企業固有の優位性,先発者の優位性,規模の経済の概念に基づいて,企業の国内競争力と多国籍度との関係を調査した.大手企業は経営資源を多く持つため,多国籍度が高いと思われる.しかし日本企業のデータの分析結果からは,企業規模と国際経験をコントロールすると,日本国内市場のリーダー企業は競合他社に比べて,多国籍度が低くなりがちであり,多国籍度に関してはリーダーが後続企業のあとを追っている状況がうかがえる.
マルチレベル分析は,個人,グループ,企業,産業,地域,国など異なるレベルの現象を調査することで,個人や組織の行動やパフォーマンスを説明する多様な原因やその影響を描き出すのに利用される.シングル・レベルでのアプローチは,しばしば統計解析上の問題を生じさせ,また理論構築について誤ったインプリケーションを与えることがある.本稿では,経営学研究において,何故マルチレベル分析が伝統的なシングル・レベル分析に比べて有用であるかを説明すること,そして経営学の研究者にマルチレベル分析を経営学研究に使うことを推奨し,その価値を強調することにある.
本論文は,集団レベルのタスクと目標の相互依存性,集団凝集性の個人の進取的行動(proactive behavior)への影響を,研究開発部門を対象とした調査によって明らかにした.調査結果からは,仕事の相互依存性と集団凝集性が高い集団では,そこに所属するメンバーの進取的行動が促されることが示された.また,自律的に仕事が設計されている人ほど,進取的行動が促されるが,目標が集団で設定されている集団であるほど,その影響が強くなることが示された.
本研究では,Datta, Guthrie, and Wright(2005)が米国製造企業を対象にして行った高業績HRMシステム(high performance work systems:HPWS)と企業業績との関係に 与える産業特性の調整効果に関する実証的検証について,日本の製造業サンプルを用いた発展的なリプリケーションを行う.日本企業142社の人事部,経営企画室双方の質問紙調査データ,及び既存のアーカイブデータを組み合わせたマルチレベル分析の結果,日本と米国とでは,高業績HRMシステムが異なる産業特性の上で有効である可能性が示唆された.
本稿では,組織ルーティン論に依拠した新しい視点から経営理念の浸透を捉え,理念浸透の次元及び影響要因について質問紙調査を用いて検討した.その結果,共感・行動への反映・深い理解という理念浸透の3次元構造が見出された.また,組織 成員の情緒的コミットメント,上司の経営理念に対する姿勢が理念浸透に与える影響を明らかにした.以上の結果を踏まえ, 経営理念の浸透がなぜ難しいのかについて考察を行った.
プラットフォーム・リーダーであるハブ企業は,ニッチのどのような行動を促せばエコシステムを繁栄させられるのか.エコシステムの繁栄のメカニズムを解明する上で鍵となるのが,マルチプラットフォーム環境下におけるニッチの多様な行動で ある.本研究では,相互補完的にエコシステムの健全性に貢献しうるニッチを,プラットフォームへの依存度の動態的な変化から四つに分類し,ニッチの望ましい行動とそれを促すハブ企業の戦略を複眼的に分析した.
本研究は,人事評価・処遇制度としての目標管理に対する従業員の受容性に影響を与える制度運用のあり方を明らかにし,制度運用と受容性の関係を公正性の観点から考察する.研究開発組織を対象にした分析の結果,制度の枠組みを超えるものを含めた制度運用の調整が従業員の分配的及び手続き的公正の認識に影響を与え,最終的に受容性を改善することが示された.