目的. papillaly adenocarcinomaの分類はWHOと日本肺癌学会分類ではbronchioloalveolar carcinoma (BAC) の扱いにおいて多少異なっている. そこで今回はpapillary adenocarcinomaおよびBACと診断された症例を臨床病理学的に検討し, WHO新分類の妥当性と問題点を検討した.
対象および方法. 1987年から1995年までに切除された肺癌の内, papillary adenocarcinomaおよびBACと診断された症例183例を対象とした. HE標本からこれらをBAC像のみしか認められない症例 (BAC群), 腫瘍辺縁部にはBAC像を認めるが腫瘍中心部にはpapillary adenocarcinomaの像を認める症例 (PB群), 腫瘍辺縁部にもBAC像を認めずpapillary adenocarcinomaの像のみを認める症例 (PA群) の3群に分けた. これら3群について臨床所見 (年齢, 性別, 喫煙歴), 病理学的所見 (p-TN因子, p-stage, 血管侵襲, リンパ管侵襲, 細胞亜型) および免疫組織化学染色にてki67抗原発現, vEGF発現, p53異常蛋白発現を, restriction fragment lengeth polymorphism-polymerase chain reaction (RFLP-PCR) 法にてk-ras codon 12変異を検索し, 比較検討した.
結果. BAC群とPB+PA群で分けると臨床的には性別でBAC群に有意に女性が多く (p=0.008), pT因子, pN因子, p-stageでも両者間に有意差を認めた. また, 病理学的にも血管浸潤, リンパ管浸潤, 分化度において有意差を認め, 今回検討したki67発現 (p=0.002), VEGF発現 (p=0.029), k-ras mutation (p=0.022) において有意差を認めた. 一方, PB群とPA群を比較すると, p-stageのみに有意差を認めその他の因子においては臨床的にも病理学的にも有意差は認められなかった. また予後においても同様で, 5年生存率および無再発期間を比較すると, BAC群はPB+PA群に比較し有意に予後良好であったが, PB群とPA群には差を認めなかった.
結論. 細胞亜型などから考慮すると発生学的にはPB群とPA群問には相違があるかもしれないが, 今回の検討からは臨床的にも病理学的にもPB群とPA群を区別することは困難であった. また, BAC群とPB+PA群問には, 予後も含め臨床的にも病理学的にも差が認められた. 従って現時点では, BACは肺胞上皮置換性にのみ増殖し間質浸潤を認めないものと定義して独立して分類し, その他は全てpapillary adenocarcinomaとして両者を区別することが臨床上合理的であると結論した.
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