水文・水資源学会誌
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17 巻, 5 号
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original research article
  • 近藤 昭彦
    2004 年 17 巻 5 号 p. 459-467
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    PAL (Pathfinder Advanced Very High Resolution Radiometer Land data sets) を用いて全球スケールの植生・土地被覆変動解析を行った.NDVIの年間積算値(ΣNDVI),年間最大NDVI(NDVImax),ΣNDVIの標準偏差(NDVIstd),年間最大地表面温度(Tmax),Ts-NDVI空間における軌跡の傾き(TRJ),の5つを地表面状態を表すパラメータと考え,1982年から2000年の19年間のトレンド(NDVIstdを除く)の検討を行った結果,ランダムではない空間パターンが得られた.それらのパターンの一部は従来の研究でも指摘されている気候要因(Climate-driven)によって説明可能であるが,明らかに人間要因(Human-driven)と考えられる変動も抽出できた.植生・土地被覆変動の要因解析には気候要因(Climate-driven)と人間要因(Human-driven)の両方の視点が必要であり,両者を理解するためには異なる空間スケールから問題を捉える視点が重要であることを示した.また,グローバルデータセットの中に地域の熱収支の変化に関するシグナルも抽出できたことは人間活動の気候への影響を示唆する重要な知見であると考えられる.
  • 手計 太一, 吉谷 純一, スヴァンピモル チャンチャイ
    2004 年 17 巻 5 号 p. 468-481
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    著者らはタイ王国・Chao Phraya川流域とその周辺におけるパン蒸発量の時空間分布特性を把握するため,特に対象地域の中でデータの揃う1982年から2000年までの19年間について解析を行った.その結果,地理的,季節的,経年的な変動特性が得られた.主な知見を以下に示す.(1) 海洋に近い南部において最もパン蒸発量の値が高く,中央部,北部にかけて徐々にその値は低くなっている.海岸域から内陸にかけてパン蒸発量の値が低くなる傾向は,海洋からの影響があるものと考えられる.(2) 対象地域全般における季節変動特性として,3月から5月にかけて最も月パン蒸発量の値が高い.これは,乾期から雨期への変遷過程であり,気温が最も高い期間と一致している.(3) 経年変化についてトレンド検定を行った結果,27観測所のうち24箇所において「負」のトレンドがあった.さらにそのうち9箇所において,99%有意な負のトレンドがあることがわかった.
    降水量についても同様の期間で検定を行った結果,「正」のトレンドは8箇所,「負」のトレンドは19箇所であったものの,正負にかかわらず有意なトレンドは得られなかった.このことはLawrimore and Peterson(2000)のアメリカ合衆国における結果とは異なり,本研究対象地域ではBrutsaert and Parlange(1998)が提唱している補完関係を得ることはなかった.
  • 野口 正二, ニック アブドゥール ラヒム, シャムスディン シティ アイシャ, 谷 誠, 三森 利昭
    2004 年 17 巻 5 号 p. 482-492
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    半島マレーシア・ブキタレ水文試験地において,短期水収支法(SPWB法)を用いて熱帯雨林からの蒸発散量を推定した.短期水収支期間の開始日および終了日選定にあたり,2.0mm d-1以下の降水量の日を含め選定し,十分なサンプル数と妥当な結果を得た.3年間(1992-1994)における蒸発散量は,2.0から5.4mm d-1(平均値:4.0mm d-1,標準偏差:0.83)であった.SPWB法を用いて推定した蒸発散量は,水収支期間が湿潤から乾燥状態のとき過小評価され,水収支期間が乾燥から湿潤状態のとき過大評価された.この結果は,選定した短期水収支期間において表層土壌水分が一定でないことが原因であった.表層土壌水分を考慮した短期水収支法(SPWB-S法)によって推定された2年間(1993-1994)の蒸発散量は,2.7から4.9mm d-1(平均値:3.8mm d-1,標準偏差:0.57)であった.ペンマン式による可能蒸発散量(EP)は,SPWB-S法によって推定された蒸発散量(ET)より小さい値を示した.蒸発散比(ET/EP)は1.38であった.この値は,この地域でペンマン式による実蒸発散量推定に有益である.
  • 戸塚 岳大, 風間 聡, 朝岡 良浩, 沢本 正樹
    2004 年 17 巻 5 号 p. 493-502
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    気象データ,衛星データ,DEM(数値標高データ)を用いたSWE(積雪水量)モデルにより東北地方の日単位の積雪水量分布を推定した.SWEモデルは降雪モデルと融雪モデルから成る.日降雪量は標高を考慮したAMeDASデータを重み付距離平均法を用いて補間により推定した.日融雪量はDegree-day法を用いた融雪モデルにより推定した.様々な融雪係数を用いたSWEモデルから推定される積雪分布とJAIDAS(日本画像データベース)から作成した積雪マップを比較することにより最適な融雪係数を決定した.そして,東北地方で一様とした融雪係数を用いて東北地方の日単位の積雪水量分布を推定することができた.
  • 山本 宗尚, 上野 健一
    2004 年 17 巻 5 号 p. 503-514
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    若狭湾周辺の21年間のアメダス日降水量データを用いて主成分分析を行い,分布パターンの示す地域性と出現に関する気象学的な意味づけを行った.主成分同士の大きさと符号を組み合わせる事により,冬型と南岸低気圧それぞれの要因で広域に降水がもたらされた事例を抽出し,寒気通過に伴い若狭湾周辺で西進する降水域の移動,関ヶ原付近の帯状局所的降水を抽出する事が可能である事を示した.これらの特徴的な降水パターンに関する季節性および近年21年間の変動特性を議論した.
  • 任 永懐, 佐藤 政良, 楊 継富, 郭 宗信
    2004 年 17 巻 5 号 p. 515-522
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    中国北部では,水不足を背景に,節水灌漑の普及が求められている.2002年,厳しい水不足にあった大型灌区の一つである石津灌区では,小麦の春灌漑において,貯水池の水量減少により,厳しい節水を強いられた.本研究は,現地調査に基づいて灌区の当該水不足時における用水配分の実態を分析し,水管理システムの特性について,以下のことを明らかにした.1)利用可能水量が平年の1/3に減少する中で,大きな混乱もなく,灌漑が行われた.2)管理局は灌漑站を通して末端の灌漑方法にいたるまで農民に指示し,農民はそれに従った.3)この管理方法は,統制的ではあるが,平等で公平な配水を実現するもので,欧米の参加型水管理システムとは異なる中国型の水管理システムとして定着する可能性をもっている.4)本水管理システムにおいては,単なる水価の上昇は節水効果をもたない.5)独立採算制の下で,管理局の末端では平等配水と収入確保という二つの行動原理が混在した.
technical note
  • 倉島 栄一, 加藤 徹, 向井田 善朗, 和田 令子
    2004 年 17 巻 5 号 p. 523-528
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    融雪流出に関する実証的な報告例が少ない東北地方の山地流域において,積雪の表層で生ずる表層融雪量を推定するとともに,積雪内の浸透を経て地表に到達する地表到達量と河川流出量を実測し,これらを比較した.その結果,融雪量の時間分布が示す鋭敏なピークに比べて,流出量のそれは鈍く,対象流域の融雪流出は,時間変化に乏しい流出成分が卓越することが示唆された.また,表層融雪量と地表到達量のピーク時間差は積雪深の減少に伴って漸減するが,表層融雪量と流出量とのピーク時間差は,同じ傾向にあるものの,ばらつきが大きいことが示された.
  • 岡本 隆, 黒川 潮, 松浦 純生, 浅野 志穂, 松山 康治
    2004 年 17 巻 5 号 p. 529-535
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    山地斜面の積雪分布を精度良く把握するため,冬季に3-5mの積雪がある新潟県東頸城丘陵内の同一斜面(0.3km2)を対象に,航空レーザスキャナを用いた積雪深計測をおこなった.計測は積雪期と無積雪期にそれぞれおこない,得られた積雪面標高と地表面標高の差分から積雪深の平面分布を求めた.精度検証のためGPSおよび超音波積雪深計による積雪深(グラウンドトゥルース)と比較した結果,航空レーザスキャナによる計測誤差は+26.5~-13.6cm,平均で+1.8cmとなった.これは一部の急斜面や尾根での異常値を除き,積雪深の平面分布を議論するために十分な精度を持っていると考えられた.
    積雪分布図をもとに,地形条件による積雪特性について以下の傾向が明らかとなった.1)積雪深は北および北東斜面で増加し,南斜面で減少する.2)積雪深は尾根状地形で減少し,谷状地形で増加する.急斜面から緩斜面への傾斜変換帯に沿って積雪増大域が筋状に分布する.これは積雪が上部斜面からクリープ,グライド,雪崩の各現象によって堆積した結果と推測された.
review article
  • 萩島 理, 谷本 潤, 成田 健一
    2004 年 17 巻 5 号 p. 536-554
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    本稿では,近年ヒートアイランド現象など都市域に特有の現象をより高精度に予測することを目的として開発されている都市キャノピーモデルに必要な都市表面熱伝達率の既往研究についてレビューを行った.まず,伝達率の測定方法の概要及び長所と短所について概観した.次に観測・実験研究の主な成果について報告した.その要旨は次の3点である.
    1) 実大建物表面の熱伝達率の観測例は多数あるが,研究者間でU-h の関係式は異なっている.その要因としては,建物形状,風速定義高さ,表面温度と気温の差ΔT などが考えられるが,各因子の影響を定量的に検討した例は殆ど無い.
    2) 縮小模型実験については,中立条件下で立方体や2次元リブの規則的配列の粗度群に対して,粗度形状と伝達率の関係や面内伝達率分布についての報告が複数行われている.
    3) 縮小模型実験で得られる伝達率を実大スケールに外挿できるか否かについて,観測データに基づく検証は行われていない.
    最後に,都市表面熱伝達率のモデルとして,大規模水平屋根を対象としたClear et al(2003),自然対流下の粗面を対象としたKondo et al(1997),中立条件下の2Dキャノピーを対象としたHarman et al(2004)の3つのモデルの紹介を行った.
  • 陳 建耀, 福嶌 義宏, 唐 常源, 谷口 真人
    2004 年 17 巻 5 号 p. 555-564
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/19
    ジャーナル フリー
    1970年代に黄河から河川水の取水量が増えるにつれて,下流域に断流,地下水汚染及び塩分集積など水環境問題が深刻になってきた.山東省禹城と斉河県の研究地域を例として,自然変化と人間活動を総合してこれらの問題を解析した.まず文献による年代ごとの黄河流域の主な気候・植生変化と人間活動の影響を整理し,三段階の史的区分を行った.つぎに水資源量・人口・耕地の比率と長期間の降水・流量の時系列資料より断流現象を分析した結果,その主な理由が人間活動に由来するのではないかと考えられた.地下水流動系からみると黄河下流域は流出域であり塩分集積が起こりやすいという特徴を持つが,黄河断流が発生しない限り,すなわち黄河からの水が灌漑に利用可能である限り,下流域の農業は持続可能であろう.下流域の浅い帯水層でのみ硝酸が検出されたが,その主な理由は1.2mのZFPの存在,および上向きの地下水流動である.また,窒素同位体の結果に基づき硝酸汚染は化学肥料,人間廃棄物および家畜し尿によるものと思われる.
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