氾濫源や河岸湿原は,高い生物多様性と水質保全機能を持つとされるが,これにかかわる水位変化と河川との間の水交換を調べた研究は少ない.本研究は,霞ヶ浦最大のヨシ原である妙岐ノ鼻湿原において水位の空間的分布と時間変化を年間観測した結果,次の3段階のメカニズムによって水位変化が生じることを明らかにした.1)霞ヶ浦の水位が湿原地盤高を超えると湿原内に河川・湖から水が流入し,湿原全体が冠水する洪水ピーク時には湿原内の水位は湖・河川に一致し,湿原水位は湖の水位で決まる.2)その後,水位が河岸以下に低下すると,湖の水位が速やかに低下しても湿原内の水位は緩やかに逓減し,また,湿原内の地形・標高により水位低下速度に差が生じる.3)さらに,湿原水位が地盤高を下回ると,蒸発散のみで水位低下が生じるが,地下水面が土中のために水位低下速度は速くなる.氾濫時における水収支から,2006年における湿原と湖・河川との間の水の流入・流出の水交換の量を求めたところ,増水時の湿原水位上昇において河川からの水の浸入が58~78 %を占め,4回の氾濫による流入・流出量はほぼ年間の降雨量に匹敵する1300 mmであった.この氾濫時の湿原と河川との間の水交換が物質交換をもたらし,湿原の水質と生態に影響すると推察される.
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