暖温帯多雪地帯に属する第三紀層の山地斜面で,強風時における各種気象観測の結果をもとに,熱収支法を用いて融雪熱量を計算した.その結果,計算融雪熱量は実際の観測融雪水量に相当する熱量より大幅に低く,強風時の融雪現象を再現することができなかった.この理由として,顕熱と潜熱の融雪熱量を算出する際に,バルク係数の値が過小に設定されたためと考えられた.そこで,観測融雪水量からバルク係数を逆算したところ,求められたバルク係数は,一様な広がりをもつ平坦な積雪面でのバルク係数よりも,約2.5倍大きい値となった.求められたバルク係数は,地形的な要因による観測地点固有の値と考えられるものの,山地斜面では風による融雪の影響が大きく,強風時には従来の予想を上回る融雪水が,積雪層から地表面に供給されることが明らかとなった.さらにバルク係数と風速との関係を明らかにするため,快晴弱風時の観測結果を用いて,強風時と同様にバルク係数の逆算を行った.逆算で得られた弱風時のバルク係数は強風時で得られた値とほぼ同様な傾向を示したものの,算出誤差等が大きいことから,弱風時のバルク係数を得るには,より精密な観測を行う必要性があることがわかった.
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