水文・水資源学会誌
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18 巻, 5 号
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原著論文
  • オサマ モハオシ, 福村 一成, 石田 朋靖, 吉野 邦彦
    2005 年 18 巻 5 号 p. 501-509
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    圃場内の土壌や作物キャノピーの空間分布特性は水文過程や溶質移動現象に大きな影響を与える.本論文では,圃場における水移動現象にかかわる土壌と植生の諸変数の空間分布特性を把握することを目的とした.対象地は,タイ国北東部に位置する平坦なキャッサバ畑で,土壌はRhodic Kandiustox に分類され,土性は粘土である.乾燥密度,体積含水率,LAI(葉面積指標),植物高さをメッシュポイントで測定した.体積含水率,乾燥密度についてはメッシュポイントにおいて一つの深さ(0-6 cm)で測定した.圃場での測定値間の相関はLAIと植物高さでr2=0.35となったが,その他は相関が見られなかった.また測定値に空間統計学的手法を適用した結果,対象地の空間的不均一構造は,球形モデルによって最も適切に表され,そのレンジは,乾燥密度,体積含水率,LAI,植物高ともに30 m程度であった.さらに,測定値の空間依存性はLAIが最も強く,植物高さが最低であることがわかった.また,球形モデルで表されたセミバリオグラムを使いクリッギング手法により推定した分布は,クロス・バリデーション手法によって十分に満足できる精度であることが示された.こうして推定された乾燥密度の分布から土壌の水理特性の分布を求めることが示され,圃場における水分移動シミュレーションに有効に利用できる可能性が示唆された.
  • —モデルと観測データの比較—
    赤澤 悠子, 沼口 敦, 江守 正多
    2005 年 18 巻 5 号 p. 510-520
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    地球温暖化に伴う積雪深の変化の地域的特性とそのメカニズムを調べるために,観測データおよび気候モデルの結果を解析した.観測データに見られる積雪深のトレンドは,地域によって大きく2つのタイプに分類された.一つは積雪期を通して大幅な減少が見られるタイプで,カナダのほぼ全域および旧ソビエトの北緯60°以南で顕著に見られた.もう一つは冬期に増加し雪解け期には減少するタイプで,旧ソビエトの北緯60°以北の内陸部に顕著に見られた.モデルの結果における積雪水当量トレンドの地域的特性は,これらの観測されたトレンドとよく類似していた.そこで,モデル中でこの地域的特性をもたらすメカニズムを調べるため,モデルの結果における積雪水収支の変化を解析した.積雪期を通じて積雪水当量の大幅な減少が見られる地域では,温暖化に伴い降水量は増加するものの,降水のうち降雪の割合が減少することにより降雪は減少し,融雪は増加していた.一方,冬期に積雪水当量の増加が見られる地域では,冬期の降水はほとんど降雪のまま増加し,融雪も冬期にほとんど起こらないままだった.
  • 土屋 十圀, 諸田 恵士
    2005 年 18 巻 5 号 p. 521-530
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    河川水文学の研究分野において河川の流出変動と底生動物の多様性に関する研究は従来あまりなされてこなかった.本研究では,1980年代から東京都によって約20年間,底生動物の調査が行われてきた多摩川水系の秋川,平井川および北浅川を検討対象とし,その知見を報告する.本研究では底生動物の多様性を検討し,洪水による自然的なインパクトと人為的なインパクトの違いについて評価するため,それらのデータと我々の観測結果を加えてデータ解析・検討を行った.その結果,洪水攪乱と底生動物の生物量の多様性を統計的解析によって示すことができる.即ち,流況解析による豊水量の超過確率と多様性を示すSimpson指数の関係によって示すことができ,洪水攪乱には適度な撹乱規模,頻度が存在することが明らかになった.その関係は上に凸の二次曲線で示すことができる.
  • 2005 年 18 巻 5 号 p. 531-538
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    2003年度より全国共同利用センターとして水の安定同位体組成に関する共同研究を開始し,多様な水試料の水素及び酸素安定同位体組成を現在まで行っている.極域から熱帯域,また海洋から大陸内部まで広域に採取された海水,土壌水,河川水,降水,降雪,氷,水蒸気等の多様な水試料を長期間にわたって高い精度・確度を維持しながら分析を行うために,専従の運営委員会を設置し,測定前後の試料管理,質量分析計の管理,分析結果の質的管理を含めて総合的に管理運営するシステムを構築した.2003年以降約1年半にわたる標準水の測定結果によれば,水素及び酸素同位体組成についてそれぞれ0.5‰,0.03‰の再現性を保っていることがわかった.
  • 神野 健二, 河村 明, 里村 大樹, 坂田 悠
    2005 年 18 巻 5 号 p. 539-546
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    2002年,福岡都市圏が水道水源の約1/3を依存している筑後川流域は観測史上3番目の少雨を記録し,最大55%の取水制限が実施されたが,福岡都市圏では給水制限には至らなかった.これは利水関係者および関連行政機関で頻繁な渇水調整が行なわれたことや,1999年に完成した山口調整池の運用などによる水資源管理が効果を上げたためであると考えられている.本研究では,2002年~2003年にかけての水文特性や貯水量の変動,この渇水に対する関連行政機関へのヒアリングを行った.さらに,福岡導水事業の一環として建設された山口調整池の効果について,調整池がなかった場合を想定したシミュレーションを行い,考察を加えた.その結果,山口調整池の運用の効果が大であったことが示され,山口調整池が建設されていなかったらかなり厳しい渇水になっていたことが推測された.
  • 高藪 出
    2005 年 18 巻 5 号 p. 547-556
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    地域気候モデルという高解像度領域モデルを用いた気候の再現・予測実験の研究は,近年モンスーン研究や温暖化予測研究とリンクする形でも増えてきている.通常得られる全球モデルの結果とくらべ高解像度のこの種のモデルを用いた予測結果は地域の詳細な気候の再現の可能性を示していることから,力学的ダウンスケーリングの手法として水循環を扱う研究者の注目も集めはじめている.今回,ここ数年間の世界の研究の動向をまとめ地域気候モデルの特性について探ってみた.地域気候モデルはその特性として, (1)地形の精度が上がることで地形性降水の再現性が向上する.しかしながら,(2)地域気候モデルはそれを埋め込んだ全球モデルの精度に強く依存してしまうことが研究の当初から言われ続けている.また,(3)地域気候モデルの解像度に見合った高解像度かつ高精度の観測データの整備が急務であると言われている.更に,(4)モデルに組み込まれている物理過程については改善が進められているがまだ途上であることが伺える.
  • 葛葉 泰久, 岸井 徳雄, 小松 陽介, 友杉 邦雄
    2005 年 18 巻 5 号 p. 557-574
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    著者らは,以前から,北海道の流域が,スケーリングの枠組みの一つであり,融雪流出が卓越する地域でよく見られる地域の特徴であるsimple scaling にほぼ従うと主張してきた.それに対し,豪雨流出が卓越する地域のスケーリングの特徴として知られるのがmultiscaling である.この論文では,この地域の洪水流量のスケーリングがどちらの枠組みに従うのかを,さらに厳密に検討した.尤度比検定の結果は,その地域の洪水流量が,multiscaling に従うことを示唆している.そして,他の検討方法も含め,著者らは,「北海道地域の洪水流量は,multiscaling に従うと考えても良いが,他の日本の地域と比較すると,simple scaling の傾向が強い」と結論付ける.この結果,洪水流量と流域面積間に成立する「互いの対数が線形」という関係における勾配(スケーリング指数という)を,再起確率(再現期間)ごとに求める必要が出てきた.そこで,以下の手続きで,石狩川流域における洪水氾濫図を作った.
    1)観測点で,T年洪水流量を求める;2)Tごとに,スケーリング指数を求める;3)観測点のT年洪水流量を,未観測点に移送する(観測点のない地点の洪水流量を予測する);4)得られた洪水流量が破堤によって,氾濫したとして,氾濫計算をする.
  • 金子 紫延, 近藤 昭彦, 沈 彦俊, 唐 常源
    2005 年 18 巻 5 号 p. 575-583
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    中国華北平原の水問題は食糧生産との関わりにおいて多くの議論を惹起してきた.河北省経済年鑑からの統計情報によると,一見平らな平原内部の食糧生産量には空間的な不均質性が認められる.太行山地から渤海湾へ山前平原,低平原,海岸平野と続く地形配列が固有の地下水流動系を生じさせ,地下水資源の質および量に影響を与えていると考えるとうまく説明できる.平原東部の地下水流出域にあたる浅層地下水中の全溶存物質(TDS)濃度が高い地域では,平原西部と比較して食糧生産量は低く各年の気象条件の影響を強く受けていた.扇状地性の豊富な地下水を利用できる平原西部では,食糧生産量の年変動は相対的に小さく,降水日の少ない年に地下水利用によって生産量が高くなる傾向も認められた.食糧生産量の長期変化に関しては1990年代半ばまでは増加,その後停滞あるいは減少傾向が認められた.1997年以降は政策により食糧価格が低下したが,これが化学肥料使用量減少に現れているように生産コストの削減を引き起こし,食糧生産量が減少したと考えられる.現在進行中の地下水位低下が揚水コスト増加を通じて,今後食糧生産量に影響を及ぼす可能性が示唆された.
  • 宮沢 直季, 砂田 憲吾, ペチ ソクヘム, 大石 哲, ディアン シシンギ
    2005 年 18 巻 5 号 p. 584-591
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    本研究では,メコン河下流域の河道特性を調べるために,“セグメント区分”の概念に基づいて現存する流量,河床材料の粒度分布,横断面形状データの分析を行った.メコン河下流域における平均年最大流量時の平均河床高,平均水深,川幅,河床材料の代表粒径,摩擦速度等の縦断方向変化を示した.その結果,河口からタンチャウ下流のセグメント3では,河道は水平で,平均川幅は1,239mであることがわかった.タンチャウからクラチェのセグメント2-2では,河床勾配は1/25700,河床材料の代表粒径は0.17~0.76mm(細砂~粗砂),平均川幅は1,645mであることがわかった.代表粒径が0.17~0.76mmの範囲において,メコン河下流域おける無次元掃流力と代表粒径との関係を明らかにした.
  • 藪崎 志穂, 田瀬 則雄
    2005 年 18 巻 5 号 p. 592-602
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    筑波大学構内において,2000年1月から月単位の降水に加えイベント単位の降水を採水して,それらの酸素・水素安定同位体比を測定した.採取したイベント降水のδ18およびδD値には季節的な変動は顕著にあらわれていなかったが,d-excess値には季節的な変動が明瞭に示されていた.また11~3月では気温の低下と共に同位体比が低くなる傾向(温度効果)が確認された.イベントデータを降水量で区分して分析を行った結果,降水量が多い時ほど同位体比が低くなる傾向(雨量効果)が明確に示された.回帰分析の結果においてもこのことが示唆された.更に,降雪の多い時期,および梅雨前線や秋雨前線に由来する降水の同位体比は,他の期間の値に対して低くなっていることも明らかとなった.
研究ノート
  • 藤原 靖, 長谷川 宏一, 島村 雄一, 泉 岳樹, 松山 洋
    2005 年 18 巻 5 号 p. 603-612
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    スギ人工林の葉面積指数(LAI)を直接推定法により求める際に,作業プロセスの違いとそれらの組み合わせによって,LAI推定値がどの程度異なるのかを調べた.作業プロセスは,調査木の選定,葉のサンプリング,葉サンプルの面積計測の3段階から成る.各プロセスには複数の手法があるため,それらの組み合わせによりLAI推定値は変動する.調査木の選定では,調査木が1本の場合と3本の場合とで,LAI推定値の違いが10%以上になった.この場合,胸高断面積が平均に最も近い個体を1本だけ選ぶ方法では,LAIが過小推定される可能性がある.葉のサンプリングでは,作業を簡略化して全体の1%の葉を計測対象とした場合,層別刈り取り法を行なった場合に比べて,LAI推定値が10%以上大きくなった.葉面積の計測では,スギ葉の比葉面積と軸径との関係式を用いる方法において,直径を階級区分して計算する従来の方法と,階級幅で重みづけした平均直径を用いる簡便な方法のどちらでも,LAI推定値は5%以下の違いであった.このように,個々のプロセスによるLAI推定値の違いはそれほど大きくないが,これらのプロセスによる違いが累積した場合,施業管理により個体差が小さいと考えられるスギ人工林であっても,LAI推定値に最大で40%の違いが生じる場合があることが分かった.
解説
  • 小松 光, 堀田 紀文
    2005 年 18 巻 5 号 p. 613-626
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/10/18
    ジャーナル フリー
    森林蒸発散フラックスの計測は世界各地で数多く行われてきており,1990年代以降あたかも大流行の感があるが,このようなフラックス計測の大流行による産物は明示されてこなかった.本稿は,森林蒸発散フラックス計測の大流行の産物を解説するものである.森林蒸発散研究は,蒸発散量を気象条件とパラメータによって定式化することと,パラメータを森林特性(広葉樹/針葉樹,葉面積指数,樹高など)と関連づけることを目指している.このうち,前者はフラックス計測の大流行を待たずしてほぼ完了していた.一方,後者はフラックス計測の大流行によってはじめて可能となった.後者を行うためには,さまざまな特性を持った森林におけるデータの蓄積が必要だったからである.
技術・調査報告
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