インドとバングラデシュのガンジス川流域に分布するベンガル沖積平野において,自然由来とされるヒ素によって地下水が汚染されていると報告されてから久しい.汚染された地下水を飲料水として利用する農村部住民の被害を軽減するべく,海外援助機関によって代替技術の導入などが行われてきてはいるが,利用されずに放棄されているということも多い.このように,発展途上国への国際開発援助では現地の風習・文化を考慮せずに導入された技術が持続的に利用されずに放棄される事例が数多く報告されている.
本研究では,当該地域で水汲みの役割を担う女性の行動を制限するパルダという文化的規範が女性の水源選択行動に大きく影響を及ぼしていると考え,水汲みをする際の人目につく度合い(空間の視認性)と女性へのアンケート結果を照らし合わせることで,世帯属性や空間特性と水源選択行動との関連を分析する.そして,インドとバングラデシュでの分析結果を比較し,同様の問題を抱えながらも宗教や経済等の社会環境が異なる両地域への国際開発援助計画は差異化する必要があることを述べ,最終的には,各地域に対してより住民に受容され得る代替水源の導入計画指針を考察する.
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