インドは4つの主要な国際河川が流れる世界でも特異な国であり,隣国4カ国との間で水資源をめぐって様々な紛争を経験している.紛争を解決するために,それぞれの国が互いに受け入れ可能な合意に達し,条約や政治的文書などを用いて,常設の共同機関を設置した上で,データの交換や視察を実施することで合意を担保してきた.その後,それら合意文書に規定された目的や義務は履行されてきたのか,先行研究では必ずしも十分に分析されてこなかった.さらに,インドを軸にした4河川の比較研究も皆無だったが,近年になり政府や国際的な共同機関がデータや議事録などを積極的に公表するようになったことから履行状況の比較分析が可能になった.履行状況を比較すると,インダス川で特に条約上の目的や義務が着実に履行されており,ブラマプトラ川でも合意内容を拡大する中で信頼関係を積み上げている.しかし一方で,ガンジス川とマハカリ川では合意内容が資金不足や実現可能性調査の遅れにより,必ずしも履行されていないことが判明した.人口増大や経済成長により今後ますます稀少化する水資源をめぐる国家間の争いを軽減するためにも,紛争を経験した国際河川上の過去の合意の履行状況を把握・比較し,それらの共通性や差異を探ることは意義があると考える.
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