本稿の目的は,ナラティブ・アプローチの実践現場で実際に行われていること,および,その実践現場における組織論研究者の役割について明らかにすることである.富山大学での障害学生支援の現場での実践についての振り返りを通じて,ナラティブ・アプローチの実践を,新たなナラティブを共同構成してより良い現実を招く変化を生み出し,そのプロセスを実践のコツとして組織内外で物語る,創発的循環プロセスとして提示した.加えて,その実践現場に関わる組織論研究者の役割として,多様なナラティブを引き出す装置,実践のウィットネス,実践プロセスの管理者の3つを提示した.
実践理論・技法の論理体系として組織開発(organization development)に関して,その特性から,研究者・実践家達の抱く誤解と混乱は少なくない.そこで本論文は,OD関連文献研究だけでなく,ODコミュニティの運営体験を背景に,アクションリサーチに基づく変化のアクションと,多様な意味生成に基づく事後の冷静なリフレクションが,ODの価値観を実現する持続的相互循環学習であるというODの本質理解を可能にする仮設的展望を提示する.
本研究は,日本のオンライン証券業界を対象として,黎明期の新市場の中で戦略グループが誕生し支配的となっていくプロセスと,その中で模倣が果たす役割について,理論的かつ実証的に検討することを目的としている.これまで密度依存理論において議論されてきた競争効果と正当性効果との力関係の変化を計測していくことで,黎明期の企業間競争で模倣されることのプラスの効果とマイナスの効果の二面性を実証的に示した.
本稿は,リーダーの変革型リーダーシップがフォロワーの組織市民行動へ及ぼす影響のメカニズムを検討した.具体的には,先行研究では理論的な示唆にとどまっていた,組織と個人との結びつきに関するフォロワーの知覚に着目した.そのことを踏まえ,本稿は組織コミットメントに着目し,マルチレベル分析によりその媒介効果を検討した.その結果,組織コミットメントが,変革型リーダーシップと組織市民行動を媒介することが示された.
組織は,不祥事発生等に際して損なった正統性を取り戻すために外部の要請に適応する.しかしそれがかえって別の問題を生じさせることがある.本研究は,公共調達制度改革を題材にその理由を明らかにする.一般社会からの圧力が高まると,それを背景に組織内で外部への適応戦略を主張する部門が優位に立ち,一方で実効性を主張する部門は自らの説明責任を回避する.その結果,実効面で問題がある方策が安易に選択されうるのである.
中央研究所主導の開発や事業部主導の開発といった,研究開発活動の組織的配置に関する研究や議論は数多く存在するが,組織的な配置の違いが研究開発者たちによる問題解決プロセスにどのような違いを生み出すのかはこれまで明らかにされてこなかった.本研究は,ArFレジスト材料産業三社の比較分析から,組織的配置により問題解決プロセスが三点で異なることを明らかにし,それらの違いが生じる理由を考察した.