本稿では,大手企業を対象とする質問票から得た定量データの分析を中心として,日本企業の事業戦略の現状とその問題点を検討する.データ分析を通じて明らかにされるのは,戦略目標や市場環境などの事業戦略にかかわる項目と経営成果との関係である.その結果の考察を通じて,日本企業の事業組織には,事業戦略の基本的な組み立て方をはじめとする課題が存在している可能性が示唆される.
本論では,日本企業における実際の戦略策定とその執行に求められる能力を念頭に置きながら,戦略理論研究がそれらの能力向上にいかに貢献可能か,そして実学的見地から新たに求められる有望な研究領域は何かを明らかにしようとするものである.
日本企業の実務家にとって有用な戦略論を提供するために,経営学者はどのような構えをとるべきか.因果論理のシンセシスとしての戦略は,本来は「長い話」であった.しかし,近年の戦略論は「短い話」に終始しがちである.戦略論を本来の姿である「長い話」へと押し戻していくことこそに,実務家でもコンサルタントでもない経営学者の役割がある.そのひとつの試みとして,「ストーリーの戦略論」という視点を提示する.
戦略の実務家教育の問題は,成功事例の解釈は学べても,戦略の構想の仕方が身に付かないことである.ゆえに,戦略構想プロセスの研究が必要である.いくつかの日本企業は,バブル崩壊後に事業の選択と集中によって収益性を回復したが,同時に成長の原資を手放してしまった.現在の不況を脱して日本企業が再成長に向かうとき,同じ轍を踏まないために,長期戦略を構想し,短期の意思決定をそれに連動させることが焦眉の課題である.
理論は一般にAならばBという構造を持つ.戦略論も例外でなく,この手の定石を見つけようと努める研究者は少なくない.しかし,戦略論に限って言えば,問題は特定のコンテクストでAが成立するか否かを見極めるところにある.これが,定石を開発する以上に難しい.たとえば2009 年3月時点でテレビはライフサイクルのどのステージにあるのか.このような見立ての研究,または時機の読解に関して戦略論は絶望的に立ち後れている.
特定地域に形成された金型産業集積がどのように市場と連結しているのか.集積内の金型企業は市場連結を実現するために,いかなる市場戦略を採用しているのか.本研究では,中国有数の金型集積地である浙江省,上海・蘇州,大連,長春の4 地域を事例として取り上げ,需要関連と技術関連の各要素を関連付けながら,中国各地域の金型企業の市場戦略を分析し,その類型化を試みている.
壁・パーティションをなくし,個人席を共有化したノンテリトリアル・オフィスが注目を集めている.このオフィスが効果を発揮するには,「自由に動き回り,所属するプロジェクト・チームを越えて様々な人とコミュニケーションすること」「プロジェクト・メンバー同士で集まり,密にコミュニケーションすること」の両方が重要となる.そのためには「適切な空間密度」が必要だということが本研究の事例分析から示唆された.