水文・水資源学会誌
Online ISSN : 1349-2853
Print ISSN : 0915-1389
ISSN-L : 0915-1389
20 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著論文
  • 手計 太一, 吉谷 純一, スヴァンピモル チャンチャイ, 宮本 守, 山田 正
    2007 年 20 巻 3 号 p. 145-155
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/23
    ジャーナル フリー
    タイ王国・Chao Phraya川を対象とした水循環モデルを用いて,大規模ダム貯水池などの人間活動が全く考慮されていない自然流況の推定を行った.そして,現況の日河川流量の観測値と計算結果を比較することによって,大ダム貯水池の持つ治水・利水の効果について検討を行った.その結果,利水については,大ダム貯水池建設・運用によって低水流量が顕著に増加しかつ安定化したことを明らかにした.また,治水効果については,対象流域における水政策上最も重要なC.2観測所(ナコンサワン市)においてピーク流量を最大で57.8 %,平均でも42.4 %の流量低下に寄与していることを明らかにした.さらに,大ダム貯水池建設・運用によって小・中規模の洪水を約40 %減少させ,大規模洪水についても約35%を減少させる能力を持つことを明らかにした.
  • 西山 浩司, 神野 健二
    2007 年 20 巻 3 号 p. 156-166
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/23
    ジャーナル フリー
    豪雨場の特徴を把握するためには,大気の成層状態に関する詳細な情報,特に,その面的な変化に関する情報が必要である.しかし,成層状態は,気温と水蒸気量の鉛直分布から構成される多次元情報なので,その面的な特徴を解釈することが難しい.そこで,本論文では,多次元の成層状態を一塊の情報として捉え,自己組織化マップ(SOM: Self-Organizing Map)を用いて,北部九州を対象に,梅雨期の成層状態のパターンを分類した.その結果,梅雨期の成層状態に関する特徴的なパターンを把握することができた.次に,1999年6月29日に福岡都市圏を襲った豪雨イベントを対象にして,SOMによる成層状態の診断を行い,そのパターンを対象領域内に表現した.その結果,SOMの特性に着目することによって,この豪雨イベントに対する成層状態を比較的容易に把握することができた.以上の解析から,従来の煩雑な成層状態の解析の代替手段として,SOMによる成層状態の診断と,そのパターンの面的表現を組み合わせることによって,豪雨発生環境に関する詳細な情報を系統的かつ簡単に解釈することが可能になると期待される.
  • 樋口 克宏, 戸田 修, 吉田 貢士, 宗村 広昭, 丹治 肇
    2007 年 20 巻 3 号 p. 167-190
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/23
    ジャーナル フリー
    本研究では,タイ東北部のかんがい2地区を対象とし,ゲート管理人密度を考慮した水分配誤差の変動を扱った.対象地域では,水不足が近年続いており,適切なゲート操作による効率的な水分配が課題となっている.そこで,ゲート操作人数の影響と水分配の定量的把握を行うため,分水工と余水吐からなる一次元水路モデルを構築した.この際,低水管理によるゲート操作を基に,施設に関わるパラメータと,操作に関わるパラメータを想定し,1日から2週間にかけての水配分誤差の計算を行った.解析の結果,中流量であれば,ゲート操作人密度が増加することにより,各分水工への分水量の相対誤差は減少するが,区間外への流出量の誤差は,ゲート操作人密度の増加に伴い,必ずしも減少しないことを示した.この際,ゲート操作が2時間で終了する場合には,水分配の誤差は,5%以内であった.しかし,2週間全体では,現状の低い管理人密度であっても,設定開度が正しい場合,日々の定時操作により,誤差5%以内の水分配は可能であった.高流量であれば,ゲート管理人密度に関係なく越流が生じ,下流側への流量が10%程度減少することを示した.
  • Chau Nguyen Xuan QUANG, 陸 旻皎
    2007 年 20 巻 3 号 p. 191-200
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/23
    ジャーナル フリー
    本研究はニューラルネットワークによるレーダー雨量推定技術の評価およびその流量予測への利用について検討するものである.信濃川支川魚野川上流の六日町上流域を対象とし,6洪水の水文データを用いて,ニューラルネットワークによる雨量RNNを,ルーチンレーダー方程式による雨量RZ-Rと地上雨量計雨量RGと比較する.そしてこれらの雨量を分布型水文モデルに入力し,実測ハイドログラフと各雨量の計算ハイドログラフを統計的に比較検討し,その実用性を確認する.本研究では特にレーダー方程式の結果との比較に重点を置く.ニューラルネットワークがルーチンレーダー方程式より精度の高い雨量を得ることができ,流量予測においてもより実測に近いハイドログラフを得ていることが明らかになった.このことから,適切にトレーニングされたニューラルネットワークは雨量観測地点のみならず,流域平均雨量をも安定的に高精度に推定できることが示され,雨量観測所の少ない,または全くない流域にとって有用な雨量推定手法であると考えられる.
  • 小杉 賢一朗
    2007 年 20 巻 3 号 p. 201-213
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/23
    ジャーナル フリー
    森林の水源涵養機能の定量化が社会的に求められていることを背景として,本研究では,土層と透水性基岩のインタラクションを考慮した水文観測ならびにモデル解析により,水源涵養機能に関して土層と基岩のそれぞれが果たしている役割の評価を行った.風化花崗岩を母材とする森林小流域における水文観測結果より,土層からの流出は洪水ハイドログラフを形成するが降雨後には直ちに消滅してしまい,山地河川の基底流は基岩からの流出により維持されていることが示された.この観測結果を受けて,透水性基岩を有する森林斜面における降雨の浸透・流出プロセスを数値シミュレーションで解析したところ,基岩からの流出が無降雨時の渓流水の直接の涵養源となっているのに対して,土層は降雨を一時的に貯留して波形を緩やかに変換した上で系外に放出するバッファーの役割を果たしていることが示された.以上の結果,透水性基岩を有する森林斜面の雨水貯留容量を,単純に土層内の「貯水に有効な孔隙の総量」として定量化するだけでは不十分であり,土層が持つ降雨波形の変換能力や,放出成分の配分特性に着目して検討することが重要であることがわかった.
  • 佐山 敬洋, 辰巳 恵子, 立川 康人, 寶 馨
    2007 年 20 巻 3 号 p. 214-225
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/23
    ジャーナル フリー
    分布型流出モデルで再現する計算流量を,流水の時空間起源に応じて成分分離する手法を提案する.この手法では,分布型流出モデルの各単位斜面・各流出経路を流れている水が,いつどこに降った雨水で構成されているのかを上流から下流まで追跡する.提案する手法を,不飽和・飽和地中流・表面流を考慮する分布型流出モデルに適用し,モデル構造の違いやパラメタの違いが流水の時空間成分に及ぼす影響を分析した.
  • 飯田 俊彰, ソンポン インカムセン, 吉田 貢士, 伊藤 慎之介
    2007 年 20 巻 3 号 p. 226-234
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/23
    ジャーナル フリー
    メコン川の栄養塩類濃度の現状と特性を明らかにするため,ビエンチャンの本流で高頻度の連続観測を行なった.試料を2002年4月から2005年12月まで週2回採取し,その窒素およびリン成分を分析した.過去の月単位の観測では同定されなかった詳細な季節変動特性が,高頻度の観測によって明らかにされた.全体的に,おそらく試料採取地点上流の人口密度と耕地面積率が低いため,栄養塩類濃度は低かった.しかし,アンモニア態窒素濃度は最近の数十年間に上昇傾向を示した.窒素濃度は5月に突然上昇し,この上昇は低水期後の最初の小さな流量上昇と同時に起こった.乾季後の最初の流出が流域や河床に蓄積した窒素分を河川へ運搬し,窒素濃度のこの急激な上昇を招いたことが示唆される.6月以降,窒素濃度は,洪水期の流量増大に拘らず,単調に減少した.6月以降の窒素供給は洪水期の莫大な水量によって希釈されたと考えられる.一方リン濃度は,4月から6月まで徐々に上昇し,洪水期には大きく変動した.洪水期の莫大な水量による連続的な希釈効果と時折起こる大規模な土砂流出が,洪水期のリン濃度の変動特性を説明するものと思われる.
feedback
Top