水文・水資源学会誌
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17 巻, 2 号
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Original research article
  • 小坂 泉, 瀧澤 英紀, 田中 克典, タンタシリン チャチャイ, 鈴木 雅一, 塚本 良則
    2004 年 17 巻 2 号 p. 123-133
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/01
    ジャーナル フリー
    凹凸の大きな森林樹冠上における乱流の性質を調べるため,樹高30mをこえる高木が多数存在するタイ北部の丘陵性常緑林上において乱流観測を行った.乱流変動法により風速3成分(u, v, w)の変動成分は求められた.本研究では乱流の性質は各変動成分の正の生起割合と歪度,摩擦速度に対する各標準偏差の比(σuu* , σvu* , σwu*), および各変動成分の間にある相関係数を用い,これらの分布特徴および大気安定度とσuu* , σvu* , σwu*の関係を調べた.
    その結果,安定度が中立な条件(|(z−d ) ⁄L|<0.05)における乱流の性質はばらつきが大きいものの,摩擦速度に対する各標準偏差の比において風向や風速の条件により系統的な分布が認められた.風向依存性を持つ風上直近の樹木との距離など局所的な影響は,強風時のσwu*とσvu*に強く,σuu*では弱い傾向を示した.σwu*は強風時よりも弱風時の方が1.25程度と一般的な乱流の性質を反映していた.大気安定度が中立な条件においてσuu* , σvu* , σwu*の平均値と標準偏差は,それぞれ1.94±0.32,1.72±0.49,1.31±0.22であった. σwu*は他の植生面上の値とほぼ同じであるが,σuu* は背丈の低い植生などに比べて小さい傾向を示した.
  • 工藤 勝弘, 河上 智行, 山田 正
    2004 年 17 巻 2 号 p. 134-149
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/01
    ジャーナル フリー
    近年,ダム貯水池でのアオコの発生や異臭の発生などダム湖での植物プランクトンの発生に起因する富栄養化問題が大きな課題になってきている.ダム貯水池の富栄養化問題は湖沼の富栄養化現象と同様に扱われ,時間が経過するほど,また滞留時間が長いほど栄養塩が蓄積され,水質が悪化するとの考えが広く一般に強く根付いている.一方,実際のダム貯水池における植物プランクトンの発生状況を見ていくと,必ずしも滞留時間の長期化が植物プランクトンの増加に結びつかない場合もみられる.そこで水資源機構が管理するダム貯水池のうち,上下流方向に長い比較的単純な貯水池形状をした6つのダムにおける過去20ヵ年の水質観測結果をもとに,貯水池内の総リン濃度及び植物プランクトンの指標であるクロロフィルa濃度と滞留時間との関わりから,貯水池内での植物プランクトンの挙動について考察した.その結果,滞留時間が長いダム貯水池における植物プランクトンの現存量は,流下過程で最大に達した後,ダムサイトまでの間に減少していくことが確認できた.これにより植物プランクトンの現存量が最大となるような滞留時間が存在することが示唆された.
  • -2002年7月台風6号豪雨災害を事例として-
    牛山 素行, 今村 文彦, 片田 敏孝, 吉田 健一
    2004 年 17 巻 2 号 p. 150-158
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/01
    ジャーナル フリー
    近年急速に整備されつつある豪雨防災情報の実災害時における効果を評価する観点から,現地調査を行った.調査は2007年7月に台風6号および前線によって,最近30年で最大規模の被害(浸水家屋約700棟など)を生じた岩手県東山町・川崎村を対象とし,水文データの収集,現地でのヒアリング,アンケート調査(有効回答700)などを行った.災害時に,インターネットなどのリアルタイム雨量・水位情報を参照した回答者は5%程度であり,24%の回答者はシステムの存在を知っていたが利用していなかった.川崎村では74%の回答者が,避難などの判断に際して「雨量・水位などの情報を参考にした」と答えた.同村では防災行政無線を通じて国土交通省観測の水位情報などをリアルタイムに伝達しており,この情報が参考にされたものと思われる.車の移動,畳上げなどの家財保全行動の成功・失敗と,雨量・水位情報の取得成功・失敗の相関を見たところ,情報取得に成功した回答者は,家財保全行動に失敗した率が低いという関係が認められた.リアルタイム情報に対する関心自体は高く,情報が的確に伝われば,避災行動の成功につながる可能性が示唆された.しかし,災害時の情報伝達手段としてインターネット等は一般化しておらず,最新技術に過度な依存をせず,複数の情報伝達手段を活用することが効果的と思われる.
Technical note
  • 白木 克繁, 大和 輝子
    2004 年 17 巻 2 号 p. 159-162
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/01
    ジャーナル フリー
    転倒升型流量計を検定し誤差補正を行った.検定に用いた転倒升型流量計は15.7cc,75cc,100ccおよび200ccである.結果,各転倒升は流入フラックスの増大に伴い1転倒に要する水量が増大した.この各転倒升型流量計の誤差補正は2つのタイプに分けられることがわかった.75cc以上のタイプの全ての転倒升では,流入するフラックスと,1転倒に要する水量の関係は1次関数で精度よく表現できた.また流入フラックスがほぼ0の時の各転倒升の1転倒水量が分かれば,同じ補正係数を用いても3%程度の誤差しか生じないことがわかった.しかし,15.7ccタイプの転倒升型雨量計では1次関数型と放物線型によって表現されるものが混在した.このため同じ補正係数では10%程度の誤差が生じ,正確な値を求めるには個々の検定が必要であることがわかった.
  • 菅原 広史, 栗田 智哉, 遠峰 菊郎
    2004 年 17 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/01
    ジャーナル フリー
    気圧を用いた地域平均降水量の推定方法について検討した.2高度で気圧差を測定し,静力学平衡の式と雨滴の落下速度から降水量を求める.気圧計の高度差122.9mで10分間平均値の場合,この方法による検知範囲は半径7.3km領域となり,雨量計による代表領域より広いことが示された.ただし,測定の誤差は174%にもなる.最も大きな誤差要因は気圧差の測定誤差である.
Commentary article
  • 大町 利勝
    2004 年 17 巻 2 号 p. 170-179
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/01
    ジャーナル フリー
  • 加本 実
    2004 年 17 巻 2 号 p. 181-199
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/01
    ジャーナル フリー
    メコン河は中国,ミャンマー,ラオス,タイ,カンボジア,ベトナム,の6ヵ国を流域とする国際河川であり,その流域に住む人々は,東西冷戦,ベトナム戦争,カンボジア内戦,国境紛争などがもたらした長い戦乱で深い傷を負ってきた.その結果としてこの地域は世界でもっとも貧しい地域の一つになっている.幸いなことに,政局の変化がもたらした状況の安定化を受けて,関係国の思惑,期待を調整することに伴う多くの困難を乗り越え,超大国である中国と現在も西側世界から隔絶しているミャンマーを除き,1995年4月5日に下流4ヵ国が新たな協力協定を結びメコン河委員会として再出発した.本稿は協定にいたる経緯,メコン河委員会の組織,現在の活動,今後の展開を,メコン河流域の姿を概括するとともに述べる.さらには,メコン河委員会の枠組みの外でも様々な事業が進行しており,それと現在どう関わっているのか,協定の限界は何かについて記述する.メコン河流域の水を軸とした持続的な発展について,その自然環境,社会環境とそこに住む人々に思いを致しながら,考えるための知見を提供するものである.
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