最上川流域は,朝日山地,飯豊山地,奥羽山脈などの山並みに囲まれており,これらの山間部に,降り積もった雪が3月中旬より融けだし,約2ヶ月間続く雪融け出水をもたらす.この期間の流出量は年間流出量の約40%を占め,この地方における主要な水資源となっている.同時に,この出水は中にさまざまな物質を懸濁あるいは溶融し,流域から河口へと輸送している.本研究は,この中の懸濁物質に着目し,輸送量の把握,濃度の時空間的な特性を調べることを目的として,観測・資料収集・解析を行った. 観測は,筆者らが開発した簡易採水器を用いて, 1996年5月2日に最上川中流部の須川合流地点から,下流の鮭川合流地点までの主要5合流地点で行った.また,筆者らの観測データの他に, NOAAの衛星データ,建設省の流量・濁度の連続観測データなどを集め,雪域や時系列の特性を解析した. 本川の流下方向の濃度分布と流量分布を調べた結果,朝日山地や飯豊山地が含まれる,長崎の集水域で生産される濁質が支配的であることがわかった.この地域では, 4月の下旬においても雪域が広く残っていることが衛星データより確認されている.また流量・濃度の連続観測記録を検討した結果,両者には相関があり,濃度は流量の1.44乗に比例することがわかった.その比例係数は時期が遅くなるに従って小さくなり,流域に存在する細粒分が洗い流されたために濃度が小さくなったものと解釈される.これを物質収支を考えてモデル化し,流量の時系列データだけから濃度を予測する方法を提案した.
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