1地点の土壌水分測定値の時系列を,降水量やポテンシャル蒸発量と共に,底穴付きバケツ(bucket with a bottom hole, BBH)モデルを用いて解析し,その地点の水収支項を評価した.小規模草の1.5m格子上の9点において求められたそれら収支項の推定値は独自の分布を示した.得られた結果は次のように要約できる.
(a) BBHモデルに組み込まれている水収支項の空間変動性の大きさは,
W (土壌水分) <
E (蒸発) <
Rs (表面流出) <
Gd (重力排水),の順番になった.
(b) 3×3mの小面積内で,表面流出と重力排水ははっきりした空間変動パターンを示した.これは地中水が厚さ30cmの表土層より深い所で数メートルのスケールの流系を持っていることを示唆する.
(c) 土壌水分の空間変動と他の水収支項が示す空間変動の分布パターンは必ずしも一致せず,各項独自の形を示した.これはBBHモデルのパラメタリゼーションが,微地形,植被,土壌組成および土壌構造など土壌水分以外の諸因子の影響を適切に反映させることを示唆する.なぜなら,それらの諸因子は本来空間的に組織化された変動を示すはずだからである.
(d) BBHモデルを用いて推定した日蒸発量は,フェッチの不足や地中熱伝導量を無視する便宜的な条件の下ではあるが,参考のためにボーエン比法によって求めた測定結果とよく一致した.
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