肺癌
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63 巻, 4 号
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総説
  • 後藤 悌
    2023 年 63 巻 4 号 p. 275-279
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    抗がん剤の需要が急増している中,日本の薬価制度によって,抗がん剤の薬価が比較的コントロールされている.新薬の薬価は製造原価に加えて販売費や営業利益が考慮され,がん領域では市場拡大再算定や特例拡大再算定によって価格が調整される.しかし,日本における医薬品の支出額が高いことが問題視されており,抗がん剤の高騰は世界的にも問題となっている.医療現場において費用対効果が考慮されないモラルハザードと,科学的に有効な治療法が必ず保険適応となり償還される制度が,日本で医薬品の使用が多い理由である.日本の医薬品承認・償還制度は世界的に評価されているが,将来の負担を先送りしている実態がある.医療費は社会保険料,患者負担,一般財政によって支出され,公的資金は全体の40%を占めているが,現在の社会保障制度は持続可能なものではなく,コスト削減の研究が必要である.しかし,患者にも医療者にも低額で新規治療薬を使用できる社会が維持できることが望ましい.持続可能な社会を築くためには,医療は社会と一体となって取り組む必要がある.

原著
  • 福本 紘一, 森 正一, 吉岡 洋, 岡阪 敏樹, 谷口 哲郎, 重光 希公生, 成田 久仁夫, 福井 高幸, 中村 彰太, 芳川 豊史
    2023 年 63 巻 4 号 p. 280-284
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.本邦の胸腺腫瘍診療ガイドラインによれば,「臨床病期I-II期胸腺上皮性腫瘍切除手術においては,腫瘍の完全切除および胸腺摘出術を行うよう推奨する」とされているが,胸腺を全摘しない胸腺部分切除もある程度施行されているのが実情と推察される.また,術式以外の周術期診療に関してもガイドラインがどの程度参考にされているのかは不明である.方法.名古屋大学呼吸器外科教室およびその関連施設に在籍する呼吸器外科専門医を対象に,胸腺上皮性腫瘍の周術期診療(術式・術後補助療法・術後経過観察期間・術前画像評価等)に関するアンケート調査を行った.結果.30名の呼吸器外科専門医から回答を得た.重症筋無力症非合併の早期胸腺腫に対する術式は,胸腺摘出術が67%(20/30),胸腺部分切除が33%(10/30)との回答であった.術後補助療法や観察期間についてはおおむねガイドラインの推奨通りの回答であった.結論.おおむねガイドラインに沿った診療が施行されているという結果であったが,早期胸腺腫に対する術式はガイドラインで推奨されていない胸腺部分切除が1/3程度選択されていた.

  • 東山 聖彦, 小林 周平, 野尻 崇, 宇田 裕史, 井上 正義, 山内 周, 佐藤 慶治
    2023 年 63 巻 4 号 p. 285-291
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.細胞診検体を用いた肺がんコンパクトパネル™検査(CP検査)を実臨床に導入し,同時にホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体を用いた従来の肺がんマルチプレックス遺伝子検査(従来検査)と比較した.研究方法.2021年6月から2022年12月までの肺がん疑い症例(検体58件,症例57例)の気管支鏡やCTガイド下針生検および胸水などの細胞診検体をCP検査に提出し,同時に生検組織のFFPE検体に対し従来検査(オンコマインDx Target TestマルチCDxシステム,ODxTTまたはAmoyDx 肺癌マルチ遺伝子PCRパネル,Amoy検査)を行い,その結果を比較した.結果.非肺がん検体2件を除く肺がん検体56件中54件でCP検査は解析可能であった.一方,従来検査では検体量不足などのため,40件のみ結果を得た.両検査において36件で結果は一致し,残りの4件はCP検査のみ陽性であった.この4件中2件は他のコンパニオン診断にて遺伝子変異陽性が確認でき,分子標的薬の1次治療を開始できた.結語.実臨床では細胞診検体のCP検査はFFPE検体の従来検査より検出感度や実用性に優れ,有用性が高い.

  • Yoshinori Handa, Takuhiro Ikeda, Hideaki Hanaki, Yoshihiro Miyata, Ken ...
    2023 年 63 巻 4 号 p. 292-301
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    Objective. Due to its rarity, the clinical behaviour of pulmonary pleomorphic carcinoma has not been elucidated. This study aimed to investigate the prognosis and prognostic factors of pulmonary pleomorphic carcinoma, especially factors associated with early recurrence and death. Methods. We retrospectively investigated 44 cases of pulmonary pleomorphic carcinoma. All patients underwent complete surgical resection. Factors affecting survival were assessed by the Kaplan-Meier method, and Cox regression and logistic regression analyses. Results. The prognosis of pleomorphic carcinoma was severe. In particular, there were high rates of early recurrence and death after surgery (the 1-year overall survival and recurrence-free survival rates were 52.6% and 45.8%). Although pleural invasion (P=0.95) and lymphatic invasion (P=0.39) did not affect the prognosis, patients with vascular invasion had a significantly worse prognosis than patients without vascular invasion (P=0.042). Similarly, tumors consisting mainly of sarcomatous elements showed a poorer prognosis than those consisting mainly of epithelial components (P=0.094). A multivariable Cox regression analysis revealed that vascular invasion was independently associated with a poor prognosis (hazard ratio, 3.11; 95% confidence interval, 1.04-13.3; P=0.026), and tumors consisting mainly of sarcomatous elements tended to have a poor prognosis (hazard ratio, 2.21; 95% confidence interval, 0.88-6.29; P=0.089). In addition, vascular invasion and tumors consisting mainly of sarcomatous elements were identified as risk factors for early recurrence and death after surgery by a multivariable logistic regression analysis. Conclusions. The prognosis of patients with pulmonary pleomorphic carcinoma is severe. Vascular invasion and tumors consisting mainly of sarcomatous elements are poor prognostic factors.

症例
  • 吉田 果央, 井上 考司, 勝田 知也, 橘 さやか, 近藤 晴香, 中村 純也, 能津 昌平, 相原 健人, 中西 徳彦, 森高 智典
    2023 年 63 巻 4 号 p. 302-307
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.I~II期非小細胞肺癌における免疫チェックポイント阻害薬の効果に関する報告は稀であるが,病理学的に完全寛解を得られた症例を経験したため報告する.症例.66歳,男性.血痰及び胸部異常陰影のため当科に紹介となった.左肺上葉腫瘤と縦隔肺門リンパ節腫大,また右肺上葉に気腔を伴う腫瘤を認め,各病変よりsquamous cell carcinomaを確認し,多発非小細胞肺癌(左上葉IIIA期,右上葉IIA期)と診断した.予後を規定する左IIIA期病変に対しての化学放射線療法及びdurvalumabによる地固め療法を先行した.治療完遂後の効果判定PET-CTでは両側上葉原発巣及び左肺門リンパ節のFDG集積は消退し,臨床的完全寛解と判断した.右IIA期病変に対する根治的治療追加のため右肺上葉切除を行ったが,手術検体では腫瘍細胞を認めず,病理学的にも完全寛解を確認した.結論.対側肺癌の治療目的で投与したdurvaluamb地固め療法後の病理学的完全寛解を確認したIIA期非小細胞肺癌の1例を経験した.

  • 野亦 悠史, 橋本 久実子, 成田 久仁夫, 新井 義文, 前多 松喜
    2023 年 63 巻 4 号 p. 308-313
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.前立腺癌の肺転移が臨床的に発見される症例は5~8%程度と稀である.また,prostate-specific antigen(PSA)は前立腺癌に対して鋭敏な腫瘍マーカーであり,遠隔転移を有する場合,陽性率は90%程度とされる.症例.72歳男性.他疾患フォロー中の胸部CTで,右上下葉にそれぞれ13 mm,17 mmの境界明瞭な充実性結節影を複数認めた.転移性肺腫瘍の疑いで18F-FDG PET/CTを施行したが,肺病変以外に集積を認めず,各種腫瘍マーカーは陰性であった.炎症性結節の可能性を考慮し,経過観察となった.1年後,既存結節の増大と新生結節を認め,鏡視下肺生検を実施した.組織型は腺癌,免疫染色でPSA陽性,androgen receptor陽性であったことから,前立腺癌肺転移の診断を得た.肺生検の結果を受けて前立腺生検を施行し,原発巣である前立腺癌の診断確定に至った.結論.血清PSAが正常範囲内で肺転移が先行して発見された進行前立腺癌は稀であるが,高齢男性における前立腺癌の有病率は高く,転移性肺腫瘍を疑う肺結節を認めた際は原発巣として考慮すべきである.

  • 髙橋 秀悟, 齋藤 芳太郎, 村上 正代, 後藤 明輝, 松崎 郁夫
    2023 年 63 巻 4 号 p. 314-318
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺乳頭腺腫は非常に稀であるが,肺腺癌へ悪性転化する場合がある.今回我々は,肺乳頭腺腫の悪性転化と考えられた乳頭型肺腺癌の1例を経験した.症例.45歳男性.X-8年前にCTで偶発的に右下葉に結節影を認め,外科的生検を検討していたが,通院を自己中断した.X年に右背部痛を主訴に近医を受診し,CTで右下葉結節影が認められたため,精査・加療目的に当科へ紹介された.気管支鏡検査で肺腺癌の疑いと診断を得たため,右下葉切除+縦隔リンパ節郭清術を施行した.肉眼的所見では,20 mm大の境界明瞭な類円形の腫瘍であった.病理学的所見では,乳頭状増殖を示し,腫瘍辺縁には置換性増殖もみられた.臨床経過や画像,肉眼所見は乳頭腺腫を示唆する所見であったが,核異型が比較的高度である点や置換性増殖を認める点から,乳頭型肺腺癌と診断した.また次世代シーケンサーによる遺伝子解析では,CTNNB1遺伝子変異が陽性であった.結論.乳頭腺腫が肺腺癌へ悪性転化したと考えられた非常に稀な症例を経験した.

  • 池田 夢, 吉岡 弘鎮, 岡崎 優太, 中西 健太郎, 後藤 清里, 生駒 龍興, 深井 真璃, 竹安 優貴, 山中 雄太, 中村 聡明, ...
    2023 年 63 巻 4 号 p. 319-324
    発行日: 2023/08/20
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.照射想起肺臓炎(radiation recall pneumonitis:RRP)は放射線照射後に様々な薬剤で発現しうることが報告されている.症例.49歳男性.肺扁平上皮癌stage IIIAに対して2017年11月より同時化学放射線療法を施行した.2018年3月にgrade 2の放射線肺臓炎を発症し,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)内服にて肺臓炎は改善し以降経過観察としていた.2021年7月のCTにて照射野内の縦隔リンパ節の腫大を認め,再発と診断しnivolumab+ipilimumabを開始した.サイクル1の22日目に乾性咳嗽が出現し,CTで前回の照射範囲内の放射線肺臓炎瘢痕部周囲にすりガラス陰影とコンソリデーションを認めたため,RRPと診断した.PSL(0.5 mg/kg)を開始し,RRPの改善後にPSLを5 mg/bodyまで減量した時点でnivolumab+ipilimumabを再開した.しかし,再開後21日目にRRPがgrade 3で再燃したためPSL(1.0 mg/kg)を開始した.結論.免疫チェックポイント阻害剤もRRPの原因薬剤の1つとなるため,注意が必要である.

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