水文・水資源学会誌
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20 巻, 6 号
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Original research article
  • 吉村 千洋, 竹内 邦良
    2007 年 20 巻 6 号 p. 493-504
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/12
    ジャーナル フリー
    流域内における人口増加や経済発展に伴い,メコン川下流域では栄養塩濃度が増加する傾向にあり,水域生態系のバランスは崩れつつある.本研究では,分布型流出モデルによりメコン川流域における栄養塩の発生・流出過程を解明することを目的とした.全球スケールの公開データを用いて概念的に栄養塩動態を推定する水質モジュールを作成し,そのモジュールを分布型流出モデル(YHyM)に統合した.1987~1991年の実測値によりモデルパラメータおよび農地と都市の栄養塩発生原単位を推定し,1992~1999年のデータによりモデルを検証した.
    その結果,本川の2地点(Nakhon PhanomとKhong Chiam)における総窒素・総リンの負荷量の変動は,36.7%以上のNash-Sutcliffe効率で再現され,Khong Chiamにおける年間平均負荷量はTNで9.3×104 tNyr-1,TPで1.2×104 tPyr-1と推定された.また,総窒素と総リン共に上流域では都市からの負荷が最も高く55%以上を,中流域では農業(農地と家畜)由来の栄養塩が43%以上を占めていることが推定された.さらに,中流域の支流であるKading川,M. N. Song Khram川,Nam Mun川は年間平均による評価で本流の栄養塩負荷への寄与が大きく,メコン川最下流部への影響が強いことが示唆された.
  • 細田 育広, 村上 亘, Roy C.SIDLE
    2007 年 20 巻 6 号 p. 505-518
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/12
    ジャーナル フリー
    釜淵森林理水試験地1号沢における水位計の変遷を例として,水位計自記紙の記録解像度が流出水量の値に及ぼす影響を検討した.出水単位に区分した2000~2004年の水位データ(単位データ)を1939~2004年における記録解像度に対応した座標にスケーリングし,読み取りの幅と角度を規定して水位波形の変曲点と正時の水位を抽出した.抽出された水位データと単位データから計算された流出水量の差を誤差とし,単位データの流出水量に対する百分率で表した.記録解像度の影響はピーク前後のデータ点位置に顕著に現れ,記録解像度が低いほど,水位変動の大きい非積雪期に誤差の変動幅が大きくなった.出水単位の誤差は,形状指数0.3未満の出水で大きくなる傾向が認められ,記録解像度が低い記録条件では最大30%を超えた.一方,年単位の誤差の合計は最大でも1.2%未満となった.このため当該流域で長期間の流出解析をする場合,年単位の解析では目的に応じて補正の必要性を判断すれば良いが,出水単位の解析では記録解像度に応じた補正を検討する必要があると考えられた.
  • 朝岡 良浩, 小南 裕志, 竹内 由香里, 大丸 裕武, 田中 信行
    2007 年 20 巻 6 号 p. 519-529
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/12
    ジャーナル フリー
    人工衛星データ,AMeDASを入力データとする積雪モデルを用いて日本の融雪係数分布と積雪水量分布を推定した.降雪量は降水量の観測データを基に降雨・降雪成分に分離し,標高分布を考慮に入れて計算した.融雪量の推定にはDegree-day法を適用し,融雪係数は衛星データから抽出した消雪時期の情報を用いてメッシュ毎に1シーズンの値を最適化した.積雪域と消雪時期の情報は衛星データSPOT/VEGETATIONから算出した積雪指標S3(斎藤・山崎,1999)を用いて抽出した.
    その結果,積雪水量・積雪期間の推定値は検証地点の観測値と良好な精度で一致した.融雪係数は積雪域の90%以上の地域で1~11mm/℃/dayとなったが,寡雪寒冷地帯のように低温状態で融雪が進行し,融雪熱量に対して放射成分が卓越する地域では12mm/℃/day以上となった.脊梁山脈の日本海側では,積雪期間の積算暖度が高い地域において融雪係数が低くなる傾向を示した.
Technical note
  • 藤本 雄大, 田中 基弘, 手計 太一, 平野 文昭, 松藤 康司
    2007 年 20 巻 6 号 p. 530-538
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/05/12
    ジャーナル フリー
    近年,森林破壊,灌漑面積の増加,ダム貯水池の建設,都市化などによって,河川水の質,量ともに,大きく変化している.このような社会変動と水循環の相互作用の関係については未解明な部分が多い.その要因の一つとして,把握しきれていない人間活動の存在が挙げられる.本研究では,福岡県西部に位置する瑞梅寺川流域と福岡市西部最終処分場を対象として,管理型最終処分場が流域水循環に与える影響を明らかにするための基礎的な検討を行った.
    その結果,最終処分場に因る水量の人為的な操作によって,自然の河川流況に影響を与えていることを示唆した.また,最終処分場への降雨が河川に戻る時間遅れは,最終処分場の埋立地や汚水処理場での滞留によって生じていることを明らかにした.特に大雨時や降雨が連続した場合において,最大放流量の緩和および河川への放流の時間遅れが顕著であることを示した.
    世界規模で廃棄物発生量は増加しており,一部の地域や国では最終処分場が巨大化している.そのため,最終処分場が流域水循環へ与える影響の評価は今後も重要な検討課題と考えられる.
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