東シベリアにおける1998年~2013年にわたる水・エネルギー・炭素(WEC)循環の結果を総括する.スパスカヤパッド観測サイトでは,カラマツ林での暖候期におけるWEC循環と様々な環境因子との関係が明らかになった.また,スパスカヤパッドとエルゲイでの観測では,同じカラマツ林でほぼ等しい気象条件であっても下層構成樹種によりWEC循環が異なっていた.レナ河流域における流出量の観測では,永久凍土帯における年々の活動層深は100 cm year-1 で深くなっており,近年はその速度が増加していた.WEC循環のモデル研究では,陸面モデルで推定された蒸発散量は渦相関法から導かれた蒸発散量の実測値とほぼ同じ範囲にあった.流出モデルでは,年間の流出量のうち約30 %が非常に遅い流出成分であり,それは実測値ともほぼ一致した.今後は,地球温暖化が予測される中で,東シベリアに存在する北方林が環境の変化にどのように応答するのかを明らかにすることが課題である.東シベリアにおける湿潤化のWEC循環への影響は,流域全体へと広がっていくであろう.WEC循環の研究は,乾燥化ばかりでなく湿潤化にも目を向けなければならない.
都市気象学を地球スケールに展開する試みとして「グローバル都市気象学」を提案する.その主な狙いは,個々の都市を対象に行われてきた領域スケールの研究を地球規模に拡張・相互比較し,それぞれの都市の,インフラ形態,地理条件,気候区分,社会経済状態,などの違いを踏まえた上で,都市気象の機構を包括的に理解しようとするものである.それを実現するために,都市気象を解析するためのグローバル観測ネットワークを精査し,都市気象シミュレーションに必要な都市パラメータや人工排熱のグローバルデータを新たに整備する.本論では,現時点でのグローバル都市気象学の進展をいくつかの具体例を示しながら紹介する.