肺癌
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60 巻, 4 号
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見解
総説
  • 関根 郁夫, 鈴木 敏夫, 山田 武史, 鈴木 英雄
    2020 年 60 巻 4 号 p. 292-297
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    研究とは「問い」に対する「答え」を徹底的に探し求めることであるが,現在では科学的発見の技術への応用も視野に入れて包括的に定義されている.臨床研究は患者を直接対象とする患者指向型研究と,患者から得た組織,細胞,血液などを用いる疾患指向型研究に大別される.研究は,「問い」の着想(新しいアイデア,リサーチ・クエスチョン),研究の計画(研究仮説,コンセプト・シート,プロトコール,倫理審査委員会の承認,研究データベースへの登録),研究の実施(プロトコール遵守,モニタリング,データマネージメント),結果の分析(仮説の検証),考察と結論(内的・外的妥当性の検討),発表というように段階的に進む.コンセプト・シートは幅広い研究者に送って研究デザインについての助言と協力を得る.研究実施体制を構築するこの段階が特に重要で難しいところである.近年,製薬企業によるグローバル治験が新規抗がん薬の開発を推し進めるようになり,臨床医が臨床試験における「問い」を出す余地は少なくなった.対照的に疾患指向型研究は著しい発展を見せており,臨床医には学際的に異なる領域の人たちを巻き込んで研究していく姿勢が期待されている.

  • 佐治 久, 丸島 秀樹, 宮澤 知行, 木村 祐之, 酒井 寛貴, 小島 宏司
    2020 年 60 巻 4 号 p. 298-304
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    近年の急速な医療の進歩を含む社会情勢の変化により,特に先進諸国においては高齢化社会を迎え,この状況の中で死亡原因に占める原発性肺癌の割合は年々増加している.高齢者肺癌外科治療はその安全性から,世界的にも暦年齢だけで根治を目指した外科治療が制限されることはない.高齢者肺癌外科治療を選択する上でリスクスコアリングシステムを構築する数々の研究が報告され,高齢者ならではの総合機能評価の重要性が示唆されている.問題となるのはがん治療における長期予後と他病死割合に加えて,社会生活維持の観点からの至適外科治療法の確立である.これらを目的とした外科系臨床試験が現在,計画・遂行されており,その結果が期待される.

  • 副島 研造
    2020 年 60 巻 4 号 p. 305-313
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    トランスレーショナルリサーチ(TR)は,1990年代半ばころから米国においてその重要性が注目され,新薬などの開発に大きな役割を果たしてきた.本邦においては,2007年から文科省によるTR支援推進プログラムが策定され,本格的な取組が開始された.TRの主役はアカデミアであり,アカデミアで生み出された有望なシーズを,アカデミアにおいていかに育成し,実用化に近づけるかが成功の鍵となる.この20年間において肺癌は医学領域,特にがんの領域においては最もTRの恩恵を受けた領域であり,様々なドライバー遺伝子の発見と分子標的治療薬の開発や免疫チェックポイント阻害薬の開発など,まさしくTRの大きな成果である.ただ残念ながらTRの元となるシーズは本邦のアカデミアで見出されたにも関わらず,アカデミアによるシーズ支援体制の不備や,日本の製薬企業の体力不足などにより,薬剤についてはその多くが海外の企業により開発され,日本にはその恩恵が十分に還元されていないのが現状である.今後はバイオ医薬品を中心とした新規モダリティの薬剤が次々と登場してくることが予想されるが,開発にあたっては着実な戦略に基づき行うことが重要である.

原著
  • 能勢 直弘, 森 浩貴
    2020 年 60 巻 4 号 p. 314-318
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.肺癌手術症例における就労状況や術後の職場復帰に関する研究は極めて少ない.本研究では,肺癌に対する手術前後の就労状況を明らかにすることを目的とした.方法.2016年8月から2018年10月までに当院で根治的肺癌手術を行った112例を対象とし,手術時の就労状況,術後の復職状況を調査した.結果.年齢39~89歳,男性67例,女性45例であった.112例中43例(38.4%)が手術時に就労しており,うち37例(86.0%)が術後に復職した.病理病期0~IB症例はIIB~IVAに比べ術後1ヶ月以内の復職率が有意に高かった(43.3% vs. 7.7%,p=0.0329).復職した37例のうち,病理病期IIB~IVAの10例中9例でプラチナ製剤を含む術後補助化学療法が行われた.プラチナ製剤を含む術後補助化学療法が行われた症例では,それらが行われなかった症例に比べて術後~復職までの期間が長かった(中央値:プラチナ製剤123日,UFT 41日,補助化学療法なし30日).結論.8割以上の症例で肺癌術後に復職可能である.しかし,術後早期の復職はプラチナ製剤を含む術後補助化学療法施行例では困難である.

  • 池田 慧, 小澤 雄一, 原田 堅, 長谷川 一男, 清水 奈緒美, 関 孝子, 長谷川 好規, 光冨 徹哉
    2020 年 60 巻 4 号 p. 319-329
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.日本肺癌学会が実施したアンケートから,肺癌治療と就労の両立の現状を把握し,医師が果たすべき役割を考察する.方法.肺癌患者と医師を対象にインターネット上でアンケートを実施した.結果.肺癌患者287人と医師381人から回答を得た.患者アンケートで治療開始前に就労状況や希望について『話し合ったことはない』が42.9%を占め,一方で『医師・医療者から質問があり医師を含め話し合った』は22.6%のみであった.患者の45.3%が治療開始後に休職・退職を余儀なくされ,退職理由は『治療の副作用・病気に伴う身体的な不調のため』と『職場に迷惑をかけることを懸念したため』が多かった.治療と就労の両立のため医師に最も希望することは『就労について相談する機会の増加』が最多で,次いで『有害事象の少ない治療選択肢の提示』が多かった.結論.今回のアンケートで,医師主導の就労を意識した肺癌マネージメントを行う重要性が浮き彫りになった.これからの肺癌診療に関わる医師は,患者の職業により関心を持って,自ら就労の話題を切り出し,知識を活かして各々にとっての最適な治療を模索していくことが求められる.

症例
  • 三澤 賢治, 三島 修, 高田 宗武, 牛山 俊樹, 下条 久志, 小口 和浩, 小泉 知展
    2020 年 60 巻 4 号 p. 330-334
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.Echinoderm microtubule-associated protein-like 4-anaplastic lymphoma kinase(EML4-ALK)は,2007年に同定された融合遺伝子で,その産物であるALK融合タンパクは強力な癌化能を示す.ALK融合遺伝子陽性肺癌の臨床的特徴として若年発症がある.今回,10歳代という若年者のALK融合遺伝子陽性肺腺癌症例を経験したので報告する.症例.15歳,女性.学校検診の胸部X線検診で異常を指摘され当院紹介となった.胸部X線およびCTで右肺上葉に長径36 mmの腫瘤影を認め,気管支鏡検査にて肺腺癌と診断.胸腔鏡下右上葉切除術およびリンパ節郭清を施行した.病理診断は高分化肺腺癌pT2aN0M0,pStage IBであった.免疫染色およびFISH法にてALK融合遺伝子陽性を確認した.術後6か月の胸部CTで再発所見は認めていない.結論.今回我々は,10歳代に発症した若年ALK肺癌の切除症例を経験した.若年者,特に10歳代においても肺癌が発症する可能性があることを考慮する必要があると考えられた.

  • 大亀 剛, 篠田 明紀良, 重松 義紀, 寺島 剛, 波戸岡 俊三
    2020 年 60 巻 4 号 p. 335-340
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.Pembrolizumabは近年の肺癌治療において重要な薬剤であるが,多様な免疫関連有害事象の報告があり注意を要する.症例.60歳代男性.咳嗽と労作時呼吸苦を主訴に当院を受診した.右上葉肺扁平上皮癌cT4N1M1a cStage IVA(PD-L1:100%)と診断してPembrolizumabを導入した.day 13に発熱・倦怠感を生じ,day 15に心筋炎疑いで入院となった.利尿剤による加療を開始した.day 16より心原性ショックとなったためICUに入室した.補助循環装置と体外式ペースメーカーを挿入した.day 17からステロイド投与を開始したが,day 18に死亡した.病理解剖を行った.心筋内にCD8陽性リンパ球の浸潤を認め,免疫関連心筋炎として矛盾しなかった.横紋筋壊死像も認め,横紋筋融解症を合併していたことも確認された.結論.Pembrolizumab投与後の劇症型心筋炎を経験した.急激な経過をとる場合があるため,関係各科の連携を綿密にして早急に鑑別診断を行いながら,治療に当たることが重要である.

  • 岩見 枝里, 松﨑 達, 佐々木 文, 江口 圭介, 寺嶋 毅
    2020 年 60 巻 4 号 p. 341-347
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の耐性機序として,最も頻度が高いのはT790M変異の出現である.変異出現後はオシメルチニブが有効であるが,いずれ耐性化する.オシメルチニブによる治療中に病勢進行を認め,手術検体により混合型小細胞肺癌と診断したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の1例を経験したので報告する.症例.46歳,男性.多発脳転移を伴うEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対してエルロチニブを開始し,原発巣と脳転移は縮小した.11カ月後,原発巣の増大と新規脳転移の出現を認め,原発巣より再生検を行った.T790M変異陽性であり,オシメルチニブを開始した.原発巣の増大を認めたが,脳転移を含め他の病変は制御されていたため原発巣切除を行った.手術検体で腺癌と扁平上皮癌の成分を含む混合型小細胞癌と診断された.結論.オシメルチニブによる治療後に,原発巣の切除検体で混合型小細胞肺癌と診断されたまれな1例を経験した.EGFR-TKI使用中に病勢進行を認めた場合は,組織型の主体が変化している可能性がある.十分な大きさの検体を得られる再生検を積極的に行うことが重要と考えられた.

  • 蜂須賀 康己, 藤岡 真治, 魚本 昌志
    2020 年 60 巻 4 号 p. 348-352
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.薄壁空洞形成を伴う原発性肺癌の報告は散見されるが,長期間にわたって空洞形成の過程を追えた症例は稀である.症例.症例は60歳代前半の男性.201X年に右急性膿胸の診断で当科へ入院した.初診時のCTで左下葉に径8 mmの小嚢胞を伴う,すりガラス状結節が指摘され,膿胸加療後もCTで経過観察した.4年間の観察で,同結節は薄壁空洞を形成しながら22 mmまで増大した.201X+4年,気管支内視鏡下の細胞診で悪性と診断し,左下葉切除術を施行した.病理組織診断結果は原発性肺腺癌であった.結論.長期経過観察によってCT上の薄壁空洞形成の増大過程を追跡し得た,原発性肺癌を経験した.

  • 四十坊 直貴, 角 俊行, 澤井 健之, 山田 裕一, 計良 淑子, 中田 尚志, 森 裕二, 高橋 弘毅
    2020 年 60 巻 4 号 p. 353-357
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブは非小細胞肺癌に対する標準治療として用いられているが,免疫チェックポイント阻害薬使用による肺障害(checkpoint inhibitor pneumonitis:CIP)の報告が散見される.症例.78歳,男性.全身CTで左舌区に腫瘤影を認めた.精査の結果,肺扁平上皮癌cT2aN2M1a,Stage IVA,PD-L1 tumor proportion score 5%と診断し,初回治療としてカルボプラチン+ナブパクリタキセルを開始した.病勢増悪後は2次治療としてペムブロリズマブを開始し,完全奏功が得られた.ペムブロリズマブ開始64週後に労作時呼吸困難が出現した.胸部X線写真,胸部CTでびまん性のすりガラス影を認め,CIPを疑った.気管支肺胞洗浄液の性状から肺胞出血と診断し,ペムブロリズマブは中止しステロイドパルス療法を施行した.ステロイド治療開始後,すりガラス影は改善した.ステロイド漸減後も再燃なく,ペムブロリズマブ中止後も肺癌の病勢悪化はない.結論.ペムブロリズマブ長期奏功後に免疫関連有害事象として肺胞出血を認めた.免疫関連肺障害は投与早期の発症が多いが,長期奏功中の発症もあるため注意が必要である.

  • 園川 卓海, 竹ヶ原 京志郎, 井上 達哉, 榎本 豊, 寺崎 泰弘, 臼田 実男
    2020 年 60 巻 4 号 p. 358-363
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺カルチノイドは原発性肺悪性腫瘍の1~2%を占め,稀にadrenocorticotropic hormone(ACTH)産生を伴う.症例.42歳,女性.1年前より体重増加,満月様顔貌を自覚しており,2ヶ月前からの腰背部痛を主訴に当院を受診.特徴的な身体所見や,ACTH及びコルチゾールの上昇を認め,他の内分泌学的精査と合わせてCushing症候群と診断された.胸部CTで左肺上葉に腫瘍を認め,異所性ACTH産生腫瘍が疑われたため,左上葉切除術,リンパ節郭清術を施行した.病理診断は定型カルチノイドで,大動脈下リンパ節に転移を認めた.また,免疫染色でACTHが陽性であり,ACTH産生肺定型カルチノイド,pT1bN2M0,stage IIIAと診断された.術後,ACTH及びコルチゾールは一過性に低下したが,速やかに再上昇し,高値が遷延した.術後精査でその原因を説明する所見はなく,トリロスタン投与後,切除7ヶ月後にいずれも正常範囲まで低下した.現在,術後3年であるが,再発や症状増悪は認めていない.結論.特異的な術後ホルモン濃度の推移を辿ったACTH産生肺定型カルチノイドの1例を経験した.

  • 安東 敬大, 西山 直樹, 本多 隆行, 桐村 進, 榊原 里江, 三ツ村 隆弘, 遠山 皓基, 加納 嘉人, 池田 貞勝, 宮崎 泰成
    2020 年 60 巻 4 号 p. 364-370
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2020/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.がんゲノム医療の普及により,遺伝子情報から治療戦略を考える機会が増えた.しかし,診断での有用性に関する報告は少ない.症例.51歳男性.右上顎洞癌に対して右上顎洞全摘・再建術および術後化学放射線療法を施行.術後8か月の胸部CTで左胸膜腫瘍が出現し,生検検体は病理学的に悪性胸膜中皮腫が疑われ,当院を紹介受診.再検した免疫染色は低分化な肉腫様の組織でcalretininやD2-40は陰性で,悪性中皮腫と診断できず,病理学的な類似性には乏しいが既往の右上顎洞癌転移の可能性も考慮し,右上顎洞癌および胸膜腫瘍組織をFoundationOneCDxならびにFoundationOneHEMEによるがん遺伝子パネル検査でそれぞれ解析した.両方の組織から頭頚部癌の高頻度遺伝子異常であるNOTCH1を含め共通する遺伝子異常を多数検出し,右上顎洞癌の転移と診断した.いずれの組織もTumor mutation burdenが高く,Nivolumabで著明な腫瘍縮小を得た.結論.病理学的な確定診断が困難であったが,ゲノム検査を追加して確定診断および治療の適正化が得られた1例を経験した.

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