今後増加すると予想される降雨による災害に対する備えを強化するため,現状の防災システムを補完する目的で防災担当者及び住民に対し,避難の意思決定を支援するシステムの開発を進めている.本論文では2009年の佐用豪雨災害を取り上げ,洪水災害及び土砂災害に対する再現計算を行う.単独の降雨データによる計算のみならず,複数の降雨データによるアンサンブル計算を行い各災害に対する危険度を算定する.洪水災害に関しては,雨量データから浸水深分布及び危険度分布を算定しそれを基に避難最適経路が見積もられる.各計算結果の精度は浸水実績データ等により検証される.10 mDEMよりも5 mDEMを用いた方が実際の浸水深分布に近づけることができると分かった.土砂災害に関しては,警戒レベル分布や危険度分布の算定の他,危険度指標が見積もられる.その計算精度は実際の崩壊・非崩壊データを用いて検証される.雨量及び土壌雨量指数のみを用いた危険度よりも複数の危険因子を考慮して算定した危険度の方が実際の崩壊・非崩壊との相関が良くなることが分かった.さらに本研究では複合災害に対する危険度を見積もり,防災担当者及び住民に対し避難指針を示す.
途上国の成長等により工業用水需要量の急増が懸念され,今後の需要量予測のための様々な予測モデルが提案されている.本研究では,国内総生産(GDP)及び水利用効率改善率ηを独立変数としたモデル(高橋ら,2000)にて,より正確な予測を目的としてη決定方法を検討した.解析対象61カ国を国毎の各業種占有割合を考慮したクラスタ分析により,それぞれ,産油国,先進国~中進国,中進国~発展途上国,発展途上国が主に属す4クラスタに分類した.クラスタ毎にηに関連すると考えられた因子(GDP成長率,水資源賦存量等)とηの相関を検討した.決定因子はクラスタ毎に異なり,産油国中心,中進国~発展途上国中心の2クラスタで相関は高くなった.またηは変化すると仮定し,国毎にη差分(Δη )と一人当たりGDPPPPやηとの相関を調べた結果,一人当たりGDPPPPで分類できた.一年当たりのη差分(Δη/year)は一人当たりGDPPPPが14,000 $ よりも大きい国では0.00345 の定数となり,14,000 $ 以下は国毎にばらついた.以上の結果を利用したηの推定により,より正確な工業用水需要量予測ができると考えられた.
フィリピンにおける治水分野の技術協力プロジェクトにおいて生じた問題点とその解決を通じて得られた知見を踏まえ,開発途上国における今後の治水分野の技術協力プロジェクトに対する改善の提言を行う.パイロット事業として整備した石積み水制の施工時に,材料となる玉石の寸法について,設計書で玉石の直径を平均45 cmと示した.日本側技術者は直径が概ね45 cmの玉石が使われるものと想定していたが,フィリピン側の工事発注する役所の技術者も,施工会社の技術者も,平均値が45 cm以上となるのであれば直径が10 cmの石から1 mの巨石まで幅広い範囲の大きさの石を使っても良いと認識しており,水制の真ん中に巨石を配置して,周囲を小さな石で整形するという事態が生じた.こうした認識の違いはなぜ生じるのか,違いを生じさせないことは可能か,といった観点から改善方策について提言を行う.
全球を対象とする洪水モニタリングやモデリングに取り組むコミュニティGlobal Flood Partnership(GFP)の2016年度会議(2016年6月29日~7月1日,イタリア)が開催され,これまでの取り組みの紹介と今後の展望が議論された.本稿ではGFPの沿革や活動内容の紹介,本年度会議の議題内容,および所感に関して叙述する.
雑誌創刊が後を絶たない今日,Hydrological Research Letters (HRL)がどのような状況におかれているのかを,客観的に調べるために,Google Scholarデータベースを用いて調査しました.平均被引用回数,h5-index共に,昨年と比較すると,低くなってしまいましたが,それでも,掲載論文数はさておき,世界の水文・水資源関連雑誌の中で,Google Scholar Journal Rankingで10位以内に位置しています.やがてWeb of Scienceでも検索対象となり,よりHRL認知度の向上が期待されます.