インドネシア,ジャワ島西部に1980年代初めに建設されたサグリン・ダムは,人口密度が極めて高い地域で建設が計画されたため,移転を余儀なくされる人々への補償が建設にあたっての最大の問題であった.フロー・ダイアグラムと呼ばれる手法がサグリン・ダムにおけるEIA(環境影響評価)では適用され,この時期のプロジェクトとしては,例外的に精緻なEIAが実施されている.本研究では,プロジェクトが実施される前に行われた環境への影響の予測と,実際にプロジェクトが実施された結果として生じた影響とを比較し,両者に差異がある場合には,その原因をEIAの方法論に帰納して解析することを試みた.サグリン・ダムの建設に伴う環境的な変化の内, EIAによる予測が十分ではなかったと判断される事項としては,移転による「村落共同体」への影響,情報の欠如による住民の不安の増大,住民相互の不信の発生,建設工事による住民の雇用の不調,移転者に対する補償の不備などが挙げられる.サグリン・ダムの事例から,同様なダムの建設にあたっては,「村落共同体」を再建することの是非の検討と,再建または非再建に際して住民が新たに生活を確立出来るような施策,水没予定地域の住民へのプロジェクト実施者による正確な情報の伝達,住民相互の不信感の発生を未然に防ぐための方策,建設による雇用機会増大を住民が享受できる体制の確立,水没補償のための基準の確立などによる方法論の整備が必要である.
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