肺癌
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63 巻, 3 号
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総説
  • 山根 弘路, 越智 宣昭, 瀧川 奈義夫
    2023 年 63 巻 3 号 p. 147-152
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    Advanced care planning(ACP)とは,「生命の危機に直面する患者と患者を支える家族・友人などの療養生活をともに送る人と医療従事者が,治療方針や療養場所,大切にしたい事柄などについて話し合い,患者の意思決定の代理決定が可能となるように患者の価値観や意向を共有する自発的なプロセス」であるが,呼吸器悪性腫瘍患者にACPを遂行する際には数多くの障壁が存在し,一部の患者ではACPを施行しにくい現状がある.呼吸器悪性腫瘍患者では一般論として,計画的なACPの実行は有効であるとされているものの,免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療法が短期間で数多く開発されたことによる予後判定の不確実性や患者に内在する防衛機制と精神状態の不安定性の問題,また日本社会全体の特殊な死生観や医療者のコミュニケーションスキルの問題により,ACPは大きく影響を受ける.そのため,一部の患者では本来有益であるはずのACPが逆に患者の精神状態に悪影響を与え,その後の医療介入の障壁となりうる.ACPにかかわる全ての医療者はまずこれらの障壁の存在を十分に理解した上で,介入する必要がある.

  • 森川 慶
    2023 年 63 巻 3 号 p. 153-160
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    非小細胞肺癌に対する個別化医療の普及に伴い,診断時の遺伝子一括検査の重要性が増している.一方で,十分量の組織検体を採取できないケースをしばしば経験し,代替となる診断法の開発が求められていた.本邦で3番目の肺癌遺伝子パネル検査として2022年11月に薬事承認された肺がんコンパクトパネルは,細胞検体でも高い遺伝子解析成功率が報告され,高精度かつ汎用性の高い新規の次世代シークエンスパネル検査として2023年2月に発売された.擦過細胞懸濁液や針洗浄液だけでなく,胸水や心嚢水などの液性検体も,ペア検体中の悪性細胞の存在を確認することで提出可能である.組織検体を基本とした従来の手順に加え,パネル検査のための細胞検体の取扱いも標準化が求められる.細胞検体の利用により出検機会が増加することで,遺伝子変異検索の裾野が拡大し,個別化治療が広く浸透する可能性を有す.

原著
  • 小澤 雄一, 山本 信之, 山本 紘司, 伊藤 健太郎, 釼持 広知, 林 秀敏, 宿谷 威仁, 藤本 大智, 菅原 俊一, 仁保 誠治, ...
    2023 年 63 巻 3 号 p. 161-181
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.臨床試験データはその高い精度により高い価値を持つが,日本ではこれまでほとんど統合的な活用がされていない.日本肺癌学会は,これらを集積集約し日本肺癌学会臨床試験統合データベース(JIDB)を構築することを計画した.方法.局所進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する根治的化学放射線療法に関して無作為化試験を実施した6つの臨床試験グループにデータ提供を依頼し,全てのグループから同意を得た.2019年8月から2021年6月にかけてデータを収集した.結果.8試験(JCOG9812,JCOG0301,NJLCG0601,OLCSG0007,WJTOG0105,WJOG5008L,SPECTRA,TORG1018)をJIDBの対象とした.3000以上のデータ項目は定義や単位を調整して408に統合した.症例数は1288例で,年齢中央値(範囲)は66(30~93)歳,性別(男性/女性)1064/224,組織型(扁平上皮がん/腺がん/その他のNSCLC/不明)517/629/138/4,病期IIIA/B 536/752であった.全集積例の生存期間中央値は24.6カ月,2年,5年,10年生存率は,51.1%,22.5%,13.8%であり,無増悪生存期間(PFS)中央値は9.5カ月で,2年,5年,10年のPFS率はそれぞれ22.4%,13.0%,9.1%であった.今後JIDBに関する情報を日本肺癌学会ホームページで公開し,学会会員から広く研究提案を募ることを計画している.結論.JIDBの構築は日本肺癌学会の主導により実現されつつある.このJIDBが今後多くの研究への端緒となり,肺がん治療のさらなる発展に貢献することが期待される.

症例
  • 大庭 大治, 岡本 祐介, 宮本 詩子, 武田 雄二, 寺﨑 泰宏, 平塚 昌文
    2023 年 63 巻 3 号 p. 182-187
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.異所性ACTH産生腫瘍は肺悪性腫瘍,とりわけ神経内分泌腫瘍に多く,クッシング症候群を呈しやすいとされている.症例.82歳.女性.1ヶ月前より全身倦怠感,37℃台の発熱,下肢浮腫を認めていた.精査の結果ACTH依存性クッシング症候群が疑われた.胸部CTで左下葉S10に結節を認め異所性ACTH産生腫瘍が疑われ左下葉切除+リンパ節郭清を施行した.病理診断は定型カルチノイドで,免疫染色でACTHが陽性でありACTH産生肺定型カルチノイドpT1bN0M0 stage IA2と診断された.術後,ステロイドカバーを漸減中にニューモシスチス肺炎(PCP:Pneumocystis pneumonia)を発症し人工呼吸器管理を必要としたがST合剤とステロイド投与により酸素化は改善し,術後7年4ヶ月経過しているが無再発生存中である.結論.術前にクッシング症候群を呈した異所性ACTH産生肺定型カルチノイドに対して肺葉切除を行い,術後にPCPを発症するも救命しえた1例を経験した.クッシング症候群を呈した異所性ACTH産生肺定型カルチノイドに対して治療の際にST合剤の予防内服を併せて行うべきである.

  • 蛭田 ゆり野, 鈴木 繁紀, 松田 康平, 坂巻 寛之, 山本 倫子, 風間 暁男
    2023 年 63 巻 3 号 p. 188-194
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.傍腫瘍性神経症候群の原疾患としては肺癌が最多であるが,非小細胞肺癌における報告は少ない.症例.75歳,女性.嚥下困難を主訴に当院を受診したが,嚥下障害の原因となる器質的・神経学的異常所見は認めなかった.CTで右中葉に1.5 cm,左下葉に1.9 cmの結節性病変を認めたため,肺癌による傍腫瘍性神経症候群が疑われた.PET/CTでは,右中葉病変にのみSUVmax 5.0のFDG集積を認め,右中葉肺癌疑い(cT1bN0M0,IA2期)として,診断的治療目的に右中葉切除術とリンパ節郭清を施行した.病理ではEGFR遺伝子変異(Exon21 L858R)陽性の肺腺癌(pT2aN2M0,IIIA期)と診断された.術後も神経症状は改善せず,左下葉病変は臨床的に右肺病変からの肺内転移であると判断し,全身薬物療法としてオシメルチニブ(80 mg/day)の投与を開始した.投与後7日目から嚥下障害は改善し,現在10か月目で再燃なく経過している.結論.傍腫瘍性神経症候群を合併するEGFR遺伝子変異陽性の肺腺癌に対しては,腫瘍に対する分子標的治療が傍腫瘍性神経症候群の改善にも寄与することがある.

  • 水谷 萌, 黄 文禧, 植松 慎矢, 西坂 泰夫
    2023 年 63 巻 3 号 p. 195-199
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)融合遺伝子陽性肺癌においてALKチロシンキナーゼ阻害薬はプラチナ製剤併用療法に対して無増悪生存期間の有意な延長が報告されているが,免疫チェックポイント阻害薬の効果は限定的とされる.アレクチニブに初期耐性を示し,アテゾリズマブ,ベバシズマブ,カルボプラチン,パクリタキセル併用療法で長期奏効が得られた症例を経験したため報告する.症例.74歳女性,咳嗽を主訴に当院紹介受診.肺腺癌cT4N3M1a stage IVA(PLE),ALK融合遺伝子陽性の診断となり,アレクチニブの内服を開始.約2ヶ月後に癌性心膜炎,癌性胸膜炎の増悪を認めたが,心嚢ドレナージ,胸膜癒着術を施行し,アレクチニブ内服を継続した.しかし約1ヶ月後に心嚢水,胸水の増加を認め,アレクチニブは無効と判断し,アテゾリズマブ,ベバシズマブ,カルボプラチン,パクリタキセル併用療法に変更した.変更後は長期奏効を得られている.結論.1次治療のALKチロシンキナーゼ阻害薬耐性例では他の阻害薬使用を検討することが多いが,初期耐性の場合には,複合免疫療法が有効な可能性がある.

  • 中井 知帆香, 米田 太郎, 掛下 和幸, 佐伯 啓吾, 青木 剛, 矢野 聖二
    2023 年 63 巻 3 号 p. 200-205
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.重複がんは増加傾向であるが,多発性骨髄腫に進行肺癌を合併した症例に対して,治療経験の報告は非常に少ない.症例.73歳女性,Performance Status 1.健康診断を契機に左肺上葉の腫瘤,肝腫瘤,右腸骨腫瘤を指摘された.右腸骨腫瘤性病変に対するCTガイド下骨生検の結果,多発性骨髄腫と診断し,DRd(ダラツムマブ+レナリドミド+デキサメタゾン)療法を開始した.1サイクル施行後腫瘍は全て縮小していたが,計6サイクル施行後のCT検査で縦隔リンパ節,肝腫瘍が増大していたため,肝腫瘍の肝生検を行った.非小細胞肺癌が検出され,cT1cN2M1b stage IVaの肺癌と診断した.PD-L1高発現(22C3:90~100%)であったためペムブロリズマブ(3週間毎,200 mg)による治療を追加した.2サイクルでgrade 2の両下腿浮腫を来し中止したが,腫瘍は縮小を維持している.結論.多発性骨髄腫にstage IVaの肺癌を合併した症例を経験した.本例ではそれぞれのがん種に対する薬物療法により奏効が得られた.多発性骨髄腫に進行肺癌を合併した症例にがん薬物療法を行った報告は少ないため,貴重な症例と考え報告する.

  • 武井 信諭, 鈴木 幹人, 平井 誠, 清水 麗子, 志満 敏行, 原田 匡彦, 比島 恒和, 八木 悠, 下山 達, 堀尾 裕俊
    2023 年 63 巻 3 号 p. 206-211
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.原発性肺癌に同時性重複がんが合併することは稀であり,中でも悪性リンパ腫の重複例は極めて稀である.症例.52歳,男性.CT検査で,右上葉に1.8 cm大の分葉状充実肺結節と右鼠径,外腸骨リンパ節腫大を認めた.PET-CTでは肺結節と鼠径,腸骨リンパ節にSUVmaxが9.4,4.3,5.3の集積を認めた.全身麻酔下に肺,鼠径リンパ節生検を一期的に行うこととした.肺生検を先行し,迅速病理診断で低分化癌の診断を得た.原発性肺癌と判断し,葉切除とND2a-2を追加した.その後,鼠径リンパ節生検を行った.最終的に小細胞肺癌IB期と古典的ホジキンリンパ腫IIA期と診断され,予後規定因子である肺癌への補助化学療法の後,ホジキンリンパ腫に対する化学放射線療法を行った.術後29ヶ月,両疾患とも無再発生存中である.結論.肺結節と鼠径,腸骨リンパ節腫大を契機に診断された小細胞肺癌と限局期ホジキンリンパ腫の稀な重複例を経験した.肺癌の鼠径,腸骨リンパ節転移や,骨盤内悪性腫瘍からの転移等との鑑別を要する.また,両疾患の予後や化学療法,全身状態を把握したうえでの治療方針決定が肝要である.

  • 神宮 大輔, 佐藤 幸佑, 生方 智, 渡辺 洋
    2023 年 63 巻 3 号 p. 212-216
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/29
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.進行期肺癌を正確に診断するためには全身状態および基礎疾患を踏まえつつ,必要十分量の検体を安全に採取することが重要である.症例1.73歳,男性.慢性心房粗細動,脳梗塞・両側頚動脈狭窄で抗凝固薬および抗血小板薬の内服あり.2ヵ月前からの気道症状で当科を紹介受診した.多発肺腫瘤,右鎖骨上窩リンパ節腫大を認めた.右鎖骨上窩リンパ節でエコーガイド下穿刺吸引生検を実施した.肺扁平上皮癌と診断し,次世代シーケンサー(NGS)も併用し,ドライバー遺伝子変異を確認した.症例2.68歳,男性.脳梗塞後で抗血小板薬2剤の内服あり.1ヵ月前からの気道症状で当科を紹介受診した.縦隔リンパ節の腫大による上大静脈症候群,心嚢液貯留,左内頚静脈血栓,右鎖骨上窩リンパ節腫大を認めた.右鎖骨上窩リンパ節でエコーガイド下穿刺吸引生検および半自動生検針による針生検を実施した.肺腺癌の診断に至り,NGSでドライバー遺伝子変異陰性を確認した.結論.エコーガイド下頚部リンパ節生検は侵襲的手技を躊躇するような症例においても安全に実施でき,precision medicineに向けて検体を採取することもできる.

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