肺癌
Online ISSN : 1348-9992
Print ISSN : 0386-9628
ISSN-L : 0386-9628
63 巻, 6 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
総説
  • 鍋島 一樹, 後藤 優子, 瀧澤 克実
    2023 年 63 巻 6 号 p. 835-843
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,中皮腫診療を取り巻く状況は大きく変化してきた:患者の高齢化,従来の化学療法にまさる免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ+イピリムマブ併用の登場,細胞診や小さな生検組織・早期病変における病理診断の進歩である.本稿では(i)前浸潤性中皮腫mesothelioma in situを含む「良性および前浸潤性中皮腫瘍」というカテゴリーが初めて加えられたWHO 2021分類の概略,(ii)その新たな疾患単位の診断を可能とした中皮腫の遺伝子変異に基づく形態学的補助アッセイと(iii)細胞診への応用,さらに(iv)中皮腫瘍および中皮腫亜型と遺伝子変異について概説する.胸膜中皮腫の8割以上が胸水で初発することを考慮すると,細胞診の役割がより重要になってくると予測される.ただ補助アッセイの応用には注意点やpitfallもあり,慎重な運用と評価が望まれる.また,中皮腫診断は病理医のみでは難しく,病理組織と代替アッセイの結果を常に臨床所見・画像所見とともに評価・判断することが肝要である.

  • 中川 加寿夫
    2023 年 63 巻 6 号 p. 844-849
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    非小細胞肺癌に対する術後補助療法の中で,術後補助化学療法は標準治療として確立している.一方,術後放射線治療は,局所制御に対しては有効だが,生存期間に対する有効性は示されていなかった.特に,病理病期I~II期(N0~1)では予後を悪化させる結果であった.しかしながら,病理病期III期(N2)では,様々な後ろ向き研究において,有効性が示されるようになり,その意義が見直されている.外科的な観点からは,病理病期III期(N2)では,系統的郭清範囲内のリンパ節再発が20%に認められるため,局所制御は手術のみでは不十分であるといえる.近年の2つの第III相比較試験(Lung ART試験,PORT-C試験)では,術後放射線治療による局所制御効果は示されたものの,生存期間に対する有効性は示されなかった.現在,JCOG1916(J-PORT)試験が進行中であり,その結果が待たれる.最近,術後補助療法に免疫チェックポイント阻害薬が適応となった.免疫チェックポイント阻害薬は放射線治療との相乗効果があり,術後補助化学療法→放射線治療→免疫チェックポイント阻害薬のような形の術後補助療法の確立も期待される.

総説
  • 嶋田 善久
    2023 年 63 巻 6 号 p. 850-856
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    近年有効な薬物療法の台頭やプレシジョンメディシンの導入により,進行非小細胞肺癌への全身治療の成績は向上しているものの,再発や増悪を免れる症例は一部にすぎない.そのような状況下で現在,“oligometastases”が注目され,潜在的に根治を目指せる一群を対象として,全身治療と局所治療による集学的治療戦略が模索されている.現在の肺癌oligometastasesに対する局所治療の主体は放射線治療であり,進行中の複数の第III相試験においても,放射線治療が局所治療の中心となっている.一方で,外科治療に関する報告は限られていたが,実地診療では外科治療が優先される状況も存在する.Oligometastasesに対して外科治療を行うべきか否かについては,原発巣および転移巣の状態を考慮し,耐術能評価を十分行った上で評価・検討すべきである.また治療方針の決定は,多職種の治療検討チームにより慎重に行われなくてはならない.今後,肺癌oligometastases治療を体系的に整備するためには,外科治療の適応基準の明確化が不可欠である.

原著
  • 福神 大樹, 影山 小百合, 小丸 可奈子, 中島 喜章, 藤原 妙子, 山中 伸治, 鈴木 江郎, 松島 恵一, 右田 孝雄
    2023 年 63 巻 6 号 p. 857-863
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.中皮腫を発症した患者は労働者災害補償保険法や石綿健康被害救済制度が利用できるが,経済的問題の解決には個人差があり,その要因は明らかにされていない.本稿では患者の就労状況の変化から経済的困窮の自覚が生じる要因と課題を考察することにした.方法.患者に対してアンケート調査を行い,経済的困窮を従属変数,制度の認定・申請状況5項目と就労状況7項目を独立変数とした重回帰分析を行い,60歳前後の年齢で経済的困窮の自覚の発生件数を比較した.結果.患者は「石綿健康被害救済制度の認定」「休職」が増加した場合,「経済的困窮の自覚」も増加した.就労状況を60歳前後で比較した場合,60歳未満では「継続就労」「休職」,60歳以上は「無職/年金生活」が有意に多かった.経済的困窮の発生は60歳未満が有意に多く,収支合計額の変化と年齢の相関性については加齢と収支合計額に逆相関関係が見られた.結論.経済的困窮の自覚は「休職」「石綿健康被害救済制度の認定」の患者に発生しやすいことが明らかになり,特に60歳未満は経済基盤が不安定になりやすい.今後は就労していた若年・中高年世代に考慮した相談支援の拡充や制度設計の見直しが求められる.

症例
  • 渡辺 寛仁, 小暮 啓人, 沖 昌英
    2023 年 63 巻 6 号 p. 864-868
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.オシメルチニブは,第3世代の上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor,EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor,TKI)であり,EGFR変異を有する進行性非小細胞肺癌患者に対して一次治療として推奨される薬剤である.症例.76歳男性,2020年12月に肺腺癌(T2aN3M0/stage IIIB)と診断された.EGFRエクソン19欠失変異が判明し,2021年1月よりオシメルチニブを開始した.同年2月より呼吸困難が出現,4月に心不全と診断され,アゾセミドの内服を開始した.同年7月より心不全が増悪し,8月に循環器内科へ入院となった.昇圧剤や利尿剤による管理により心不全は軽快し,退院となった.退院後はオシメルチニブからゲフィチニブに変更し,肺癌の進行や心不全の再燃は認めていない.結論.オシメルチニブ投与中に駆出率低下を来すことがあるため,特に心疾患既往のある症例においては重篤化するリスクがあるため心不全徴候に注視すべきであると考えた.

  • 佐藤 公洋, 倉石 博, 武知 寛樹, 正村 寿山, 小澤 亮太, 山本 学, 増渕 雄, 小山 茂, 町田 泰一, 伊藤 以知郎
    2023 年 63 巻 6 号 p. 869-875
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺類上皮血管内皮腫(pulmonary epithelioid hemangioendothelioma:PEHE)の標準治療法は確立されていない.症例.48歳女性,X-8年にPEHEと診断,未治療経過観察の方針となった.X年にPEHEの肝転移の診断に至った.カルボプラチン,ペメトレキセド,およびベバシズマブで治療し,安定を維持している.結論.PEHEに対してカルボプラチン,ペメトレキセドおよびベバシズマブによる化学療法が有効である可能性がある.

  • 井手 祥吾, 椎名 隆之, 市川 椋, 加藤 あかね, 中村 智次, 髙砂 敬一郎
    2023 年 63 巻 6 号 p. 876-881
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    緒言.腫瘍随伴症候群の1つである高カルシウム(Ca)血症は,進行肺癌例に多く,外科切除例は比較的少ない.高Ca血症による食思不振と倦怠感を認めたが,肺切除後速やかに改善した肺癌の1例を経験したので報告する.症例.82歳男性,検診胸部X線異常で呼吸器内科を受診,CTで内部に空洞を伴う7.6 cmの腫瘍を左肺下葉に認めた.精査の結果,扁平上皮癌(cT4N0M0,stage IIIA)と診断,手術可否につき当科紹介となった.食思不振や倦怠感を併発,初診時は9.6 mg/dlであった補正Caは,術直前には12.1 mg/dlに上昇,intact PTH低下,PTHrP上昇を認め,PTHrP産生肺癌による症候性高Ca血症と臨床的に診断した.胸腔鏡下左下葉切除術を施行し,補正Caは速やかに低下,食思不振や倦怠感も改善し,術後第7病日に退院した.外来通院時の補正Caは正常範囲内であり,PTHrP低下を認めた.腫瘍の免疫染色では,腫瘍胞巣内部の角化細胞の一部にPTHrP陽性細胞を認めた.結論.PTHrP産生肺癌に伴う症候性高Ca血症は,腫瘍切除により速やかな改善が得られるため積極的な外科的切除が考慮される.

  • 比嘉 花絵, 宮田 剛彰, 吉松 隆
    2023 年 63 巻 6 号 p. 882-886
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺癌の治療において,免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor:ICI)によるがん免疫療法は,自己免疫疾患の既往がある場合は,ICIによる免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)の発現または増悪する恐れがあるとされている.症例.72歳,男性.発熱,背部痛を主訴に救急搬送され,精査から,Lambert-Eaton筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)を合併した進展型小細胞肺癌と閉塞性肺炎の診断となった.Carboplatin+etoposide+atezolizumab療法後,atezolizumab単剤での維持療法を継続中である.結論.ICI治療によるirAEとしてLEMSを発症する報告も複数あるが,LEMS合併の小細胞肺癌においてatezolizumabを投与し,LEMS,小細胞肺癌ともに良好な経過を得ている症例を経験したため報告する.

  • 鶴賀 龍樹, 藤本 源, 江角 征哉, 江角 真輝, 辻 愛士, 八木 昭彦, 岡野 智仁, 都丸 敦史, 小林 哲, 浅山 健太郎
    2023 年 63 巻 6 号 p. 887-891
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.悪性中皮腫は非常に予後不良な疾患であり選択できる薬物療法も限られている.悪性胸膜中皮腫に関しては近年ニボルマブ,ついでイピリムマブ+ニボルマブ併用療法が本邦でも承認され高い治療効果を得ている.一方で同じ病態と考えられるその他の悪性中皮腫に関して免疫チェックポイント阻害薬は承認されていないのが実情である.症例.72歳男性.両側鼠径部腫瘤の増大を主訴に近医受診,腫大している精索を両側とも生検され病理学的に悪性中皮腫と診断された.集学的治療目的に当院紹介となったが胸膜および腹膜にも病変を有しており全身薬物療法の方針となった.シスプラチン+ペメトレキセド療法にて一時は病勢の制御が得られたが,その後CT検査で右胸膜肥厚の増大,右胸水の増加,精索病変の増大を認め再発と診断,新規にイピリムマブ+ニボルマブ併用療法を導入した.精索病変は縮小を維持したが胸膜病変は制御できず,その後ビノレルビン療法を行ったが奏効は得られなかった.結語.今回精索や腹膜にも中皮腫病変を有し,イピリムマブ+ニボルマブ併用療法が奏効した悪性胸膜中皮腫の1例を経験したので報告する.

  • 篠原 周一, 鈴木 あゆみ, 瀬戸 克年, 高橋 祐介, 坂倉 範昭, 佐々木 英一, 真砂 勝泰, 黒田 浩章
    2023 年 63 巻 6 号 p. 892-896
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.細気管支腺腫/線毛性粘液結節性乳頭状腫瘍(bronchiolar adenoma/ciliated muconodular papillary tumor:BA/CMPT)は稀な良性腫瘍であるが,Computed tomograpy(CT)経過などについては不明な点が多く,悪性との鑑別が重要である.今回,CTで1.5年間の経過観察を行い,増大傾向を認めた1例を経験したので報告する.症例.症例は67歳男性,1年6ヵ月前にCTで右下葉小結節を指摘され経過観察されていたが,1年6ヵ月後のCTで増大傾向を認め,手術の方針となった.インジゴカルミン・リピオドールによるCTガイド下マーキングを実施したのちに,右下葉部分切除術を行った.詳細な病理組織学的検討の結果,BA/CMPTと診断された.自験例の10例についての臨床背景,CTの経過,遺伝子変異の特徴についてまとめ,報告を行った.結論.増大傾向を認めたBA/CMPTの1例を経験した.BA/CMPTは稀な組織型であり,CTで増大傾向を示し,ドライバー遺伝子変異を認める悪性のポテンシャルを有する症例もあり,悪性との鑑別が極めて重要である.

支部活動
feedback
Top