群馬県の渡良瀬川上流にある,スギ・ヒノキからなる二つの森林小集水域において,降水,林内雨,樹幹流,土壌水および渓流水の溶存物質濃度の調査を行い,これらの水質変化の過程について検討した.表層の土壌水では,多くの溶存物質の濃度変化に対して,土壌水分量,土壌有機物の無機化および硝化,陰イオン交換容量,あるいは樹冠通過雨の水質などが影響していると推察された.深層の土壌水でのNa+, HCO3-およびSiO2の濃度とpHの変化に対して,土壌呼吸起源のCO2の増加による鉱物風化が影響していると推察された.この土壌呼吸は,渓流水のK+およびHCO3-の濃度変化にも影響していると考えられた.渓流水のNO3-濃度の変化には,流出水量とともに深層の土壌水でのNO3-濃度の変化が影響を及ぼしていた.降水が森林生態系を通過し,渓流水に至ると,NH4+とH+を除く各溶存物質の濃度が上昇した.この濃度上昇には,蒸発散以外に,樹体からの溶脱,土壌有機物の無機化および硝化,そして土壌呼吸による鉱物の風化などの作用が影響しているものと推察された.
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