肺癌
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64 巻, 1 号
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総説
  • 吉田 達哉
    2024 年 64 巻 1 号 p. 2-10
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    抗PD-1/L1(Programmed death receptor-1/Programmed death ligand 1)抗体などの免疫チェックポイント阻害薬単剤療法および化学療法との併用療法は,進行期非小細胞肺癌患者を対象とした複数の第3相試験によって,標準的な化学療法と比較して,良好な治療成績を示し,進行期非小細胞肺癌患者の初回治療の標準治療となっている.さらに最近では,免疫チェックポイント阻害薬の適応は,早期肺癌における周術期治療および小細胞肺癌患者に対する初回治療にも拡大している.一方で,既存の免疫チェックポイント阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬を含めた複合免疫療法では,治療効果が不十分な症例や一旦奏効はしたが耐性をきたす症例が数多く存在する.また治療効果予測因子である腫瘍細胞上のPD-L1発現は,免疫療法の治療効果を確実に予測できるバイオマーカーではないことも問題点となっており,さらなるバイオマーカーの同定が重要となっている.本稿では,肺がんにおけるがん免疫療法の現状と問題点とともに,新規の免疫チェックポイント阻害薬や二重特異性T細胞誘導抗体などの新規免疫療法の可能性および免疫療法のバイオマーカー開発の方向性について概説する.

原著
  • 松浦 陽介, 内堀 健, 二宮 浩範, 一瀬 淳二, 中尾 将之, 奥村 栄, 西尾 誠人, 文 敏景
    2024 年 64 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    目的.非小細胞肺癌の周術期治療は個別化に向かい,今後は手術症例でも,次世代シーケンサーを用いたマルチプレックス遺伝子検査が求められる.手術検体からマルチプレックス遺伝子検査を成功させるためには適切な検体処理が重要となる.そこで本研究では,当院の肺手術検体処理方法を検証し,手術検体からマルチプレックス遺伝子検査を成功させるための指標を得ることを目的とした.方法.手術予定の臨床病期IA3~IIIA期非小細胞肺癌30症例を前向きに検討した.各症例の迅速病理診断用検体を10%ホルマリン,手術検体を20%ホルマリンで固定し,各々をオンコマイン™ Dx Target TestマルチCDxシステム(ODxTT)に提出した.各検体のODxTTの解析成功率,各検体から抽出された核酸濃度を比較した.また,手術検体から抽出された核酸量と検体処理行程に要した時間との相関を評価した.結果.いずれの検体もODxTTの解析成功率は100%であった.抽出された核酸濃度は,DNA,RNA共に手術検体の方が有意に高値であった.核酸量と検体処理行程に要した時間とには有意な相関は認められなかった.結論.20%ホルマリンで固定した肺手術検体でもODxTTは解析成功率100%であり,推奨通りの処理が難しい施設では,その使用が検討され得る.

症例
  • 榛沢 理, 河原 達雄, 貫井 義久
    2024 年 64 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象の中でもぶどう膜炎は稀である.肺癌の網膜転移を思わせるような結節性の病変を伴う片側性のぶどう膜炎を発症時には呈し,ステロイド治療開始から1か月後に反対側にも呈した症例を報告する.症例.59歳女性.右上葉原発肺腺癌の術後再発に対する,カルボプラチン+ペメトレキセド+イピリムマブ+ニボルマブ療法開始後7週で左眼の急激な視力低下を生じた.視神経炎および後部ぶどう膜炎と診断された.光干渉断層計では漿液性網膜剥離と結節状の病変がみられ,腫瘍の網膜転移と免疫学的有害事象によるぶどう膜炎との鑑別が困難であった.視力回復目的に,治療的診断でステロイド治療を開始すると,結節性病変が縮小し,網膜剥離も改善したが,減量中に反対側に病変が出現した.ステロイドの再増量で右眼視力は低下しなかったが,その後も左眼視力は十分には改善せず,左眼遮蔽用眼鏡を使用し,視力は右眼視力に依存した.結論.免疫チェックポイント阻害薬によるぶどう膜炎では,結節性病変を網膜に生じ,診断に難渋することがある.また,視力低下をきたし,生活の質に影響しうる.

  • 今尾 舞, 田中 悠也, 池内 美貴, 山本 浩生, 久米 佐知枝, 稲尾 崇, 門田 和也, 大塚 浩二郎, 大林 千穂, 鈴木 雄二郎
    2024 年 64 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.近年,胸部SMARCA4欠損の未分化腫瘍がWHO分類第5版で新たに分類され注目されている.一方で非小細胞肺癌の10%にSMARCA4欠損がみられると報告されているが,その臨床的意義などは明らかにされていない.症例.87歳,男性.胸部CTで右下葉肺癌を疑われ,当院に紹介された.精査にてSMARCA4欠損非小細胞肺癌(cT2aN3M1c,stage IVB)と診断した.PD-L1高発現でありペムブロリズマブを開始したが,呼吸状態の悪化を認め治療開始15日目に永眠された.治療開始13日目の胸腹部CTでは原発巣の増大に加え両側胸水の増加およびリンパ管症を疑う広義間質の肥厚を認めていた.剖検ではSMARCA4欠損の大細胞肺癌(yaT4N3M1c,stage IVB)と最終診断した.リンパ節転移が高度であり,顕微鏡的に両側副腎,甲状腺および肺のリンパ管内に転移を認めた.結論.ペムブロリズマブ投与後に急激な経過で死亡したSMARCA4欠損大細胞肺癌の症例において剖検を施行したため,文献的考察を加えて報告する.

  • 宮平 由佳子, 角 俊行, 鈴木 敬仁, 越野 友太, 池田 拓海, 渡辺 裕樹, 山田 裕一, 千葉 弘文
    2024 年 64 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.ROS1融合遺伝子陽性肺癌(以下,ROS1肺癌)は非小細胞肺癌の1~2%であり,希少な遺伝子変異である.ROS1肺癌は若年者,女性,非喫煙者に多く,病理学的に粘液を有する腺癌が多い.非小細胞肺癌は血栓塞栓症の発生率が増加するが,さらにROS1肺癌は血栓症リスクが上昇する.本症例は肺血栓塞栓症を契機にROS1肺癌と診断された.症例.46歳の男性が息切れと両下腿の疼痛のため受診した.造影CTで肺動脈および左大腿静脈に血栓と,右中葉に結節影と縦隔リンパ節腫脹を認めた.肺血栓塞栓症と診断し,直ちにヘパリン持続注射を開始した.縦隔リンパ節より生検し,右中葉肺腺癌cStage IVA,ROS1融合遺伝子陽性と診断した.ヘパリン持続注射からアピキサバンに変更し,クリゾチニブによる治療を開始した.3ヶ月後,血栓は消失し,原発巣およびリンパ節の縮小を認めた.血栓の消失および腫瘍の縮小は12ヶ月以上継続している.結論.血栓症イベントを有する若年肺癌患者は,希少遺伝子変異の可能性を考慮し,迅速な精査および抗凝固療法を行うことが重要である.

  • 原 大輔, 山田 響子, 近藤 竜一
    2024 年 64 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.Granulocyte colony-stimulating factor(G-CSF)の産生を伴う肺癌は一般に予後不良とされているが,手術切除により腫瘍随伴症状が消失しperformance status(PS)の改善につながる可能性がある.症例.89歳,女性.主訴は発熱,易疲労感,息切れでPS 2相当であった.右肺下葉に7.9×5.0 cmの充実性腫瘤を認め,血液検査上,WBC 17810/μl,血清G-CSF 211 pg/mlと高値でG-CSF産生肺癌を疑い手術を施行した.胸腔内に播種や癌性胸水を認めず根治的切除が可能と判断した.第5肋間開胸アプローチの上,腫瘍が中間気管支幹に進展しており中葉の温存は不可能と判断し,中下葉切除とした.切除検体のG-CSF染色は一部の腫瘍細胞の細胞質に陽性であった.術後の血清G-CSFは著明に低下を認めた.結語.今回高齢ながら完全切除により解熱がえられ術後PS 1相当まで改善された症例を経験した.G-CSF産生肺癌は腫瘍自体がG-CSF増殖因子として働くとの見地から可能な限り切除が望まれる.

  • 木村 脩太, 早坂 一希, 藤田 朋宏, 江場 俊介, 黒滝 日出一, 佐藤 伸之
    2024 年 64 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema(RS3PE)症候群は左右対称性で四肢末梢の圧痕浮腫を伴う滑膜炎をきたし,悪性腫瘍の合併が多いとの報告がある.肺癌に対する治療によりRS3PE症候群の症状が改善したとの報告は散見されるが,改善の程度を詳細に評価したものはほぼない.症例.63歳男性.両側四肢末梢の浮腫,関節痛を主訴に当院を受診し,精査の結果RS3PE症候群が疑われた.元来activities of daily living(ADL)は自立していたが,関節痛のため把握と歩行が制限されており,起居動作,移乗,移動,食事の基本的ADLが低下していた.CTで右肺上葉に腫瘤影を認め,右上葉肺癌の疑いに対して右肺上葉切除術を施行した.病理診断は肺腺癌,pT3N0M0 stage IIBであった.術翌日より浮腫は改善し,術後3日目には関節痛の改善がみられた.術後8日目時点での握力と6分間歩行距離は術前と比較して改善し,基本的ADLも改善した.結論.切除可能な肺癌に随伴したRS3PE症候群では,手術により症状が改善する可能性がある.

  • 安井 裕美, 松本 正孝, 百道 光亮, 西井 雅彦, 伊藤 彩希, 桂田 雅大, 河野 祐子, 高月 清宣, 西村 善博
    2024 年 64 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)産生腫瘍は予後不良であることが知られている.ROS1融合遺伝子陽性G-CSF産生非小細胞肺癌に対するROS1チロシンキナーゼ阻害薬(ROS1-TKI)の有効性は報告されていない.症例.56歳,男性.急速な進行を認めた縦隔腫瘍,白血球数異常高値で受診.診断の結果低分化肺腺癌(cTXN3M1c,stage IVB)と診断した.遺伝子変異の検索結果を待たずカルボプラチン,パクリタキセル,ベバシズマブ,アテゾリズマブを投与開始したが2コースでprogressive disease(PD)と判断した.状態悪化時に白血球数,血清G-CSFの上昇がみられた.シスプラチン,ぺメトレキセド,ベバシズマブに変更するも,2コースでPDとなった.ROS1融合遺伝子陽性を確認し,エヌトレクチニブを開始後,翌日より呼吸困難の症状は改善し,治療開始1か月半後のCTでは腫瘍の縮小を認めた.投与開始3か月後にPDとなりクリゾチニブへ変更したところ,再度腫瘍の急速な縮小を認めた.結論.G-CSF産生ROS1融合遺伝子陽性肺癌においてROS1-TKIが有効であった.

  • 堀口 寿里安, 大竹 宗太郎, 福冨 寿典, 小山 孝彦
    2024 年 64 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2024/02/20
    公開日: 2024/02/28
    ジャーナル オープンアクセス

    背景.Good症候群は胸腺腫に免疫不全を合併するまれな疾患であり,本邦では胸腺腫の0.2~0.3%に合併すると報告されている.症例.52歳,男性.X年,胸腺腫に対して拡大胸腺胸腺腫摘出術を施行し,病理検査で浸潤性胸腺腫と診断した.X+11年にcomputed tomographyで胸膜播種が疑われる所見を認めた.化学療法を実施後,X+15年に播種巣切除術を施行し,胸腺腫の播種と診断した.術後経過は良好であったが,術後4カ月目から1カ月で5 kgの体重減少を伴う慢性下痢症が出現した.精査で下痢の原因は特定できず,整腸剤や止痢剤で治療したが遷延した.偶発的に発見された早期食道癌に対して内視鏡的粘膜下層剥離術後に誤嚥性肺炎・敗血症を発症した.精査で低γグロブリン血症,B細胞の著明な減少とCD4陽性T細胞の減少を認め,Good症候群と診断した.免疫グロブリンの投与を開始したが,Good症候群の診断から5カ月後,肺炎から敗血症に至りX+16年に永眠された.結論.慢性下痢症はGood症候群の半数に見られる症状であり,Good症候群を遅滞なく診断できるよう念頭に置く必要がある.

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