本稿では,多様なエージェントから構成される複雑なシステムにおける意思決定問題に対し有効な共創的意思決定の方法論を提案する.不確定目的,変動環境,限定合理性といった不完全情報下で意思決定するシステムモデルを,人工エージェントモデルと関連づけて提示し,特に限定合理性問題に対する,計算機実験を中心としたアプローチの例を示す.また,共創的アプローチで扱われている他の研究例にも言及する.
近年,計算組織理論が着目され,エージェントを用いた社会組織のシミュレーションが盛んに行われている.しかし,このアプローチはシミュレーション結果の妥当性という根元的な問題があり,具体的な方法論も確立していない.そこで,本稿では社会組織シミュレーションにおける妥当性検証に焦点をあて,エージェントの設計要素を変更することによって妥当性を検証するクロスエレメント検証の有効性や意義について議論する.
本稿は,実験経済学とマーケット・マイクロストラクチャー理論(MMS)の観点から,市場とは何かを論じる.実験経済学は経済をゲームとして再現して人間にプレイさせることで分析する方法であり,MMSは市場は取引を秩序づける主体の活動を内生的に説明する理論である.これらを簡単に説明し MMSに基づく実験を紹介することで,市場が売手と買手だけ ではなく取引を秩序づける主体を含む組織であることを明らかにする.
本稿では,コーポレート・ガバナンスの最も単純な形態,すなわち株主支配型企業と経営者支配型企業の2ケースを実験環境で作り出し,具体的に実験を行い,そうした2つの企業ガバナンス環境下で得られた実験データを用い,経営者報酬,社会的厚生,バブルの発生等を比較した.
連合形成は,組織のパワーダイナミクスとの密接な相互作用が注目され,実験による研究が盛んになされてきた.本稿では,連合形成が組織のパワー構造に変動をもたらす機能に焦点を当てながら,これまでの実験研究の知見が,組織のパワーダイナミクスのメカニズム解明にもたらす成果について議論し,実験による研究アプローチが組織科学研究にもたらす利点と限界に論及して,今後の研究へのインプリケーションを試みた.
意思決定の規範的研究には,人間の意思決定は事前に設定された何らかの理由に基づいておこなわれるという前提がある.しかしながら,そのような認識は多くの実験研究によって修正を迫られている.人間は意思決定に際して必ずしも事前の理由を必要としないし,事前と事後とで理由が入れ替えられたり,事後的に想起された理由が誤っていたり,他人に理由を説明するときにはそうでないときと異なる理由が採用されたりする.
承認図メーカーへの転換により競争力を向上させたメーカーをケースに,人材形成システムであるゲストエンジニア制度の貢献を分析した.ゲストエンジニア制度は技術者の高度な能力を効率的に形成する仕組みを持ち,そこで形成された能力が競争力向上に貢献していた.能力の形成は企業の境界を超えて連続する技術者のキャリアが可能にしたものであり,協調的な企業間ネットワークの存在が人材形成にプラスの効果をもたらしていた.
デジカメに使用されるモジュールは極めて画一的で,参入企業は類似のプラットフォームを形成しながら競争している.このような市場ではコモディティ化が起こり,企業は適正利潤を得ることができなくなる.コモディティ化を打破するために,企業は自社技術をブラックボックス化し製品のアーキテクチャを構成し直す必要がある.製品のアーキテクチャが変更されずに技術をブラックボックス化しても脱コモディティ化は達成できない.
近年,ブランド戦略の重要性が高まるにつれ,個性的でアイデンティティあるデザインの開発を重視した,新しい製品開発の在り方が求められている.それでは,このように特定要素の重要性が増し,その統合をより重視することが求められるようになった場合,企業はどのような問題に直面し,それにどう対処すべきであろうか.本稿では,自動車企業で行われた組織変革事例を通じて,これらの研究課題を明らかにする.