水文・水資源学会誌
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20 巻, 4 号
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Original research article
  • 福井 佑介, 小杉 緑子, 松尾 奈緒子, 高梨 聡, 谷 誠
    2007 年 20 巻 4 号 p. 265-277
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    生育地,生活形態の多様な樹種の樹冠葉における蒸散速度,気孔コンダクタンス,葉・土壌の水ポテンシャル等を測定した.また,P-V 曲線法を用いて葉の水分特性を評価した.そして,得られた通水コンダクタンス,葉の水分特性および蒸散速度を関連づけて解析することにより,多様な樹種の高木個体における水利用様式を明らかにした.冷温帯落葉広葉樹種のブナは通水コンダクタンスが高い反面,葉の初発原形質分離点の水ポテンシャルは高く,脱水を避ける水利用様式を採っていた.温帯常緑針葉樹種のヒノキでは,乾燥期に通水コンダクタンスおよび蒸散速度の低下が見られ,通水障害に対して気孔閉鎖を起こしていたと思われる.暖温帯常緑広葉樹種4種では常に気孔コンダクタンスを低く抑制していた.また,乾燥期には浸透調節を行って葉の耐乾性を高めるなど,乾燥条件下での生存に有利な水利用様式を採っていた.熱帯常緑広葉樹種2種は通水コンダクタンスが低かったが,Dipterocarpus sublamellatus Foxw.は他の2種と比較して通水コンダクタンスが高く,通水距離の増大を克服する給水システムを有している可能性が示唆された.
  • 和佐 守紘, 川口 智哉, 小尻 利治, 東海 明宏
    2007 年 20 巻 4 号 p. 278-290
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,分布型流出モデルによって求めた時空間的な水量分布を利用し,環境中における毒性化学物質濃度の動態推定と生態系への影響評価モデルを構築する.対象流域として琵琶湖・淀川流域を選び,界面活性剤として使用されるノニルフェノールとLASについて詳細な水質モデルを用いて濃度分布を推定した後,複数の毒性化学物質への外挿を行う.さらに,求めた複数の化学物質濃度を入力として,PBPKモデルを用い評価対象とする魚類への蓄積濃度を計算する.最後に,求めた蓄積化学物質濃度を用い魚類に対するリスク評価を行う.
  • 宮本 守, 木内 豪
    2007 年 20 巻 4 号 p. 291-302
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    都市化による不浸透域の増加や水使用量の増加,河川の暗渠化などが水圏に及ぼす影響として流出過程そのものに対する変化のみならず水質汚濁や河川の高温化などを引き起こすことが考えられる.もし都市影響により河川水温が高温化しているのであれば,生息する生物の個体数の増減により河川生態系のバランスが変質する可能性が危惧される.しかしその一方で河川水温の高温化は熱エネルギーとして有効利用することができる可能性がある.そこで著者らは東京近郊を流れる荒川下流部において冬期に集中観測を行い水・熱輸送の実態を調査した.その結果,荒川では新河岸川及び隅田川からの熱が岩淵水門を通って供給されているという輸送特性が明らかになった.次に水・熱輸送の1次元モデルを用いて水温の挙動を再現し,都市の人工排熱である下水処理水が河川水温に及ぼす影響を定量的に評価した.荒川下流部では冬期における下水処理水の流入による水温上昇は顕著であり,平均で約2℃程度,最大では3℃程度昇温していることが分かった.
  • 蔵治 光一郎, 溝口 隼平
    2007 年 20 巻 4 号 p. 303-311
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    かつて「越すに越されぬ大井川」とうたわれながら,戦後の発電ダム建設等により流量の大半を奪われ,下流の一部で「河原砂漠」と化している大井川の流量変化の実態を明らかにするため,1923年から2000年までの流況の長期変動について調べた.その結果,塩郷堰堤建設前の長期平均流況は平水51.0トン,低水29.4トン,渇水16.4トンであったが,建設後の堰堤流入量の長期平均流況は平水10.7トン,低水5.2トン,渇水2.6トンに変化していた.仮に近い将来,大井川の水量を回復するために塩郷堰堤を撤去したとしても,それだけでは下流の大井川に昭和30年代の水量を取り戻すことはできず,水量を取り戻したければ,上流ダム群を含めた総合的な流量再生策を検討する必要があることが示された.
  • 牧野 育代, 寶 馨, 立川 康人
    2007 年 20 巻 4 号 p. 312-328
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    近年,水質汚濁化現象が目立つ奥多摩湖(小河内貯水池)を対象に,1974年-2003年の30年間にわたるプランクトン出現状況のデータとダム貯水池における運転操作の資料とを用いて,貯水池の水質汚濁化現象の移行を検討した.その結果,優占種プランクトンの発生状況からみたダム地点の水質段階の推移は3パターン・3時期に分けられ,現時点では特定種の藍藻の増加に伴う水質汚濁化の進行段階にあることが明らかとなった.ダム地点に出現する藍藻の種が変化するようになった1992年は,同時に“選択取水”が行われるようになった年である.その年を境に藍藻類のAnabaenaMicrocystisが出現して他の藍藻類は出現されなくなった.さらに,1999年以降では,AnabaenaMicrocystisが優占種化するようになった.選択取水の施行は貯水池の流動機構に変化をもたらしたことから,AnabaenaMicrocystisの出現に伴う水質汚濁化の進行の原因には,ダム貯水池の運転管理の変化が関与していると考えられた.
  • 関井 勝善, ポール ジェームス スミス, 小尻 利治
    2007 年 20 巻 4 号 p. 329-339
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    近年,流域の各地で台風や集中豪雨による氾濫被害が多発しており,流域全体の流出状況を把握する必要が高まってきた.DEMなどの数値情報が整備され分布型流出モデルの適用が提案されている.しかし,実時間での洪水予測と言う観点からは,より迅速で精度の良い方法を求められている.そこで本研究では,流域の各地点の河川流量状況を実時間で把握し,人工知能手法を利用して実時間での分布型洪水予測の開発を行うものである.分布型流出モデルのパラメータ同定にはパーティクルフィルタを適用し,実時間での流出モデルとして状態空間型ネットワーク法を採用する.ネットワーク構造の最適化には最適ブレインダメージ法を導入し,不必要な結合の削除と予測の効率化を図る.なお,長良川流域での適用を行い,その有効性を確認する.
Technical note
  • 小島 紀徳, 斉藤 則子, 田中 淑子, 濱野 裕之, 加藤 茂, 田原 聖隆, 高橋 伸英, 山田 興一
    2007 年 20 巻 4 号 p. 340-346
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    地球温暖化主要原因物質である二酸化炭素の削減対策として,炭素固定のための乾燥地における大規模植林技術の確立が求められている.乾燥地は植物成長に必要な水の量が大変少ないため,高効率な水利用が望まれる.樹木が成長のために必要とする水量を,樹木内の塩類収支により推定をする方法が提案されたが,この方法の精度を上げるためには,どの塩類に注目すべきか,また樹液中の濃度としてどのように代表値を定めるかが鍵となる.従って,様々な因子による樹木内塩類挙動の影響を,詳細に確認することが必要である.本研究では,西オーストラリア州レオノラ近郊を対象とし,対象地の優先樹種であるEucalyptus camaldulensisの自然植生を用い,樹液内塩類挙動について,樹液採取圧力,樹木樹高,根元からの距離,そして一日の中での変動,これらの因子による影響を検討した.その結果,圧力上昇に伴い樹液中塩類濃度はある幅内の収束傾向が見られ,影響を与えていることが確認された.また,日変化の影響も見られた.その他の因子については,樹液内塩類濃度に,顕著な挙動特性は確認されなかった.
Review article
  • 田中 延亮, 久米 朋宣, 吉藤 奈津子, 田中 克典, 瀧澤 英紀, 白木 克繁, 小坂 泉, タンタシリン チャチャイ, タンタム ニポ ...
    2007 年 20 巻 4 号 p. 347-361
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    タイ北部の熱帯季節林の水文気象を調べた既往の観測研究情報を整理し,今後の研究課題を検討した.まず,森林生態学分野の文献より,この地域の多様な森林植生を四つの潜在的な森林タイプとそれぞれが人為撹乱されたタイプに分類した.熱収支の季節変化などの水文気象に関する基礎情報は,一部の森林タイプを除いて主要な森林タイプで既に調べられていた.その情報を整理した結果,森林タイプによって乾季の蒸発散量に大きな違いがみられることが,この地域の森林植生における水文気象の大きな特徴であることがわかった.この地域の熱帯季節林にとっての環境変化のリズムは,雨季と乾季という毎年繰り返される季節変化に加えて,降水量やその季節変化の年々変動によって形成される.最近の幾つかの研究事例より,その降水の年々変動に伴って,この地域の熱帯季節林の生理生態が単年の調査からは想定できなかった応答を示すことが報告されてきた.このような森林の生理生態の反応は,この地域の熱帯季節林における熱・水・炭素循環が年々に大きく変化することを示唆する.今後の研究課題として,降水の年々変動に対する各熱帯季節林の反応を明らかにしてゆくことが重要であると考えられた.
Commentary article
  • 知花 武佳, 林 融, 三宅 基文
    2007 年 20 巻 4 号 p. 362-372
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/09/10
    ジャーナル フリー
    河川物理環境の改善には,土砂動態の把握が不可欠である.そこで,早瀬内の微生息場が形成される過程を,土砂動態の観点から調べることとした.
    解析では,空間スケールの階層性に注目し次の三段階の過程に注目した.まず,土砂供給量が砂州の発達度を決定し早瀬形状が決まる過程,次に早瀬形状が決まり,その内部の水深・流速分布や河床形状が決まる過程,さらに早瀬内部での水理環境が決まった結果,砂の動き方が決まり,多様な河床構造が形成される過程である.
    その結果,以下のことが明らかとなった.まず,早瀬形状は供給土砂量が多く発達した砂州から順に,狭窄型,縦長型,横長型となり,それぞれ特徴的な縦横断勾配,水理環境を有している.また,早瀬の河床表層に形成される浮き石は流量の大きな早瀬ほど厚く,形状的には狭窄型が最も多様で厚い浮き石が形成されやすい.さらに,早瀬内部の礫構造は,瀬脇よりも澪筋が,瀬頭よりも瀬尻が,厚い浮き石の層を形成しやすい.ただし砂の流入量は左右岸で異なり,洪水後しばらく砂が流れる瀬脇とそうでない瀬脇ができる.この様な浮き石の形成には数週間の時間を要し,早瀬内の多様な礫構造が徐々に形成されていく.
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