水文・水資源学会誌
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31 巻, 4 号
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巻頭言
総説
  • 浅野 友子, 内田 太郎, 五味 高志, 水垣 滋, 平岡 真合乃, 勝山 正則, 丹羽 諭, 横尾 善之
    2018 年 31 巻 4 号 p. 219-231
    発行日: 2018/07/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

     流域の水・土砂動態の観測結果を実態把握に活用し,予測精度を高めるためには,水・土砂流出における空間スケールの影響について理解することが重要である.本総説ではこれまでに得られてきた流域面積と平水時や出水時,それらを包含する長期的な水・土砂流出現象の関係についての調査・観測結果の収集と分析から,空間スケール依存性と空間不均一性に焦点を当て,空間スケールと水・土砂流出現象の関係を明らかにすることを試みた.その結果,流域面積に対して増加や減少などの一般的な関係が見いだされる物理量と,観測事例数が限られているなどの理由によって現時点では関係が不明瞭である物理量があった.また,これまでの調査・観測事例は空間スケール依存性か空間不均一性のどちらかに着目している場合が多かった.ピーク時の比流量など空間スケール依存性が着目されてきた物理量は,流出現象を支配する機構が空間スケールによって変化すると考えられる.一方,基底流時比流量など空間不均一性が調べられてきた物理量は,空間スケールによって流出現象を支配する機構が大きく変化しないため,相対的に場の条件の違いが流出に与える影響が大きかったと考えられる.

  • 浅野 友子, 内田 太郎, 勝山 正則, 平岡 真合乃, 水垣 滋, 五味 高志, 丹羽 諭, 横尾 善之
    2018 年 31 巻 4 号 p. 232-244
    発行日: 2018/07/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

     本研究では,水・土砂流出過程に関する詳細な観測が行われてきた滋賀県不動寺試験流域と桐生水文試験地,神奈川県大洞沢試験流域,北海道鵡川・沙流川流域における研究を精査し,水・土砂流出量と流域面積の関係に関する新たな解析を加え,空間不均一性,空間スケール依存性が生じるプロセスについて考察した.水流出に関しては,岩盤経由の地下水の流出と表土層のみを経由した水の流出の寄与率の違いが源頭部の小流域の比流量のばらつきの要因であると考えられた.岩盤経由の地下水の一部は地表面の流域界を跨いで流出するが,流域面積が大きくなるに伴い相対的に流域界を越える水流の影響が小さくなり,岩盤経由の地下水寄与率が異なる特徴を有する流域の影響が混在することで平準化され,水流出量の空間不均一性は集水面積が大きくなるに伴い小さくなると考えられた.また,土砂流出は流域面積が大きくなるに従い異なる特徴を有する流域の影響が平準化されるのみならず,土砂貯留空間の増大および流域全体に占める生産域の減少により比流出土砂量の減少が生じる一方,過去の土砂生産履歴の影響や土砂生産源の偏在による比流出土砂量の増加が生じる場合もあることが明らかになった.

  • 横尾 善之, 丹羽 諭, 内田 太郎, 平岡 真合乃, 勝山 正則, 五味 高志, 水垣 滋, 浅野 友子
    2018 年 31 巻 4 号 p. 245-261
    発行日: 2018/07/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

     本稿は,山地流域の水・土砂流出現象の数値解析モデルにおける空間スケールの影響の取り扱い方に関する既往研究を調べた.まず,代表的な数値解析モデルを利用した研究における,(1)最小の空間スケールとその決定方法,(2)入力データとして利用する空間分布情報,(3)支配方程式の空間スケール依存性の3点を整理した.その結果,(1)の最小空間スケールは,利用する標高データの最小の空間スケールに依存すること,(2)の利用する空間分布情報は標高・土地利用・植生データが多く,その他は実測に基づくデータではないこと,(3)の支配方程式は対象とする斜面や河道などの「場」に依存し,空間スケールに応じて明示的に支配方程式が変化するモデルはなかった.次に,空間スケールの影響の取り扱い方自体を検討した既往研究を調べた.その結果,水流出モデルに関しては集中化できる面積(基準面積)や入力する空間分布情報の相対的重要性に関する知見が集積されつつあるが,土砂流出モデルについては同様の研究報告はなかった.以上を踏まえ,水・土砂流出モデリングにおける空間スケールの取り扱い方の今後の在り方の一つを提示する.

技術・調査報告
  • 井手 淳一郎, 佐藤 辰郎, 藤原 敬大, 布施 健吾, 菊地 梓, 横田 文彦, M. Alhaqurahman Isa, Faisal ...
    2018 年 31 巻 4 号 p. 262-269
    発行日: 2018/07/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

     途上国における小水力発電の持続的な運用のためには,経済,社会,環境等に関して様々な問題があることが指摘されているが,実際に現場に入って問題点を詳らかにし,克服するための道筋を提示しようとした研究事例は少ない.本研究では,途上国遠隔地域における小水力発電の持続的な運用に係る課題について整理することを目的に,インドネシア西ジャワ州に位置するチプタゲラ(Ciptagelar)集落における小水力発電をとりまく状況について調査した.その結果,小水力発電を持続的に運用するためには主に資金面と技術面で課題があることがわかった.資金面では,自然災害で破壊された取水施設の修復費と,発電機等の維持管理費を確保するのが難しいという課題が明らかになった.技術面では,取水施設が大規模な洪水によって破壊されやすい可能性があること,また,小水力発電施設を適切に管理できる熟練の技術者がいないことがわかった.

「森林水文」特集
原著論文
  • 篠宮 佳樹, 小林 政広, 坪山 良夫, 澤野 真治
    2018 年 31 巻 4 号 p. 270-279
    発行日: 2018/07/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

     茨城県内のスギ人工林・落葉樹林から成る森林で,流域の北東部の17 %の面積を対象に本数で35 %の間伐率の列状間伐が実施され,5つの谷沿いに作業道が作設された.そこで,列状間伐が間伐中の懸濁物質(SS) の流出に及ぼす影響について検討した.SS濃度はガラス繊維フィルター(0.5 μm)により測定された.間伐前(2010年6月~2012 年8月) と間伐中(2012年9~11月) でSS濃度を比較した.出水時のSS濃度は同じ流量範囲で比べると,間伐前より間伐中のほうが高かった.間伐前および間伐中のそれぞれの累加比流量と累加比SS流出量との関係式を,間伐中 (2012年9~11月) の流量に当てはめてSS流出量を求めると,間伐前および間伐中の9~11月のSS流出量はそれぞ れ0.8 kg ha-1,1.9 kg ha-1であった.間伐中のSS流出量は間伐前の2.4倍と推定された.以上より,今回の列状間伐に より間伐中のSS濃度は上昇した.SS流出量も増加した可能性が高かった.SS流出に及ぼす影響が緩和されている状況(面積の 17 %を対象とする間伐) であっても,間伐中のSS流出に影響することが明らかになった.

  • 飯田 真一, 竹内 真一, 荒木 誠, 清水 貴範, 野口 正二, 澤野 真治, 金子 智紀
    2018 年 31 巻 4 号 p. 280-291
    発行日: 2018/07/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

     樹液流速(SFD)測定法による過小評価を避けるために,これまで1成長期間あるいは1年ごとの計測センサーの交換が推奨されてきた.しかし,過小評価の検出方法については詳しい情報が乏しい現状にある.そこで,本研究では,大気飽差(VPD)とSFDの関係に基づく過小評価の検出方法を提案し,関東地方の筑波森林水文試験地および東北地方の長坂試験地に生育するスギを対象として計測されたデータを用いて検証した.その結果,この検出方法はGranier法,Heat Ratio法およびHeat Field Deformation法について有効であることが確認された.過小評価の原因はセンサー周辺の辺材部含水率が低下したことであり,センサー周辺を迂回するように樹液の流れが変化したことが示唆される.筑波森林水文試験地では52個のGranier法センサーの62 %,長坂試験地では64個のうち86 %についてセンサーの有効期間が365日以下であった.このことから,スギを対象として通年の計測を行う場合,1年を待たずにセンサーの換装が必要となる可能性を認識し,計測デザインを検討する必要がある.

研究ノート
  • 村上 茂樹, 竹内 由香里, 庭野 昭二
    2018 年 31 巻 4 号 p. 292-301
    発行日: 2018/07/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

     開空率の異なる3種類のスギ林と裸地で積雪・融雪・気象観測を行った.開空率はスギ林A,B,Cの順に17.8 %, 5.2 %,2.4 %であった. 2005年3月9日における各地点の積雪水量は開空率の減少とともに減少した. 2005年4月12 日の積雪水量は少ない方から順に,裸地,スギ林C,A,Bとなり,消雪日も早い方からこれと同順となった.21日間の日融雪量の観測から求めた融雪係数kは大きい方からこれと同順となった.裸地の日平均気温を用いて算出したkは,裸地,スギ林A,B,Cの順に4.09 mm ℃ -1 day-1,2.34 mm ℃ -1 day-1,2.13 mm ℃ -1 day-1,2.38 mm ℃ -1 day-1,各地点の日平均気温を用いた場合はスギ林A,B,Cの順に2.83 mm ℃ -1 day-1,2.70 mm ℃ -1 day-1,2.90 mm ℃ -1 day-1 となった.どちらのkを用いても,裸地とスギ林B,Cの消雪日は1日以内の精度で再現できたが,スギ林Aだけは推定日が実測よりも4~5日遅くなった.スギ林BとCのkの大小関係は開空率のみでは説明できず,枝下高やリター量が関係している可能性がある.

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