肺癌
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最新号
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総説
  • 久保 亘輝, 大野 達也
    2024 年 64 巻 2 号 p. 63-69
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    粒子線治療(陽子線治療,重粒子線治療)は放射線治療の一種であり,治療施設数は世界的に大幅に増加している.本邦は粒子線治療施設数が多く,更には2016年からは全例の前向き登録試験を開始している.近年,この前向き登録によるデータからI期肺癌の良好な治療成績がreal worldのデータとして報告されている.また臨床現場で治療方針に難渋することが多い間質性肺疾患合併肺癌に対して比較的安全に治療できることが報告されている.局所進行肺癌に対する粒子線治療に関しては特に免疫療法併用時の成績はまだ検討段階である.免疫療法併用困難となる肺臓炎の抑制や,局所制御の向上などが粒子線治療には期待されている.これまで明らかにされている知見とともに今後の肺癌に対する粒子線治療の展望に関して述べたい.

原著
  • 中川 和彦, 長谷川 一男, 米澤 晴美, 三浦 萌実, 谷澤 欣則, 松井 朋子, 大佐賀 智, 江夏 総太郎
    2024 年 64 巻 2 号 p. 70-82
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.進行・再発非小細胞肺癌患者および診療医を対象に,初回治療選択時の説明の実態・認識を明らかにする.方法.患者・医師にオンライン調査を実施し,設問ごとに要約統計量を算出した.結果.患者182名(年齢中央値55歳,女性64%),医師217名から回答を得た.患者と医師の認識に相違が認められ,「治療法の説明を受けて理解を深めたい」,「治療の可能性を知って希望を持ったり前向きに考えたりしたい」,「知るべき情報を知った上で治療選択し後悔しないようにしたい」に5段階評価で「とてもそう思う」または「そう思う」と回答した患者の割合(96%,95%,95%)は,医師(79%,79%,73%)より高かった.一方,「いろんな情報を聞くのは精神的に負担だ」,「説明されても理解できない」は,医師(50%,46%)に比べ患者(24%,11%)で低かった.結論.医師の想定よりも患者は治療選択肢を理解し自ら選択したいと考えていた.患者が後悔しない治療を選択するために,医師,患者双方の努力で共同意思決定を推進していく必要がある.

  • 久保田 馨, 栁谷 典子, 市原 英基, 大久保 翼, 明智 龍男
    2024 年 64 巻 2 号 p. 83-88
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.ロルラチニブは未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)チロシンキナーゼ阻害剤であり,国際共同第III相試験では高い有効性が示され,ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌の治療に用いられている.本剤に特徴的な副作用として,認知機能障害,言語障害,気分障害,幻覚などの中枢神経系症状があり,発現時には重症度に応じて休薬や減量が必要となる.本剤を処方する呼吸器科医やオンコロジストは,中枢神経系症状に対する診断や治療を注意深く行うことが望まれる.そのため,本剤の中枢神経系副作用発現時の対応について検討を行い,指針を作成した.方法.本剤投与中に中枢神経系症状を発現した患者に対する精神科医による診断と重症度の見解を踏まえ,呼吸器内科医および精神科医が対応を検討した.結果.本剤の副作用である中枢神経系症状の診断や管理の実効性,患者の日常生活への影響などを考慮し,投与開始前から中枢神経系症状発現時の対応までのフローチャートを作成した.結論.ロルラチニブによる中枢神経系症状発現時には患者の日常生活への影響を評価し,休薬や減量などの適切な対応を行う.日常生活への影響が大きい場合には精神科医の診断を受けることを提言する.

  • 福神 大樹, 影山 小百合, 小丸 可奈子, 中島 喜章, 鈴木 江郎, 松島 恵一, 右田 孝雄
    2024 年 64 巻 2 号 p. 89-96
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.中皮腫患者は労働者災害補償保険法や石綿健康被害救済制度を利用できるが,経済面における心情的困窮感の発生には個人差があり,その実態は明らかにされていない.本稿では患者の収入面と支出面から心情的困窮感の発生要因,所得保障の課題点を考察した.方法.患者に対してアンケート調査を行い,収入面では心情的困窮感を従属変数にして,収入源10項目で重回帰分析を行った.支出面では心情的困窮感が発生しやすい金額をFisherの正確確率検定で探求的に分析した.またt検定を用いて心情的困窮感の発生の有無で,患者の年齢を比較した.結果.収入面では「老齢/障害年金」「権利収入」の増加で心情的困窮感の係数が減少し,「家族からの支援」の増加で係数が増加した.支出面は33万円/月が心情的困窮感の発生の有無の境界になっており,年齢層では心情的困窮感は特に若年者で多く見られた.結論.現行では経済基盤が脆弱な患者は十分に補償・救済がなされず,患者の生活実情に即した制度設計の再検討が求められる.医療機関では「若年者・不労収入がない・月間支出額が33万円より高い・保険適用外の療養に関する費用が多い」に該当する患者に対する支援体制の整備が求められる.

  • 渡邉 真祥, 堤 昭宏, 黒田 葵, 中島 隆裕, 寺嶋 毅, 佐々木 文, 江口 圭介
    2024 年 64 巻 2 号 p. 97-101
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺原発多形癌の臨床像とその治療法を手術症例で検討する.対象・方法.2016年1月から2021年6月の間に当院で手術を施行した肺原発多形癌7例の臨床像を後方視的に検討した.結果.対象7例は男性5例と女性2例で,年齢は64~81歳であった.臨床病期はIA期3例,IB期1例,IIA期1例,IIB期1例,IIIA期1例で,術式は肺全摘1例,肺葉切除5例,区域切除1例であった.術後無再発の2例は31ヶ月,28ヶ月間生存中であるが,5例に術後再発が認められ,うち2例は術後早期に癌死した.他3例には副腎転移が見られ,両側副腎転移の1例には化学療法と免疫チェックポイント阻害薬を投与し,術後32ヶ月も無再発生存中である.片側副腎転移の2例には副腎摘除術を施行,1例には化学療法を追加し,66ヶ月と52ヶ月の間無再発生存中である.結語.肺原発多形癌術後の単発の片側副腎転移症例は転移巣切除や免疫チェックポイント阻害薬投与により予後良好であった.一部の症例では転移巣を含む積極的な外科的治療の介入が長期生存の一助となり得る可能性が示唆された.

症例
  • 小牟田 清英, 田邉 英高, 山内 桂二郎, 横山 将史, 岡田 英泰, 栁瀬 隆文, 細野 裕貴, 佐藤 真吾, 森下 直子, 鈴木 秀和
    2024 年 64 巻 2 号 p. 102-106
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.肺癌の食道への転移は非常に稀である.症例.60歳男性.X年2月から肺腺癌cT1bN3M1a,stage IVAに対して化学療法施行目的に通院中であった.経過中に嚥下困難が出現したが,摂食・嚥下スクリーニング検査やCT検査では嚥下困難の原因となる圧排所見は認めなかった.その後も症状の改善がみられなかったため,嚥下造影検査を行ったところ,中部食道に通過障害を伴う食道狭窄を認めた.胸腹部CT再検では,肺癌の病勢悪化に加えて中部食道粘膜の肥厚あり,上部消化管内視鏡検査で中部食道に粘膜面正常の全周性狭窄を認めた.経過や画像所見から,嚥下障害の原因は肺癌食道転移による食道狭窄と診断した.診断時には既に全身状態は不良で抗がん剤治療の変更や局所療法は困難な状況で,緩和治療の方針となった.結論.肺癌経過中に嚥下困難を生じた場合,圧排所見や嚥下スクリーニング検査で異常を認めなくとも,肺癌食道転移の可能性を考慮して他科や他職種と連携して,精査を行う必要がある.

  • 矢田 吉城, 伊藤 雄二, 中村 智子, 寶來 慎吾, 加藤 俊男, 水野 進
    2024 年 64 巻 2 号 p. 107-112
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.ラブドイド形質を伴う肺腫瘍は1999年のWHO肺胸膜腫瘍の分類で肺大細胞癌の特殊型に加えられていたが,2021年のWHO胸部腫瘍の分類においては,ラブドイド形質は細胞学的特徴とみなされており,ラブドイド形質を伴う肺腫瘍は特定の組織学的サブタイプに所属していない予後不良の稀な疾患である.報告が少なく,治療法はまだ確立されていない.症例.72歳女性.右側下顎歯肉腫脹があり生検を施行された.その後,胸部単純X線で異常陰影を認めたため,経気管支肺生検を施行し,右側下顎歯肉生検の結果と合わせて,右側下顎歯肉へ転移を来したラブドイド形質を伴う肺腫瘍と診断した.診断後,全身状態が悪化してきたため,口腔病変に対して放射線照射のみ行ったが,状態が急変し,診断30日後に永眠された.結論.歯肉へ転移を来したラブドイド形質を伴う肺腫瘍と考えられる稀な症例を経験した.ラブドイド形質を伴う肺腫瘍は進行が速く悪性度が高いが,治療に関して十分に検討されておらず,標準治療は確立されていない.そのため早期発見及び確立された有効な治療が望まれる.

  • 斉藤 彰俊, 後藤 千嘉, 中山 かおり, 小山 敏雄
    2024 年 64 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor:IMT)は稀な腫瘍であり,前縦隔に発生した報告は数少ない.症例.60歳代女性.検診の胸部X線写真にて,右第1弓の突出を指摘された.胸部造影CTでは,前縦隔右側に,長径74 mmの境界明瞭な腫瘤が認められた.腫瘤は上行大動脈と密に接し,心外膜までの浸潤が疑われた.造影効果は,早期相から全体に,やや不均一に認められた.MRIの脂肪抑制併用T2強調像では,辺縁が優位に低信号域を伴う,不均一な高信号を呈していた.FDG-PET/CTでは,腫瘤の中心部優位にFDG集積(SUVmax:5.46)が認められた.浸潤性胸腺腫(III期)が疑われ,胸骨正中切開縦隔腫瘍切除+心膜合併切除+右横隔神経合併切除を施行した.病理組織学的には,炎症細胞浸潤や組織球を背景として紡錘形細胞がやや疎に分布していた.免疫染色はα-SMAが陽性であった.以上より,IMTと診断された.結論.前縦隔腫瘍で,MRIにて線維成分の混在を疑わせるT2WI低信号域を認めた場合,またSUVmaxの低いFDG集積を認めた場合,活動性の低いIMTが鑑別となりうる.

  • 石濱 孝通, 戸田 道仁, 谷村 卓哉, 鈴木 智詞, 山本 亜弥, 岩田 隆
    2024 年 64 巻 2 号 p. 118-123
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.びまん性肝転移は生前に腹部CTや超音波検査など画像検査で診断されることは稀とされている.今回われわれは小細胞肺癌(small cell lung cancer,SCLC)のびまん性肝転移をfluorodeoxyglucose-positron emission tomography/computed tomography(FDG-PET/CT)検査により生前に診断し剖検で確認した症例を経験したので報告する.症例.58歳女性.持続する上腹部痛と背部痛を主訴にX年10月に当院消化器内科を受診.CT検査で左肺門部に37 mmの結節影と肝腫大を認められた.気管支鏡下肺生検で小細胞癌を検出.FDG-PET/CT検査では椎体のほか肝臓にびまん性のFDG集積を認めcT3N3M1c c-Stage IVBと診断.化学療法導入を予定していたが,気管支鏡から3日後に全身状態の急激な増悪と黄疸を認め搬送,初診から12病日で原病死した.剖検では肝臓に正常実質細胞を完全に置換する無数の小結節状転移巣を認めた.結論.SCLCのびまん性肝転移をFDG-PET/CT検査で生前に診断し得たものの,急激な肝機能増悪により死亡した剖検例を経験した.

  • 岡崎 優太, 吉岡 弘鎮, 上硲 敬介, 奥野 祐希子, 中西 健太郎, 生駒 龍興, 竹安 優貴, 勝島 詩恵, 山中 雄太, 倉田 宝保
    2024 年 64 巻 2 号 p. 124-132
    発行日: 2024/04/20
    公開日: 2024/04/24
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.悪性腫瘍患者は時に様々な神経障害を合併するが,自己免疫学的機序により生じる一群を傍腫瘍性神経症候群(PNS)という.PNSに併存する悪性腫瘍として,小細胞肺癌が最も多いと知られる.腫瘍の発見に先行した神経症状により,小細胞肺癌の診断に至り,治療奏効と共にPNS関連抗体価が低下したPNSの2例を報告する.症例1.63歳.女性.意識障害で救急搬送となった.画像検査では,意識障害の原因は特定できなかった.その後,胸部に増大傾向の腫瘤を認めた.精査の結果,限局型小細胞肺癌に伴うPNSの診断となりシスプラチンとエトポシド,加速過分割照射で治療を開始した.神経症状は治療奏効により改善し,PNS関連抗体の低下を得られた.症例2.73歳.女性.胸部異常陰影で紹介となった.紹介前は数回の痙攣発作を認めていた.精査の結果,進展型小細胞肺癌とPNSの診断となり,カルボプラチンとエトポシド,アテゾリズマブで治療を開始した.治療奏効により神経症状が改善し,PNS関連抗体は消失した.結論.原疾患の改善により2例共神経症状が軽快し,PNS関連抗体の低下を認めた.

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