アメリカにおいて危機管理という学問を形成し概念化を進めてきたのは,組織論を中心とする管理科学だが,日本ではそのような理論構築はされていない.そこで,アメリカ危機管理の枠組みを援用して組織の構造と設計の観点から検討すると,危機管理の実行能力を向上させるならば,現場レベルにおける道具的組織設計および,政府レベルにおけるラインの創出が必要であることがわかった.
本論文の目的は,急患対応システムである救急医療を,危機管理の一つの具体的な組織モデルと見なし,その特徴と問題点を探ることである.従来の臓器別分業体制を超えた救急医療は,緊急時の初療に限定しつつ広い病態をカバーし,他科との協働をその本質とする.だがその内部では,その対象や組織構造について異なる意見が存在する.これらを詳細に分析することで,危機管理型組織が実践面で持つ問題点を指摘し,解決法を探る.
東日本大震災によるサプライチェーン寸断に対し,在庫増加,標準部品採用,供給のデュアル化,海外移転などが提案されているが,災害のショックからの心理的過剰反応も目立つ.本稿は,グローバル競争時代の広域大災害に対するサプライチェーン強化策は,競争力(competitiveness)と頑健性(robustness)の両立を目指すべきだと主張する.相対的に小さなコスト負担で,災害からの復旧速度(たとえば2-3週間での全面復旧という目標)を確保する代替的方策として,設計情報の可搬性(design portability)を基礎とした「サプライチェ ーンのバーチャル・デュアル化」を提案する.
災害直後には,既存の規範が一時的にせよ遠のき,災害ユートピアやパラダイスという事態が現出し,そこで人々は互いに助け合うという即興を織りなす.しかし,即興を交えた相互扶助は短期間で消滅する場合が多い.そこで,本稿では,災害時において,災害ボランティアや災害NPOが演じる即興の内容を明らかにした上で,東日本大震災の事例を交えて,各地で即興を演出するための方略を提示する.
本稿の目的は企業事故研究の構図をもとに,安全文化の理論的特徴を明らかにすることである.企業事故研究の分析アプローチの前提を検討した結果,安全文化は,事故を引き起こさない理念的な組織を想定し,そこから規範的に導出された組織文化を概念化したものであるという理論的特徴を持つことが明らかになった.
本論文では,組織に存続の危機をもたらすようなリスクが過小評価される現象について,リスクを外敵などのリスク1と天災や現代社会のリスクであるリスク2に分類することで説明を試みた.リスク1に適応した人間の認知のシステム1がリスク2には適切に対応できず,人間の認知の中で論理と分析を司るシステム2もまたリスク2に適切に対処できるには至っていないことが原因のひとつである可能性が見出された.
「探索」と「活用」のバランスを考察するために,携帯電話端末のプラットフォーム・モデルと派生モデルの開発を題材に分析を実施した.プラットフォーム・モデル,派生モデルの双方で競合組織を上回る開発効率が実現されている組織が存在し,これらの組織ではプラットフォームに付随するリスクが適確に管理されていることが示された.「探索」と「活用」のバランスの観点から,プラットフォーム戦略に関する示唆が得られた.
本研究は,関係的組織能力という考え方を中心にすえ,多角化分野で競争優位を構築したプロセスについて明らかにするものである.自動車用ばねからHDD用サスペンションへと多角化し,突出した成功例となった日本発条の事例を取り上げ,そのプロセスをやや長期に渡って分析した.その結果,既存事業で培ってきた組織能力をベースにしながら,進出先分野における特定企業との多段階の相互作用が,当該分野で必要とされる関係的組織能力の発展段階的な形成に大きな意味をもつことを明らかにした.