目的:高齢社会を迎え,在宅療養要介護高齢者はますます増加の傾向にある.多くの研究で鬱状態は,これらの高齢者の健康状態に影響がある可能性が指摘されている.今回我々は,鬱状態が要介護在宅高齢者の生命予後,入院に影響があるか検討した.
方法:在宅療養中の65歳以上の要介護高齢者(要支援を含む要介護者)を対象とした前向きコホート研究(NLS-FE)参加者で,鬱評価が可能であった1,409名(平均80.1歳,男性489名,女性920名)を3年間フォローし,鬱の程度と死亡の有無,入院の有無を検討した.鬱のスケールはGDS-15,検定にはχ
2検定とCox回帰分析を用いた.GDS-15スコア6点以上を「鬱」,11点以上を「高度の鬱」とした.
結果:3年間の観察で,死亡は284人(在宅死53人,入院死231人),入院は576人であった.単変量解析で,生命予後と関連を認めたものは,性別,年齢,ADL,Charlson comorbidity index,鬱の存在(GDS-15 0~5点を対照とし,GDS-15 6~10点でハザード比(HR)1.36,95%信頼区間(CI):1.05~1.77,11~15点でHR:1.58,95%CI:1.14~2.20)であった.入院の有無と関連を認めたものは性別,ADL,Charlson comorbidity index,鬱の存在(GDS-15 0~5点を対照とし,GDS-15 6~10点でHR:1.27 95%CI:1.06~1.52,11~15点でHR:1.40,95%CI:1.11~1.77)であった.しかし,多変量解析では,生命予後と性別,年齢,ADL,Charlson comorbidity indexは関連を認めたが,鬱との関連を認めなかった.(GDS-15 0~5点を対照とし,GDS-15 6~10点でHR 1.24,95%CI:0.94~1.63,10~15点でHR:1.43,95%CI:0.95~1.98).同様に入院では,ADL,Charlson comorbidity indexで関連を認めたが,性別,年齢とGDS-15では関連を認めなかった(GDS-15 0~5点を対照とし,GDS-15 6~10点でHR:1.20,95%CI:0.99~1.46,11~15点でHR:1.23,95%CI:0.95~1.59).
結論:要介護在宅高齢者において,鬱の存在と生命予後ならびに入院との間に有意な関連を認めなかった.
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