本研究は,石川県手取川扇状地〈面積17,682 ha〉を対象に,定常的な水収支の分析を行ったものである.対象地区を水路・土壌層系,帯水層系に分け,これに手取川との交換水(涵養量と還元量の差)を加えたモデルを想定した.年間の水収支に関する新知見は次のようである.降水量6.64 mm/dに対し,直接流出量は2.53 mm/dであり,水路・土壌層系への土壌面浸入量は4.11 mm/dとなる.これに取水量9.12 mm/dが加わり,蒸発散量2.45 mm/dと帯水層系への浸透量3.21 mm/dとが支出される.残りの7.57 mm/dが直接または近傍の排水路を経て日本海に地表水として排出される.帯水層系へは水路・土壌層系から3.21 mm/dと手取川からの交換水量2.15 mm/dが加わり,井戸から1.73 mm/dが揚水利用されるので,残りの3.63 mm/dが地下水として日本海または近傍の排水路に排出される.灌漑期と非灌漑期の水収支の概要も年間の水収支と同様に分析した.このように,手取川扇状地の水収支要素は互いに深く関連しているので,個別の目的のみによって水資源の利用・管理を行ったのでは,持続可能な水利用を行うことはできないことを示した.
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