本研究では,植生層内の乱流過程,熱・水交換過程を取り込んだ多層植生モデルを,メソスケールモデルに導入し,一次元大気境界層および2次元山谷風循環の計算を,2種類の簡易植生モデル(粗度法・SIB)と比較する形で行い,以下の結論を得た.1)葉面積密度が密な場合は,各モデル間の熱収支は比較的よく一致する.ただし,SIBモデルと粗度モデルは,抵抗に及ぼす大気安定度の影響を過大評価するため,日中(不安定時)の大気境界層風速(2次元計算では斜面上昇流)を過小評価,夜間(安定時)の大気境界層風速(2次元計算では斜面下降流)を過大評価する傾向にある.2)植生が粗な場合は,モデル間の熱収支の差違が顕著になる.この主な原因として,粗度法は,植生内での放射減衰等が考慮されていないこと,SIBは植生下層部と地表面間の乱流熱輸送量が著しく過小評価されていること,が挙げられる.粗度法およびSIBが,日中に大気境界層風速を過小評価,夜間は逆に過大評価する傾向は,密な場合と同じであるが,上述した抵抗の差違に加え,温位分布の違いも風速分布に影響してくるため,モデル間の違いはより強調される.
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