肺扁平上皮癌は,発生機序に喫煙との関連が強い癌腫であり,肺癌全体の約20~30%を占めている.肺扁平上皮癌に対する細胞障害性抗癌剤を用いた治療開発の多くは限定的であった.しかし2010年代に入り,ネダプラチン+ドセタキセル併用療法の有効性や免疫チェックポイント阻害薬に関連した臨床試験の報告がなされるようになり,治療選択肢が大きく増えることとなった.さらに近年,化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法などの新たなエビデンスも創られつつある.本稿では,非高齢者かつperformance statusが良好な症例を主たる対象とした各種臨床研究について紹介する.また,既存のエビデンスに加えて,2018年に入り新たに報告された試験結果を紹介したい.
肺がんは男女ともにがんの部位別死亡数の上位を占める悪性腫瘍であり,進行肺がんの予後は20%と極めて低い.しかしEGFR体細胞変異をはじめとするドライバー遺伝子変異に対する分子標的薬ならびに免疫チェックポイント阻害剤の登場により,非小細胞肺がんに対する治療法は大きな転換期を迎え,極めて予後不良だったIV期の進行肺がんの治癒も現実味を帯びてきている.一方肺がんの罹患率は,禁煙の取り組みにより男性肺がんにおいて今後減少が期待できる.しかしもともと喫煙率が低い女性肺がんの発症数は,男性に比べると期待されるほど減少しないと考えられる.また喫煙者に対する免疫チェックポイント阻害剤の治療効果は十分期待されるが,非喫煙者特に女性非喫煙者肺がんではEGFR変異といったドライバー変異を伴う場合が多い.そのため,免疫の惹起に関わる喫煙に依存するネオアンチゲンが認められないため,免疫チェックポイント阻害剤の恩恵が得られない可能性が指摘されている.したがって非喫煙者特に女性に対する肺がん発症要因の同定は,今後さらに重要性を増すと考えられる.本稿では,これまでに同定されてきた肺がんの発症リスク要因と今後の研究の展望について述べる.
目的.臨床病期I期肺癌における葉切未満縮小肺切除において,十分な腫瘍断端距離が必要とされているが,断端細胞診の臨床的意義は十分に検証されていないので,その有用性を検証した.方法.臨床病期I期の肺癌に対して葉切未満肺切除を行った症例のカルテを参照して,抽出した情報を匿名化してデータベースを作成し解析を行った.結果.33例(楔状切除22例,区域切除11例)が抽出され,断端細胞診は陰性24例,偽陽性6例,陽性3例に認め,再発を終点とした陽性の陰性に対するハザード比は59.5(95%信頼区間:5.6~630.4)で,腫瘍断端距離を共変量とした多変量解析でも独立した再発の予測因子であった.結語.肺葉切除未満肺切除症例において,断端細胞診を行うことが有用であることが示唆された.
背景.ペムブロリズマブの免疫関連有害事象で膵炎は稀とされており,これまでに本邦での報告例はない.症例.46歳,男性.肺腺癌cT3N0M1c,stage IVBと診断された.Tumor proportion score(TPS)が70%であり,1次治療としてペムブロリズマブを投与した.腫瘍縮小効果は見られたが,6コース目の投与後より上腹部痛が出現し,増悪したため救急外来を受診した.膵臓のソーセージ様のびまん性腫大と血中アミラーゼ,リパーゼの上昇を認め,ペムブロリズマブによる膵炎が疑われた.ペムブロリズマブの休薬とメチルプレドニゾロン60 mg/日による加療を開始したところ,3週間ほどで症状は改善し,膵臓腫大やアミラーゼの値も正常まで改善した.この膵炎はIgG4の上昇は認められなかったものの,画像所見,ステロイド反応性の経過は自己免疫性膵炎に類似していた.結論.ペムブロリズマブ投与後に免疫関連有害事象と考えられる膵炎を発症し,自己免疫性膵炎様の画像所見とステロイド反応性を示した1症例を報告した.ペムブロリズマブを使用する際は膵炎の発症が起こり得るため,注意が必要である.
背景.肺癌多発小腸転移による活動性出血は治療に難渋する.今回我々はnivolumabにより消化管出血を制御し得た症例を経験したので報告する.症例.62歳女性.発熱と右胸背部痛を主訴に当科紹介.胸部CT検査で右肺上葉に9 cm大の腫瘤影を認め,CTガイド下生検で扁平上皮癌と診断.PET/CT検査で2ヶ所の小腸転移を認めた.carboplatinおよびS1併用化学療法を開始したがすぐに黒色便が出現し貧血が急激に進行.小腸内視鏡検査で空腸に出血性腫瘍を2ヶ所認め,生検にて扁平上皮癌と診断したが止血は困難であった.化学療法は中止し,出血に対して外科手術や血管塞栓術も考慮したがリスクが高いと判断し,nivolumabの投与を開始.開始3週目に黒色便は消失し貧血は軽快.6週目の胸部CT検査では主腫瘍の縮小を認めた.結語.免疫チェックポイント阻害薬は細胞障害性抗癌剤による直接の腫瘍壊死を主体とした抗腫瘍効果と違い,本症例のように出血性小腸転移に対して強い壊死や穿孔を起こすことなく止血と腫瘍縮小を得られる可能性があると考えられた.
背景.CT検査の普及によりスリガラス陰影(ground-glass opacity:GGO)を呈する原発性肺癌の手術症例は増加傾向にある.今回われわれはCTにてGGOを指摘され経過観察するも縮小せず,肺癌疑いとして胸腔鏡下肺切除術を施行したところ,孤立性肺毛細血管腫の病理診断を得た症例を経験したため報告する.症例.51歳女性.散在性脳梗塞・深部静脈血栓症の精査で行った胸部CTで偶然,左S9に16×16 mm大の円形で内部濃度均一なGGOを指摘された.深部静脈血栓の治療後,肺癌疑いとして診断と治療を兼ねて手術の方針となった.腫瘤は視診では局在不明,触診にて1 cm程度の軟らかい結節を左肺下葉S9に触知した.20 mm以下のpure GGOの肺癌疑いとしての積極的縮小手術の適応と考え,胸腔鏡下肺底区域切除を施行した.最終病理診断は,肺胞隔壁の拡大と拡張毛細血管の密在がみられ,孤立性肺毛細血管腫であった.術後経過は良好で現在まで再発はない.結果.孤立性肺毛細血管腫は原因不明の稀な疾患で,予後良好であると考えられている.高分化型腺癌との鑑別が困難であり,肺癌との鑑別がつかず切除されている報告が多い.本症例を経験し,文献的考察を添えて報告する.
背景.リウマチ症状を契機に発見された肺腺癌に対して,術後著明に症状が軽快した1例を経験した.症例.73歳女性,2015年1月より両肩,両膝の疼痛,手が握りづらいなどの症状が出現した.近医整形外科で鎮痛剤投与をされるも軽快せず,関節リウマチ疑いで当院整形外科に紹介された.手関節,指節関節の腫脹,両膝関節の腫脹とCRP:7.8 mg/dl(基準値0~0.3 mg/dl),MMP-3:145 ng/ml(基準値17.3~59.7 ng/ml),RF:18 U/ml(基準値0~11 U/ml)と高値を認め,関節リウマチと診断しステロイド治療(プレドニゾロン5 mg/日)を開始した.胸部X線にて右上肺野に異常陰影を認め,精査のcomputed tomography(CT)で右上葉に腫瘤影と,右肺全体に多発するすりガラス影を認めた.呼吸器内科に紹介され,気管支鏡下生検にて右上葉腫瘤は腺癌との診断となり,呼吸器外科で同年4月に右上葉切除+リンパ節郭清を施行した.術後2週間で関節の疼痛,腫脹が軽快しステロイド治療が不要となった.結果的にリウマチ症状は肺癌による腫瘍随伴症候群と考えられた.同時に発見されたすりガラス影は進行もなく経過観察している.結論.リウマチ症状を来す腫瘍随伴症候群を伴う肺癌の報告は比較的稀であり,文献的考察を加えて報告する.
硬化性肺胞上皮腫と肺カルチノイドはともに原発性肺腫瘍の中でも比較的稀な腫瘍であり,その合併は極めて稀である.今回,我々は硬化性肺胞上皮腫と肺カルチノイドを合併した稀な症例を経験したため報告する.