上層を落葉広葉樹林(主にコナラ),下層を常緑樹で覆われた二次林においてCO2フラックスと熱フラックスに関する乱流観測を約1年間実施し,各フラックスの季節変化と年間のCO2収支を算出した.熱フラックスは,上層のコナラの着葉状態により大きな季節変化を示し,冬期には顕熱が大きく潜熱が小さいため日平均のボーエン比が1から3を示した.コナラの開葉とともに潜熱が卓越するようになり,夏期には日平均ボーエン比が0.2から0.5と小さい値を示した.この季節変化の傾向は同じコナラを主とする落葉広葉樹林と同様の観測結果となった.森林による正味のCO2吸収量も上層木の着葉状態に大きく依存し,5月下旬から6月上旬に最大となった.欠測期間のCO2フラックスの補完には,日中はPPFD(光合成光量子束密度),夜間は風速による関係式を用いて,CO2収支の季節変化を推定した.その結果,当森林では12月から4月まではCO2を放出,5月から11月まではCO2を吸収していることになった.年間のNEP(Net Ecosystem Production;正味の生態系生産量)を見積もった結果,-6.6(tC ha-1 yr-1)となり,南ヨーロッパで観測された値と同程度の吸収量を示した.この原因として,中・下層の常緑樹による光合成の効果と,人為起源によるCO2の施肥効果が原因として考えられた.また,当観測地では水平移流がNEPに影響を与える可能性が大きいことから,CO2収支解析によりCO2の水平移流量を見積もった.冬期のCO2フラックス自体が少ない場合,水平移流は大きな割合を占めたが,夏期のようにCO2フラックスが多い場合には移流の占める割合は少ないものと考えられた.
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