2011年の台風12号,2015年9月の鬼怒川が決壊し甚大な被害を与えた災害など,近年,豪雨災害が多発している.また,気候変動により洪水時の降水量,流量はさらに増加することが予測されている.本研究は日本の直轄河川流域を対象とした「流域規模」と「降雨継続時間」に対応し「気候変動」を考慮した可能最大降水量(PMP)の推定,およびそれから算出される可能最大洪水(PMF)の推定を目指したものである.特に本研究では,気象モデルWRF を用いた降水量と関連性の高い指標の把握と,長期データにおける指標の最大値からPMPとPMFを推定する方法を提案している.本研究における主な結果は以下のとおりである.(1)水蒸気フラックスは降雨継続時間毎,地域毎の降雨量との相関は高く,PMPの推定に有効な指標である.(2)過去の実績値,および気候変動予測値を用いた水蒸気フラックスの長期データからPMPを算定する手法を示した.(3)降雨成因毎のPMPの時間分布の作成方法,および降雨継続時間毎の時空間分布の作成手法を示した.(4)複数洪水を対象とした流出計算により可能最大洪水(PMF)を算定する手法を明らかにした.
地下水を適切にマネジメントできる状態にするためには,平時から地下水環境の長期間かつ定期的なモニタリングは極めて重要である.本稿では,2011年4月から2016年3月までの5年間,黒部川扇状地の地下水環境の中長期的変化と季節変化を明らかにするために実施してきた20か所の自噴井の定期的な水量と水質の観測結果と解析結果を報告する.
それらの結果,いずれの自噴井においても地下水のpH,電気伝導率は5年間を通してほぼ一定であった.一方,水温と自噴量については季節変化が認められた.また,扇端部の自噴井の溶存イオン量は,黒部川から離れるにつれて増加していた.さらに,扇端部の深層井戸や扇頂部の自噴井は,溶存イオン量の特徴が大きく異なっていた.
黒部川扇状地における適切な地下水環境マネジメントのためには,平時から今後も調査を継続していく必要がある.しかし,本研究の結果から,水質項目によっては毎月でなくても2~3ヶ月に一度程度の調査でも年間の変化を捉えることが可能であり,調査観測の省力化は図れる.限られた条件の中でも,観測項目,観測頻度,観測箇所の選択と集中を図ることが可能となり,効率的な地下水マネジメントに資する観測が可能となる.
本報告では2009年8月台風9号が兵庫県佐用町に与えた長期的な影響に関する調査の結果について述べる.兵庫県佐用町のように少子高齢化が進む中山間地域においては,洪水が社会経済に回復不能なほどの被害を与えるケースが存在すると考えられる.洪水の影響により,それまでに晒されていた過疎化などの中山間地域特有の社会的変化が劇的に進行する可能性がある.これらの点について明らかにすることは,多様な食料の供給,生物多様性の保全,就業機会の提供,防災を含む公益的効果の発揮等の多面的な機能を有する中山間地域の今後の持続可能性や,国土管理のあり方を考慮する上において非常に重要である.このような背景の下,水害の前後で地域の社会経済や生活環境がどのように変化したかについて調査を行った.結果からは,同一町村内においても長期的な影響の表れ方が地域により異なること,またそれらの地域差には従来から進む過疎化の進行度合いが関連していることが示唆された.
谷誠著「水と土と森の科学」は,水と土と森の相互作用について考察するとともに,湿潤変動帯での水や土の移動に伴う災害に関する森林の役割を論じたものである.地球変動と生態系との相互作用が自然環境を形成し,これに人間活動が介入するという俯瞰的な概念を掲げつつ,モデルに関する工学的アプローチと観測に関する森林水文学的アプローチの両面から災害対策のあり方,斜面の降雨流出応答,流出平準化機能について論じている.
私は水路実験を通して土石流の研究を行ってきた.土石流実験には,土砂特有の大変な作業も多いが,その経験から土石流や土砂の重要な特徴を知ることができた.
特に,一つ一つは様々な形をもつ土砂粒子が複雑に挙動するにも関わらず,それらの集合体としての土石流が定常的なふるまいをみせることは非常に興味深い性質だと考える.