を有し,心臓超音波検査で大動脈弁弁口面積0.71 cm2,大動脈弁通過最高血流速度4.4 m/秒,大動脈弁平均圧較差46 mmHgであり重症ASと診断した.症候性の重症ASを有し手術適応と診断したが,間質性肺炎のため呼吸機能は低下し,RAに対して免疫抑制剤を服用していることから,開心術リスクが高くTAVIが望ましいと判断した.経大腿アプローチで,バルーン拡張型生体弁26 mm弁を留置し合併症なく終了した.手術翌日から歩行可能で,術後6分間歩行距離・息切れ症状は改善し,ADLも低下することなく術後7日で退院した.今まで治療困難と判断されてきた高齢AS治療において,TAVI治療により良好な経過が得られた.開心術リスクの高い高齢ASに今後TAVI治療が拡大していくことが期待される.
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