産業クラスターとは,一言でいえば,産業の生態系である.これまで産業は使用する原材料や製品の特性に応じて分類されてきた.それに対して,クラスターには,関連産業や地方政府,研究機関,大学といった関連諸機関が含まれている.
クラスターを構成する要素としては,原料,部品,製造装置,保守・点検サービス業,人材,情報提供,物流,大学,研究機関などがある.しかし,それぞれの産業クラスターの地理的範囲を一義的に確定することは,困難である.
産業クラスター戦略の目標は,古典的な産業集積の利益に固執することではない.そうではなく,地域ベースで,関連産業と連携して質的な向上を実現するという新しい試みであるといえる.
これまで産業クラスターや産業集積の議論において企業家活動の視点から統一的に分析された研究はほとんど存在しない.既存の産業クラスターや集積の分析において企業家活動は正当な地位を与えられてこなかったということができる.本稿では,企業家活動の議論を再検討することによって,企業家活動と産業クラスター(産業集積)の創造・展開のプロセスとの関係を統合的に分析できることを示す.企業家活動の視点から産業クラスターの創造・展開のプロセスを分析することによってダイナミックな議論が可能となり,産業クラスターに関する新たな理論展開への道を拓くことができる.
産業クラスターを構成する企業の出自に着目すると,スピンオフが連続的に生じている例がいくつも見られる.ところが,このような現象の中での企業生成のプロセスについてはこれまでほとんど明らかにされてこなかった.本稿では,起業者の行為が別の異なる起業者に対してどのような影響力を及ぼすかという視点に立ち,起業者学習という概念を用いながら,産業クラスターの形成段階においてスピンオフが連鎖するプロセスについて明らかにする.
作業統合を特徴とするセル生産は,分業を特徴とするライン生産と対置され,形態の類似性からボルボの生産方式に例えられることがある.しかし,ボルボ方式とセル生産は生み出された背景が異なる.その上,ライン生産は分業という技術的側面から,セル生産は人間関係論的な側面からと説明原理を使い分けることは適当ではない.そこで,本稿では,セル生産による生産性増大の仕組みを分業論との整合性を図りながら説明する.
日本的生産システムを海外に移転するためには,日本人派遣社員が不可欠であると言われる.このような日本的生産システムの海外移転に情報技術はどのような影響を及ぼすのだろうか.デンソーの事例を分析した結果,情報技術の利用により,日本人に依存しないで生産システムを海外移転することが可能であることが明らかになった.情報技術のもつ歯止め機能と調整の自動化機能が,情報技術による生産システムの移転を可能にした.