肺癌
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59 巻, 3 号
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総説
  • 各務 博
    2019 年 59 巻 3 号 p. 217-223
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    PD-1,CTLA-4とリガンドの結合を阻害する免疫チェックポイント阻害薬は,長期生存効果を示す点で,これまでの治療薬と大きく異なっている.がん細胞そのものを標的とする,細胞障害性抗がん剤,分子標的治療薬は,腫瘍縮小や生存期間の延長という臨床効果を示してきた.しかし,Goldie-Coldmanによって予測されていた遺伝子変異集積に基づく自然薬剤耐性メカニズムから逃れることはできなかった.免疫チェックポイント阻害薬は,neoantigenを認識してがん細胞を破壊するT細胞免疫活性を上げることで,遺伝子変異をより多く集積した細胞を優先的に死滅させるという性質を持つ.これは,遺伝子変異集積による自然薬剤耐性を克服するのに重要な特性といえる.PD-1はがん抗原特異的T細胞機能抑制に重要な分子であり,その阻害薬は今後も中心的役割を果たすと考えられる.一方で,より多くのがん患者に長期生存をもたらすために,既存治療や新たな免疫関連分子を標的にした治療薬と,相乗効果を狙った複合免疫療法が始まろうとしている.最善の治療シークエンスを生むために,抗腫瘍T細胞免疫メカニズムに基づいた免疫評価が求められている.

  • 片山 量平
    2019 年 59 巻 3 号 p. 224-230
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    肺がんの約6割を占める肺腺がんでは,EGFR変異やALK融合遺伝子といったドライバーがん遺伝子の発見と対応する分子標的薬の発展により顕著な治療効果が見られるが,獲得耐性が大きな問題となっている.本総説では,ドライバーがん遺伝子陽性肺がんに対する耐性メカニズムの最新情報を概説する.

  • 三浦 理, 磯貝 佐知子, 吉野 真樹, 馬場 順子, 梶原 大季, 小山 建一, 竹之内 辰也, 谷 長行, 田中 洋史
    2019 年 59 巻 3 号 p. 231-237
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    PD-1/PD-L1阻害剤に代表される免疫チェックポイント阻害剤を用いるがん免疫療法の開発は,肺がんの治療に大きな影響を与えた.これらの薬剤は,非小細胞肺がん患者の初回治療,2次治療さらには化学放射線治療後の維持療法において,標準治療と比較して生存期間延長効果が示されている.安全性と忍容性は非常に良好だが,これらの薬剤は免疫関連有害事象(irAE)を起こし得る.その頻度は稀であるものの,時に致死的となる重篤な事例に直面することがある.さらにirAEはいつ,どの臓器が罹患するかを予測することができず,未だ適切な管理方法は確立していない.未だ多くの医師は,irAEの管理に精通しているとは言いがたい状況である.これらの問題を克服するために,irAE発症のバイオマーカーを予測する検討や,集学的チームアプローチによる管理が試みられつつある.これらの検討は,患者教育を通したirAEの早期発見,管理に繋がる可能性がある.この総説では,肺がん治療におけるirAEに関わる現在のデータとコンセンサスをまとめた.

総説
症例
  • Kyoko Hijiya, Jin Sakamoto, Shinji Kosaka, Ren Nagasako
    2019 年 59 巻 3 号 p. 244-247
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    Background. Psammomatous melanotic schwannoma is a rare neoplasm that may arise in the context of the Carney complex, a unique multiple endocrine neoplasia syndrome. Case. We herein report a case of psammomatous melanotic schwannoma not associated with the Carney complex, arising in the right paraspinal area of a 26-year-old woman. She underwent en bloc total resection of the mass and has exhibited a good clinical course for 10 years since tumor resection. Conclusion. Most melanotic schwannomas are slow-growing tumors; however, the prognosis can be unfavorable in cases with local recurrence or malignant behavior. This type of tumor is curable via resection and should be distinguished from other pigmented tumors, such as malignant melanoma.

  • 川本 有輝, 早川 佳奈, 中野 好夫, 早川 隆洋, 太田 敬之, 木村 桂三
    2019 年 59 巻 3 号 p. 248-253
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.非感染性心内膜炎はTrousseau症候群の一つとして知られているが,脳梗塞を発症して初めて診断されることが多く診断が難しい.またその治療法はいまだ確立されておらず,予後は極めて悪い.症例.68歳男性,腰痛を主訴に当院を受診,腰椎に骨転移を疑う病変を認めた.原発巣精査の結果,原発性肺腺癌(cT1bN2M1b,cStage IVB,EGFR遺伝子変異陽性)と診断し,アファチニブを開始した.アファチニブ開始後に発熱があり,経胸壁心エコーを施行したところ大動脈弁に疣贅を認めた.抗菌薬,抗凝固薬を使用せず様子をみていたところ,発熱から10日目に疣贅の消失を認めた.複数回施行した血液培養は陰性であった.以上から,肺癌に合併した非感染性心内膜炎と診断した.EGFRチロシンキナーゼ阻害剤治療により肺癌も著明に縮小し,血栓症の再発もなく経過している.結論.脳梗塞発症前に非感染性心内膜炎を診断し,抗凝固薬を用いずとも分子標的療法のみで軽快した稀な1例を経験した.悪性腫瘍に伴う血液培養陰性の心内膜炎では本症を鑑別に挙げ,できるだけ早期に化学療法を開始することが重要である.

  • 河角 敬太, 田村 朋季, 川尻 智香, 西 達也, 工藤 健一郎, 久山 彰一
    2019 年 59 巻 3 号 p. 254-259
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.転移性卵巣腫瘍の中で肺・気管支原発は3.6%と少なく,またエストラジオール産生症例はさらに希少であると考えられる.症例.70歳女性.7年前に肺腺癌と診断され化学療法を受けていたが,病変は増悪傾向であった.ALK融合遺伝子陽性であることが判明したため5年前よりクリゾチニブを開始し,以後病変は良好にコントロールされていた.その後も肺病変は増悪なく経過していたが腫瘍マーカーの上昇と不正性器出血の出現を認め,さらにエストラジオールの高値も認めた.腹部CTを撮影したところ,6 cm大に腫大した右卵巣と子宮筋腫を認めた.上記より,肺腺癌の卵巣転移が疑われた.エストラジオールの高値を認め,子宮筋腫と卵巣の合併切除を行ったところ肺腺癌の卵巣転移と診断された.術後,腫瘍マーカーの正常化とエストラジオールの低下を認め,クリゾチニブをアレクチニブに変更し治療を継続している.以上のことから,卵巣への転移性病変によるエストラジオール産生の可能性が示唆された.クリゾチニブ投与で経過良好であったが,エストラジオール産生卵巣転移により増悪したALK融合遺伝子陽性肺腺癌の1例を経験した.

  • 濵井 宏介, 玉本 聖佳, 西田 紋子, 谷本 琢也, 庄田 浩康, 石川 暢久
    2019 年 59 巻 3 号 p. 260-264
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.ALK阻害剤であるクリゾチニブは,ALK以外にもc-METやROS1などを阻害することで抗腫瘍効果を示す半面,複数の分子を阻害することによって他のALK阻害剤とは異なる有害事象を来すことがある.症例.67歳,女性.咳嗽を主訴に来院し,胸部CTにより肺癌が疑われた.気管支鏡検査でALK融合遺伝子陽性肺腺癌と診断され,クリゾチニブの投与を受けたが,複雑性腎嚢胞を発症したために治療を中止した.殺細胞性抗癌剤による治療を行った後に,四次化学療法としてアレクチニブ,六次化学療法としてセリチニブを投与したが,複雑性腎嚢胞の再燃は認めなかった.結論.クリゾチニブ投与後に複雑性腎嚢胞を発症したが,その後アレクチニブおよびセリチニブを用いて治療可能であったALK陽性肺癌の1例を経験した.

  • 北台 留衣, 川合 祥子, 木村 莉菓, 弥勒寺 紀栄, 細見 幸生
    2019 年 59 巻 3 号 p. 265-269
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.ペムブロリズマブはprogrammed cell death-1 ligand-1(PD-L1)陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺癌に対して適応を有している.有害反応として自己免疫の賦活化に伴う免疫関連有害事象が知られており,その1つとして,頻度は少ないがぶどう膜炎が報告されている.症例.52歳,非喫煙の女性.肺腺癌に対して1次治療としてペムブロリズマブ投与を開始したが,開始9日目に左眼の疼痛と眼球結膜充血を認めた.片側性であったことから細菌性結膜炎を疑い,レボフロキサシン点眼を開始したが症状は改善しなかった.眼科での精査と臨床経過から,最終的にペムブロリズマブによるぶどう膜炎と診断した.ステロイド点眼を開始したところ,速やかに改善した.結論.免疫チェックポイント阻害薬投与中に眼症状が出現した場合は,片側性であっても免疫関連有害事象によるぶどう膜炎の可能性を念頭に置く必要がある.

  • 糸魚川 英之, 島 浩一郎, 田中 太郎, 山本 雅史, 髙橋 典男, 佐竹 立成
    2019 年 59 巻 3 号 p. 270-275
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.転移性甲状腺癌が発見契機となった原発性肺癌はきわめて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.症例.68歳女性.前頚部痛にて受診.頚部CTで甲状腺腫大を認め,両側甲状腺腫大に対して甲状腺穿刺細胞診を施行し,悪性細胞を認めた.精査のため行った胸部単純CTで右下葉の結節影および縦隔リンパ節腫大を指摘され,当科紹介受診となった.気管支鏡検査を施行し,肺腺癌の診断となった.肺の病理所見と甲状腺穿刺液の細胞診の所見が合致し,肺腺癌の甲状腺転移と診断した.無症候性多発脳転移を伴っていたが,EGFR(epidermal growth factor receptor)遺伝子変異陽性にてエルロチニブで治療を開始し,肺腫瘍,甲状腺腫瘍は改善傾向となっている.結論.甲状腺転移が発見契機となった原発性肺腺癌の1例を経験した.上皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤の投与により,脳転移も含めて改善を認めた1症例である.

  • 土田 浩之, 棚橋 雅幸, 雪上 晴弘, 鈴木 恵理子, 吉井 直子, 丹羽 宏
    2019 年 59 巻 3 号 p. 276-281
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.縦隔原発胚細胞腫瘍は非常に稀な疾患であり,その治療として化学療法施行後に腫瘍マーカーが正常化した場合は,残存腫瘍に対する手術が推奨される.症例.症例は49歳男性で,胸部CTで前縦隔に腫瘤を認め,CEA,CYFRA,hCGの上昇を認めた.CTガイド下生検で,縦隔原発混合性胚細胞腫瘍と診断した.BEP療法を4コース施行し,全ての腫瘍マーカーが正常化したため残存腫瘍に対し手術を施行した.完全切除が得られたが,viable cellの残存を認めたため,追加で救済化学療法を施行した.現在,術後4か月,無再発で経過中である.結論.今回我々は,化学療法後に手術を施行し,完全切除が可能であった縦隔原発胚細胞腫瘍の1症例を経験した.

  • 山根 高
    2019 年 59 巻 3 号 p. 282-286
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.Garcin症候群は頭蓋底部の腫瘍疾患などにより一側性多発性に脳神経障害をきたしたもので,四肢麻痺および頭蓋内圧亢進症状を認めない.今回我々は,肺腺癌に対する化学療法中に左耳痛,左顔面神経麻痺が順に出現し,診断に苦慮したGarcin症候群の1例を経験したので報告する.症例.54歳男性.20XX年3月に腰痛を主訴に近医で転移性骨腫瘍が疑われ,当科紹介となった.精査にて原発性肺腺癌(cT1bN2M1b Stage IVA)と診断された.疼痛コントロール目的で腰仙骨部骨転移に対して緩和的放射線療法後,化学療法を導入した.20XX+1年5月より左耳痛,6月より左顔面神経麻痺が出現した.頭部造影MRIでは,左顔面神経麻痺などをきたす器質的疾患は指摘できなかった.臨床的にRamsay Hunt症候群を疑い,バラシクロビルとステロイド投与を行ったが,症状の改善はごくわずかであった.8月に左反回神経麻痺や舌咽神経麻痺が出現し,頭部造影MRI再検にて左頚静脈孔付近の頭蓋底骨転移を認めた.結論.肺癌加療中に耳痛や顔面神経麻痺が出現した場合には,頭蓋底骨転移を鑑別診断に挙げる必要がある.

  • 佐塚 まなみ, 筑井 恵美子, 濱谷 広頌, 野木森 智江美, 山田 浩和, 山本 寛
    2019 年 59 巻 3 号 p. 287-292
    発行日: 2019/06/20
    公開日: 2019/07/02
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.癌性髄膜炎は予後不良で,従来の治療法の予後改善効果は限定的であると知られている.非小細胞肺癌の治療中に癌性髄膜炎を合併し,osimertinibの投薬とOmmayaリザーバーからの髄液のドレナージが有効だった1例を経験したので報告する.症例.78歳,女性.EGFR遺伝子変異陽性の左上葉肺腺癌(cT2aN3M1b,stage IV(肺癌取扱い規約第7版))に対する治療中に頭痛,嘔吐,認知機能低下が出現した.頭部CTで脳室拡大を認め,髄液細胞診で腺癌細胞を認めたことから,水頭症を伴う癌性髄膜炎と診断した.Osimertinibを投薬し,水頭症の症状緩和を目的としてOmmayaリザーバー留置術を施行し,髄液のドレナージを行ったところ,徐々に認知機能や身体機能の回復がみられ,1年以上にわたって病状の進行を抑制できた.結論.癌性髄膜炎による水頭症は認知機能や身体機能の低下を来すことがあり,治療困難となることがあるが,上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬,Ommayaリザーバーからの髄液のドレナージによって症状の緩和や予後の改善を得られる可能性が示唆された.

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