経営・組織論研究における歴史的転回では,経営・組織現象の「歴史的背景の研究」と,アクターが明示的に語った過去自体に焦点を当てる「歴史語りの研究」とが柱になってきたが,近年では後者が有力になっている.この状況認識に基づき,本稿では,この領域で今後有望になる研究を検討し,「埋め込まれた過去の使用」・「過去の使用の変化」・「イベント解明」・「ダイナミズム説明」という4つの針路を特定した.
組織における新旧のレトリカル・ヒストリーの移行の過程において,過去のレトリカル・ヒストリーを支持するアクターとの軋轢を回避するために経営者がいかなる対策をとるのかは,先行研究でもまだ十分に検討されていない課題である.本稿ではソニーを事例に,「歴史的距離の確保」という,過去に展開されたレトリカル・ヒストリーにあえて触れないという経営者の行動が,軋轢の回避として重要であることを明らかにした.
企業ドメインに関する既存研究は,ドメインの階層性や時間的展開とその変化要因に焦点を当ててきたが,本稿では,過去の経営者から継承した企業ドメインの歴史的側面が現経営者のドメイン定義に経路依存的な影響を及ぼすことを指摘する.電機からメディアへと事業転換して消滅した米国企業のウェスチングハウス社を事例にして,113年にわたる超長期間の考察から,戦略構想プロセスにおける歴史的要因を分析する必要性が示される.
国鉄の再建計画,その中でも計画の根幹をなす貨物輸送の需要想定を,実態と脱連結された組織ファサードの事例として取り上げ,その需要想定の下で国鉄内の部門間でどのような相互 作用が展開されたのかを,当事者たちへの聞き取り調査で得られたデータに基づいて明らかにする.
本稿は,Plowman et al.(2007)に代表される継続的変革研究が想定していない,変革の意図をもったリーダーシップが連続的創発プロセスを起動するメカニズムの実証を目的とする.このリーダーシップをトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)として仮説を構築し検証した結果,このメカニズムは実証されたが,TFLのメカニズムへの関与によっては,起動を妨げうることも示唆された.
大学発技術の上市(製品化)を促進するプロセス要因を明らかにするために,日本の技術移転機関(TLO)における39件のプロジェクトを調査した.質的比較分析の結果によると,上市の促進のために重点化されるべき活動は特許出願前の入念なプレマーケティングと,製品開発ステージにおける境界連結活動の2点である.この発見は,科学技術の商業化に関する適合的な価値連鎖パターンが日米で異なることを示唆している.